オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

歴史上のイケメン列伝②~アラビアのロレンス

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(From Pixabay)

 デヴィッド・リーン監督の往年の名作、映画『アラビアのロレンス』(1962年)。中学生の頃、初めて見て以来砂漠の雄大な景色と主人公ロレンスの複雑怪奇な人間性、当時のアラビア半島における欧州列強の勢力地図に強烈に惹かれ、映画を繰り返し見ると共に、さまざまな文献を読んではますます『アラビアのロレンスの世界』にのめり込むことになったのです。

 

  アラビアのロレンスことトマス・エドワード・ロレンスは、オックスフォード大学で考古学を学び、第一次世界大戦で従軍、カイロの陸軍情報部で軍用地図の作成に携わります。映画ではカイロ時代の彼(演・ピーター・オトゥール)の、どこかコミュ障ぎみで周囲から煙たがられており、マッチを点けては手で揉み消すというクセが、のちのち相次ぐ戦乱で肥大していく彼のマゾヒズムの萌芽を感じさせ、一瞬の動作でその人物の心理を描いて見せる、ロバート・ボルト脚本&リーン監督のゴールデンコンビの巧みな職人芸を感じさせます。  

 

  当時のアラビア半島オスマン・トルコ帝国の支配下にあり、さらにアラビア民族はハリトやハウェイタットをはじめとして多数の部族に分裂、領土や水源を巡って互いに紛争を繰り返している状況でした。

 

  ロレンスはおそらく様々な部族を統一して「アラビア」という概念を現実化してみせようとした最初の人物でしょう。彼は当時、アラブ独立戦争でリーダーであったマッカのシャリフ、ファイサル王子(映画では英国の名優、サー・アレック・ギネスが演じています)と親交を結び、互いに争っている部族の同盟軍を編成して、トルコ軍の要塞アカバに対し、「死の溶接炉」と呼ばれ、一度入ったら生きて帰れないと言われた灼熱のネフュー砂漠(Nefud Dessert…下の地図参照)を縦断して奇襲をかける作戦を考え出します。(源義経のひよどり越えとアイデアは同じですよね😅)「アカバのトルコ軍の大砲は海に向かって固定されている。まさかネフュー砂漠から敵が襲ってくるとは考えてはいまい。私は奇跡を起こしてみせる」と断言するロレンスに、「クレイジーだ」と反発しながらも、その決断力と強靭な意思、カリスマ性に次第に惹かれていくハリト族の長アリ(演・オマー・シャリフ)。

 

  アカバ攻略を果たし、アラブ人たちから神聖な白いアラブの民族衣装を贈られたロレンス。真っ白な衣装を風に翻し、陶酔の表情を浮かべながら列車の屋根の上、跳ねるようにダンスして、アメリカ人記者のカメラに笑いかけるロレンスの強烈なナルシシズム

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(From Pixabay)

  しかしロレンスの栄光は、アカバ攻略を頂点にして次第に翳りを見せ始めます。トルコ軍の物流を絶つ為に、ダイナマイトで次々と鉄道を爆破するというゲリラ作戦を繰り返すロレンスたち。(ロレンスのゲリラ戦法は、後年ベトナム戦争において、ベトコンたちに戦いのヒントを与えたと言われています)しかし長距離移動を強いられる作戦の間にアラブ人の戦士たちは次第に疲弊し、ロレンスは可愛がっていたお付きの少年二人をも失うことになります。

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  そしてロレンスは、戦いの中で、自分たちの利益の為に略奪と殺戮を繰り返すアラブ人たちの姿を目の当たりにし、彼らのうち大多数には「アラブ独立」というひとつの概念、理想を植え付けるのは未だ無理なのだ…と、絶望的な結論を下すに至ります。また、ロレンスたちが命がけで戦っている間、サイクスピコ条約に代表されるように、欧州列強は第一次世界大戦後に旧オスマン帝国アラビア半島をどのように分割統治するか、秘密裏に交渉を進めていたのです。


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(ロレンスの自伝『知恵の七柱~Seven Pまillars of Wisdom』に掲載された写真)

  そして、ロレンスにとって運命の日がやって来ます。トルコ領ダルアの占領作戦の為、現地人に化けて偵察に出かけたロレンスは、同性愛者の司令官に捕らえられ、情交を迫る彼を拒否した為に、一晩中鞭打ちの刑を受けることになります。金髪碧眼、白い肌のロレンスに欲望を滾らせるトルコ人司令官に、アカデミー賞俳優(『シラノ・ド・ベルジュラック』)であり監督でもあったホセ・ファーラー。わずか10分ほどの登場なんですが、その存在感に圧倒されます。


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  ヲタクは前にも述べたように、映画を見てトマス・エドワード・ロレンスその人自身に興味を持ち、「アラビアのロレンス」(中野好夫著/岩波新書)、彼の自伝「Seven Pillars of Wisdom」を読みましたが、自伝の中で彼は、この一夜について微に入り細に入り、しかも淡々と記述しているんですね。かえってこう……微かな狂気さえ感じる文章でした。

 

  この一夜を境にして、ロレンスの人格はどこか、崩壊してしまったようです。それと同時に、戦いにおいて、大義よりも殺戮を繰り返すことに次第に快感を覚えていくロレンス。ダマスカス進軍の途中、ある村で大量殺戮を行ってきたトルコ軍と遭遇したロレンスは、「Enough. Stop.(もう十分だ。やめろ)」というアリの制止も聞かず、狂ったように銃を振り回し、「No Prisoners!(捕虜など許さぬ。皆殺しにせよ)」と叫び続け、以前はあれほど忌み嫌っていたジェノサイドの罠に、自ら陥っていくのでした。

 

  度重なる戦いによって徐々に引き出される自らの残虐性に戦慄し、アラブ独立という大義が、当事者であるアラブ人たちには理解されず、他でもないロレンス自身もまた、イギリスやフランス、ロシアの帝国列強に利用される一つの駒にしかすぎないことを知った時の彼の底知れぬ絶望感。

 

  全ての夢破れ、アラビアの民族衣装を脱いで英国陸軍の軍服に着替え、軍用トラックに揺られてダマスカスを去るロレンスの瞳は、何も映してはいない。絶対的な虚無。彼の乗ったトラックをオートバイが追い抜いていく乾いた音。帰国後にオートバイ事故で46才の若さで世を去る彼の、まるで死の序曲のように…。

強烈な余韻の残るラストでした。

 

 作品賞をはじめ、アカデミー賞7部門を獲得した名作です。

 

余談ですが、ヲタクの推しジャック・ロウデンがゲームソフト「バトルフィールド1」でアラビアのロレンスを演じています。映画でロレンスを演じたアイルランド人俳優ピーター・オトゥールはダークヘアを金髪に染めていましたが、ジャクロくんは元々金髪碧眼なので、イメージぴったり😍誰かリメイクしてくれないかな~🎵


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映画で世界旅行✈️👜③~『LIFE❗』グリーンランド~アイスランド~ヒマラヤ山脈

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(Greenland from Pixabay)

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  世界を見よう、危険でも立ち向かおう

それが人生の目的だから

…をスローガンに掲げるアメリカの写真雑誌『LIFE』。そこで16年間にわたりネガの管理者としてコツコツ働いてきたウォルター(ベン・スティラー)。より高いポジション、より多いサラリーを求めて企業を渡り歩き、ステップアップが是とされるアメリカで、こんな長い間同じ企業に勤めるって珍しいケース😅

 

  ウォルターはいつでもどこでも妄想モードに突入しちゃうので、周囲から小バカにされてるオタクくん(キモチわかるわ…。もちろんウォルターのほう 笑)自己完結の妄想癖は大いに理解できるのですが、なぜか彼、マッチングサイトに登録していて、同じ職場で毎日顔合わせてるシェリル(クリステン・ウィグ)に、匿名で交際を申し込んでる(…そこまでいくと、さすがにこの人大丈夫かな?と思う😅) そんな彼だけど、誠実で責任感の強い仕事ぶりから、『LIFE』随一のカリスマ写真家オコンネル(ショーン・ペン)からの信頼は絶大で、「今まで長年ありがとう」と、記念のお財布をプレゼントされるほど。

 

  ところが彼の日常は、『LIFE』誌がデジタル化の波に押されてオンライン化され、ついに廃刊の運びになったことで一変することに。オコンネルが撮影した、最終刊に使う表紙のネガNo.25をすぐに持ってくるよう会議で上司に命じられたウォルター、保管庫を開けてたちまち真っ青に。なんと、No.25のネガだけがなくなっていたのです❗

 

    いったいネガはどこに行ったのでしょうか?

 

オコンネルがネガを送るのを忘れて持ち歩いているのだと考えたウォルターは、オコンネルを追いかけようと思い立ちます。携帯も持ち歩かない超アナログ派のオコンネルの居場所を突き止めるには、直近に彼が撮影した写真から、今いる場所を類推するしかない。こうして、グリーンランドアイスランドヒマラヤ山脈と、ウォルターの世界縦断、壮大なアドベンチャーが始まるのです。


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(Iceland from Pixabay)

 

とにかく、次々と画面に現れる雄大な自然が素晴らしい❗ 

 

  グリーンランドから大酒飲みのパイロット(ドラマ『トラップ~凍える死体』やファンタビのアイスランド人俳優オラフル・ダッリ・オラフソン。出番はちょっぴりだけどスゴイ存在感)のヘリに同乗し、ヘリから下を航行するアイスランド行きの船にまっ逆さまに飛び降りたり(もちろん北海の厳寒の海に落ちてしまい、サメに追いかけられる😅)、アイスランドでは火山の爆発に遭遇したり……とアクション要素も満載🎵いつも妄想モードなオタクくんなので身体能力はさほどないのかと思いきや、スケボーがめちゃめちゃ得意なウォルター、大自然の中をスケボーで大疾走でビックリ(笑)

 

  ウォルターがヘリから船に飛び降りる時に、デヴィッド・ボウイの「Space Oddity」(宇宙に飛び立つトム少佐と管制塔の会話を歌った歌)が流れてヲタクのテンション爆上がり🎵遡って、グリーンランドの酒場、ウォルターがヘリに乗るのを迷っている時(何しろオラフソンのパイロットが酔っ払ってベロベロだからね 笑)妄想の中で😅シェリルが彼を励ます為に歌ってくれたのもこの歌です。

Ground Control to Major Tom
「管制塔よりトム少佐へ」

Ground Control to Major Tom
「管制塔よりトム少佐へ」

Take your protein pills and put your helmet on
プロテイン服用後、ヘルメットを装着されたし」

 

  果たしてウォルターはオコンネルに会うことができるのか?そしてネガNo.5はどこに?


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(Himalayas from Pixabay)

 雄大大自然に目を奪われ、ウォルターの大冒険にハラハラドキドキ、そして ラストのオチに気持ちがほっこり。往年の大女優シャーリー・マクレーンが、何をやっても上手くいかない、誠実だけど不器用な息子をいつも温かく見守り、ピンポイントでベストなアドバイスをくれるステキなママを演じてサスガです。

 

  コロナ禍の昨今、ウォルターみたいに大冒険には出かけてはいけないけれど、その気になってデジタル技術を駆使すればいくらでも、LIFEの精神でもある「世界を見る」ことはできる❗

 

  さまざまな勇気をくれる映画😊

  

 

 

  

ウィンザーノットにまつわる『シングルマン』と007ジェームズ・ボンドのお話

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(ジョージの住む家。隅々にまでトム・フォードの美学に貫かれている)

高名な ファッション・デザイナーであるトム・フォードが初めて監督を務めた映画『シングルマン』がなんと1400円で購入できるとか❗いやはや、良い時代になりました。もちろん、映画館で見るのがベストなことは言うまでもないけれど、コロナ禍でおうち時間が長くなっている昨今、映画のチケットと同額で名作が家で(しかも何度も❗)楽しめるのはこの上ないシアワセ(*´∀`*)

 

 『シングルマン』。1960年代、キューバ危機下のアメリカ、ロサンゼルス。現地の大学で教鞭をとる英国出身のジョージ(コリン・ファース)は、8ヶ月前の交通事故で、同棲していた恋人ジム(マシュー・グード)を突然亡くし、生きる希望を失っていました。その当時の英国と言えば、同性愛を犯罪とする法律が廃止されたのがようやく、1967年のこと。まだまだ激しい差別があった時代。彼はきっと、ジムとの愛の為に、自由を求めてアメリカに移住したのかもしれませんね。映画の中では何も語られてはいませんけれども。

 

  アメリカに移り住んだとはいえ、同性愛者に対する明らかな差別がアメリカにおいても厳然と存在することは、隣に住む少女との会話の中からもわかります。(少女は無邪気に、父親がジョージのことを「オカマ」と陰口を叩いていることを本人の前で暴露してしまう)だからこそ、ジムとの愛の生活だけが、彼の生きる全てだった。ジムは英国に里帰り中に亡くなった為に、ジョージは死に目に会えなかったんですね。それどころか、彼らの秘めた関係を受け入れられないジムの親族から、葬儀に出席することさえ拒否されてしまいます。ジムを失った今、もはや人生は彩りと光を失った。自ら命を経つことを決意した彼は、遺書を書き始めます。

 

(死装束の)ネクタイはウィンザーノットで

 

死を目前にして、彼の心には望郷の念が沸々と湧いてきたに違いありません。しかし彼の祖国である英国は、マイノリティである彼を受け入れてはくれなかった。それでもなお、極めて英国的なネクタイの結び方にこだわる彼が哀しい…。

 

  ゲイであることをカミングアウトしているトム・フォードの視点から描かれる男たちの美しさときたら、目映いばかり。この映画でヴェネチア映画祭主演男優賞を受賞した、ジョージ役コリン・ファースの端正な魅力、彼が命を賭けて愛したジム役マシュー・グードの、溌剌とした中に潜む小悪魔的な可愛さ。(ジョージがカフカを読んでいる側で、「何読んでるの?」と聞かれたジムがいたずらっ子みたいに「ティファニーで朝食を」を見せる、その時のマシュー・グードの表情がめちゃめちゃ好き😍)そして、ジョージに憧憬を抱き、透明なペールブルーの瞳で真っ直ぐな気持ちをぶつけてくる大学生ケニー役にニコラス・ホルト。最近は『女王陛下のお気に入り』や『The Great /エカチェリーナ時々真実の物語』のクズ貴族 or王様役、『エジソンズゲーム』の変人科学者など、ヒネた役の多い彼ですが、この作品のピュアで清冽な青年がステキすぎる。たまにはこんなニコラスが見たいわ(笑)

 

  ウィンザーノットとは、ウィンザーエドワード8世が初めて結んだからそう呼ばれるようになった…という俗説がありますが、エドワード8世といえば、離婚歴のあるアメリカ人女性、シンプソン夫人との結婚の為にわずか1年足らずで国王を退位したエピソードで有名。(いわゆる「王冠を賭ける恋」ってやつですね。ロマンチックなネーミングとはうらはらに、実情はかなりドロドロしてたみたいですが😅)エドワード8世が退位した為に突如として即位することになったのが弟のジョージ6世で、コリン・ファースは映画『英国王のスピーチ』でジョージ6世役を演じ、アカデミー主演男優賞を見事受賞しています。上のセリフも、コリン・ファースに対するトム・フォードのオマージュが込められているのかな❓…と思うのですが。(今作の役名もやっぱりジョージだし)…って、深読みしすぎかな😅


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  ウィンザーノットと言えば、忘れてはならないのが、007ジェームズ・ボンド。彼には、生粋の英国紳士『シングルマン』のジョージと違って、こんなセリフがあります。

ウィンザーノットにしているヤツは信用できない

(ウィンザーノットみたいに時間のかかる気取ったネクタイの結び方をするヤツは胡散臭いって意味らしいです😅)

 

  日本ではボンドと言えば「英国紳士の典型」というイメージで捉えられていますが、実はジェームズ・ボンド、父親はスコットランド人で母親はスイス人。MI6の中でも一匹狼で独断専行ぎみなのも、彼の出自や生育環境を考えると納得できますよね。ネクタイの結び方の他にも、紐付きの革靴はキライでスリッポンが好きだとか、原作のボンドは英国式のオーソドクシーを嫌う反逆児のイメージです。

 

  原作のイメージからすると、ヲタク的に歴代ボンドの中で一番しっくりくるのがやはりダニエル・クレイグかな…と思います。そう言えば、ダニエル・クレイグのボンドと言えば、トム・フォード


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プライベートでもお気に入りというサングラスは言うに及ばず、ダニエル・クレイグのボンドは、「慰めの報酬」(2008年公開)「スカイフォール」(12年)「スペクター」(15年)と、トム・フォードのファッションなしには語れません。ダニエル・クレイグが演じるボンドの最後の作品「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ(NO TIME TO DIE)」でも、トム・フォードがファッションを担当しているそうです。(いつ公開されるのか未だに未知数ですが😅)

 

  …してみると、『シングルマン』のジョージの遺言も、気取らない反骨漢ボンドに引き比べて、アメリカに長年住みながら頑ななまでに英国スタイルを固持するジョージに対する、トム・フォードなりの、ちょっとした揶揄が読み取れない…わけでもない(笑)トム・フォード自身はアメリカ人ですからね。

 

  セリフひとつで無限に想像(…妄想❓😅)の翼を広げることができる…。

やっぱり映画って楽しいね❗(笑)

 

 

  

 

  

 

 

映画で世界旅行✈️👜②~『マクベス』2015年版 (スコットランド)

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  (Scotland from Pixabay)

  「おうち時間を楽しく~映画で世界の絶景を堪能する」第2回目は、シェイクスピア原作の『マクベス』、舞台はスコットランドです。

 

  『マクベス』はご存知の通りシェイクスピアの四代悲劇のうちの1つで、本来は舞台劇なんですが、映画で取り上げるからには、観客の私たちからすれば、映画独自のロケーションの美しさやスペクタクルが見たいなぁ…と思うわけでして。その点から見て、これまで何度も映画化、ドラマ化を繰り返してきた『マクベス』、中でもおススメは2015年版です。主役のマクベスをドイツ出身の俳優マイケル・ファスベンダー(ヲタクはミュヒャエル…っていうドイツ語読みのほうが好きなんですけどね😅)、レディ・マクベスをフランス人女優のマリオン・コティヤールシェイクスピアにイギリス人以外の俳優…?って思う方がいらっしゃるかもしれませんが、イングランド人の都会っ子シェイクスピアにとって、当時のスコットランドというのはまるで外国、迷信と呪術の蔓延る、どこか得体が知れなくて妖しい魅力を持った場所…といったイメージだったのではないでしょうか?…なので、いわゆるクイーンズイングリッシュを話さない俳優のキャスティングというのは、『マクベス』に限って言えば、ぴったりな気がします😊


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  スコットランド領主のマクベスは、野心家の妻に唆され、また荒野で偶然出逢った魔女たちの「あなたはいずれ王となるお方」という甘言に心奪われて慈悲深く人望の厚いダンカン王を暗殺、自らが王位につきます。王の暗殺を疑う親友のバンクォーや、自分に背いてダンカン王の長子・マルコムの元に走った臣下のマクダフの妻子を虐殺するも、そんな血塗られた王位が長く続くはずもありません。気丈な筈のマクベス夫人は良心の呵責に苛まれ、次第に狂乱に陥っていきます。マクベスに焼き殺されたマクダフの妻子の幻覚を見、虚ろな目で「手についた血が取れない」と身悶えるマクベス夫人ことマリオン・コティヤール。従来のマクベス夫人の毒々しいイメージとは真逆の、少女のようなコティヤールの風情に、(もしかして、男性を翻弄し、破滅へと導くファム・ファタールとはこんな人を言うのだろうか)と、ヲタク納得(笑)マクベスの横暴に、臣下たちの心も離れていく中、イングランド軍を味方につけたマルコム王子はついに決起。夫人を亡くして茫然自失のマクベスの居城に向かって、大軍が進軍し始めます……。

 

  マクベスにさまざまな予言を投げかけて彼を翻弄する三人の魔女。舞台では、大鍋囲んで

鍋のりをぐるぐる回れ。
腐った内臓を放り込め、
冷たい冷たい石の下
31日昼夜を分かず
眠っている間にたっぷりと
毒溜め込んだヒキガエル、お前を先に茹でてやる。

なんて強烈なセリフで、エグいイメージなんですが😅この映画の中では、スコットランドの冷たい空気に溶け込んだような、祖母・母・孫という妖精族のような存在として登場します。

 

  また、マクベスが自分の未来に絶望して呟くモノローグ(いわゆるトゥモロー・スピーチ)

明日も、明日も、また明日も、
とぼとぼと小刻みにその日その日の歩みを進め、
歴史の記述の最後の一言にたどり着く。
すべての昨日は、愚かな人間が土に還る。

これも、マクベス夫人の亡骸をかき抱いての絶望のセリフになっていて、マクベスが、たとえば同じシェイクスピアの造型したリチャード三世や『オセロ』のイアーゴーや『ジュリアス・シーザー』のキャシアス等の「絶対悪」ではなく、肥大した野心と傲慢さの中に、どこか脆さと弱さを秘めた人物として描かれています。

 

  低く垂れ籠める灰色の雲。

ハイランドの荒涼たる原野に吹き荒ぶ風。

地獄の業火を思わせるような炎と、暗黒の闇の素晴らしい対比。

 

映画でこそ表現できたシェイクスピア劇をぜひ😊


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(Scotland from Pixabay)

 

 

 

  

  

映画で世界旅行✈️👜①~ 『ライアンの娘』(アイルランド)

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(Ireland from Pixabay)

  今日は、「おうち時間を楽しく」の一環として、「おうちにいながらにして絶景を楽しめる映画」を特集してみました。街歩きではなく、大自然が美しい映画…ということで、第1回目はアイルランドの美しい自然を舞台にした『ライアンの娘』(1970年)

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(Ireland from Pixabay)

  「アラビアのロレンス」や「ドクトル・ジバゴ」など、大自然を舞台にしたスケールの大きい作品を得意とした英国のデヴィッド・リーン監督の作品。

 

  舞台は1900年代初頭のアイルランド寒村。イギリスからの圧政と搾取に対し、アイルランド国内で独立運動が過熱し始めた頃。働き口もなかなか見つからず、鬱屈した気持ちを知的障害の老人(ジョン・ミルズ…この作品の演技で、アカデミー助演男優賞受賞)を苛めることで発散する村の若者たち。

 

  そんな社会背景の中で、古い因習を嫌う奔放な人妻ロージー(サラ・マイルズ)が年の離れた人格者の夫(ロバート・ミッチャム)との生活に飽きたらず、情熱の赴くままに愛したのは、彼女が住む寒村に赴任してきた英国人将校ランドルフ(クリストファー・ジョーンズ)でした。しかし彼女の恋は、誠実な夫を裏切る不倫であると同時に、村人たちにとっては憎むべき敵である英国人将校と情を通じるという、許すべからざる二重の裏切り。ランドルフと自分の間に未来はないとわかってはいても、止められない想い。

 

死を賭けた彼女の、危険な恋のゆくえは…❗❓


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  ロージーが日傘を手放し、その傘が風に煽られて青い海に落ちていく冒頭のシーンから、どこまでも永遠に続くような白浜の海岸線、紺碧の空に流れていく雲、目の眩むような断崖絶壁…と、次々とアイルランドの絶景が続きます。それを捉える流麗なカメラワークも素晴らしく、その年のアカデミー賞撮影賞を受賞しています。

 

  戦功を立てて本国では英雄視されながらも脚に深い傷を負い、振戦や幻覚等のPTSDに苛まれる、孤独な英国人将校ランドルフ役を、ジェームス・ディーンの再来と言われたクリストファー・ジョーンズが演じているんですが、もう軍服姿がイケメンすぎて…😍ロージーが倫理道徳に背き、命の危険も顧みず、彼との恋にのめり込んでいくのも…責められないわ😅光の射し込む森の奥、ラベンダーが咲き乱れる大自然の中で二人が結ばれるシーン、映画史上一二を争う美しさでしょう。


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  ハリウッドで、どちらかといえば大味なタフガイ役の多かったロバート・ミッチャムが、他の男に惹かれていく若い妻の心を知りながらもなお彼女を思いきれない中年男の、哀しみと諦観を見事に表現して秀逸。こんな深い演技のできる俳優さんだったんだな…って。

 

  ベルギーに住んでいた頃、夏休みにアイルランドを旅行した折、首都のダブリンではなく、わざわざ西部のコーク空港に飛びました。この映画がディングル半島で撮影されたと知り、ロケ地巡りをする為です。2週間の旅の間に、ロージーが傘を落とした断崖や無人島までは行けたんですけど、彼女がどこまでも続く長い長い海岸線を歩いて行く場面。とうとう最後まで特定できず😢…後から、アイルランドではデヴィッド・リーン監督のお目がねに叶う海岸線が見つからず、北アフリカで撮影されたと知りました😅


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モノクロ映画を語ろう❗③~俳優の美しさを際立たせるモノクロ作品

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(Morocco from Pixabay)

  再びモノクロ映画のお話です😅今日焦点を当ててみたいのは、モノクロ映画だからこそ際立つ、俳優さんたちの美しさについて。

 

  モノクロ映画って光と翳の二元的世界ですから、やはり顔立ちの彫りが深いほどくっきりはっきり美しく見えますよね。そして、女優さんの場合、むろん元々綺麗なんでしょうけど、 特に肌が美しく映ります。その観点から言って最高峰は、何と言っても『カサブランカ』のイングリッド・バーグマンでしょう。舞台は第二次世界大戦中のフランス領モロッコ。当時親ドイツ派に支配されていたカサブランカで、クラブ「カフェ・アメリカン」を経営するアメリカ人リック(ハンフリー・ボガード)の元に、昔パリで別れた恋人、イルサ(イングリッド・バーグマン)が偶然やって来ます。彼女はすでに、ドイツに対するレジスタンス運動のリーダー・ラズロの妻になっていました…。「カフェ・アメリカン」で、リックとの思い出の曲、「As Time Goes By~時の過ぎ行くまま」をピアニストにリクエストして、口ずさみながら涙を滲ませるバーグマンときたら❗絹のように光沢のある、内側から微かに発光しているような滑らかな肌。もはや「女神さまぁぁぁ~❗」と叫んで、その場にひれ伏したくなります(笑)

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 もうひとつ、バーグマンで印象的なモノクロ作品に『さよならをもう一度』があります。『カサブランカ』で26才のそれこそ美の絶頂期だったバーグマンは、20年の時を経て、分別のある中年の女性として登場します。舞台はパリ。装飾デザイナーとして自立している女性ポーラは離婚経験があり、同じ年頃のロジェ(イヴ・モンタン)とは、付かず離れずの「大人の関係」。そんな彼女の日常は、15才も年下のフィリップ(アンソニー・パーキンス)との出逢いによって大きく変わっていきます。ひたすら若い情熱をぶつけてくる年下の男性に戸惑いながらも、次第に惹かれていく女性の心理をバーグマンがきめ細やかに演じています。カラー作品だったらこの二人の関係性、ちょっと生々しい感じがしたと思うんですが、モノクロだからこそ良い具合に紗がかかったイメージになって、オトナの、ファンタジックなロマンスの後味。ラスト、バーグマンが車に乗って、涙を溢れさせながら運転し始めるシーン。ネタバレになっちゃうので詳しくは説明できないんですけれども、彼女の自嘲と哀しみと諦めの表情は必見。「心に残る映画のワンシーン」なんていうアンケートがあったら、1票を投じたい(笑)この作品、フランソワーズ・サガンの『ブラームスはお好き』の映画化で、原作のほうは三者三様の恋の駆け引きや心理描写に重点が置かれていて、映画よりシニカルで苦いテイストです。

 

  フィリップがポーラを「ブラームスがお好き?」と、コンサートに誘うことから二人の関係が始まるんですね。映画の中でも、ブラームス交響曲第3番第3楽章の甘美で哀愁のあるメロディがアレンジされて繰り返し流れます。


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  そして、モノクロ映画の「陰翳の美」の帝王と言えばこの人❗1950年代のフランスの美のシンボルと言われたジェラール・フィリップ😍彼の、彫りの深さが際立つ彫刻のような美貌は、『赤と黒』のようなカラー作品よりも、モノクロ映画でこそ真価を発揮するような気がします。


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  フランスの名匠ルネ・クレールゲーテの『ファウスト』を独自のアイデアで映画化した『悪魔の美しさ』。年老いたファウスト博士(ミッシェル・シモン)がメフィストフェレス(ジェラール・フィリップの2役)と血の契約を交わして若く蘇った後の姿がジェラール・フィリップなんですけど、もうその美しさときたら圧倒的で、(こんな姿になれるなら、悪魔に魂を売り渡したくなっちゃうよねぇ…)って納得しちゃいましたよ(笑)原作では、あらゆる学問を極め尽くしたファウスト博士が、それでも尚満足せず、肥大する「知識欲」の虜となり、悪魔と契約することによって尊大にも神の領域に手をかけようとする…という展開になっていますが、一方このフランス映画では、若返って比類なき美しさを得、真に愛する女性と巡り合う…というストーリー展開。ドイツとフランス、国民性の違いかしら?面白いですよね😊

 

  スタンダール原作の『パルムの僧院』や『赤と黒』(こちらはカラー作品)など文芸大作の彼も、舞台出身だけあって、堂々としていてそれは素敵ですけど、じつは、『花咲ける騎士道』(調子の良いプレイボーイだけど、どこか愛嬌があって憎めないファンファン・ラ・テューリップ)や『夜ごとの美女』(何をやっても上手くいかず、毎夜夢の中で美女とのロマンスを妄想するオタク音楽家)のような、コメディタッチの軽妙な演技こそ、彼の本領が発揮されたのでは…?と思うのはヲタクだけでしょうか。


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  36才の若さで逝った彼😢(美人薄命ってホントね……)

  才能を世に認められず、貧困の中で路上死した画家モディリアーニの悲惨な晩年をリアルに、冷徹に描いた『モンパルナスの灯』。ガス灯に滲むように浮かび上がるパリの街。そして、どんなにやつれて無精髭姿でも、衣装はボロボロでも、隠しきれないジェジェ(ジェラール・フィリップの幼少期の愛称)の美貌。残酷で非情なラストシーンと共に、脳裏に焼き付いて離れません。



遺作はピエール・ショデルロ・ド・ラクロ原作の『危険な関係』。富と名声と美貌に恵まれたセレブ夫婦(ジェラール・フィリップジャンヌ・モロー)がお互いに不倫をして、それぞれの相手を破滅に追い込むゲームに興じる…というアンモラルな内容から、フランス国内で上映禁止になった曰く付きの作品。監督が、自分の奥さんを映画の主役にして、しかも脱がせちゃうっていう趣味のロジェ・バディムだから背徳的なのはしょーがないか…😅でもそんな映画でもジェジェは、彼自身のクリーンで誠実な人柄を滲ませた演技。それまで背徳的な人生を送ってきた男性が、真実の愛に目覚めて変化していく過程を繊細に演じてサスガでした。

 

  あまりに美しく才能に溢れ、あまりにピュアで誠実な人柄であったが故に神に愛され、早く天国に召されてしまったジェジェ。最近は彼の映画も次々とデジタルリマスター化されて、綺麗な画面で彼の美しい姿を堪能することができます😍


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(おまけ)

 『危険な関係』のテーマ曲、「危険な関係のブルース」(アート・ブレイキー &ジャズ・メッセンジャーズ)はジャズのスタンダードナンバーとなりました。

  しっかし、映画『死刑台のエレベーター』のマイルス・デイヴィスといい、この映画といい、フランスのモノクロ映画にジャズはよく似合う😊


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歴史上のイケメン列伝①~チェーザレ・ボルジア

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    毎週ワクワク楽しみに見ているNHK大河ドラマ『青天を衝け』。今週の日曜日にはついに我が愛しの新撰組副長・土方歳三が登場❗『新撰組始末記』著者の子母沢寛によれば、土方は「役者のような優しげな色男」だったそうですが、目的遂行の為にはあらゆることも辞さない非情さも持ち合わせていたようで…。今で言うなら「ギャップ萌え」で、土方にハマっていた時期には、あってあらゆる小説や資料を読みまくりましたっけ。日曜日のブログ記事にもちょっと触れましたが、ヲタクが今までハマった「歴史上のイケメン」を、不定期ではありますが、思いつくままにご紹介していければと思います❤️ 

 

  まずトップバッターはチェーザレ・ボルジア❗15世紀末、ルネッサンス期のイタリアに、ローマ法王の私生児という、あるべきではない異端の子として生まれ、父の後ろ楯により一度はカトリック教会の大司教という地位まで上り詰めながら、自らその緋色の法衣を脱ぎ捨て、当時小国に分裂して群雄割拠の時代、「イタリア統一」という途方もない野望を抱いた男。当時の思想家マキアヴェリから、「理想の君主」と讃えられた男。マキアヴェリはまた、「容姿ことのほか美しく堂々とし、武器を取れば勇猛果敢であった」とチェーザレの印象を書き綴っています。野望達成を目前にして、31才の若さで非業の死を遂げるまで、彼の生涯は、血と、陰謀と、戦いに彩られていました。

 

  それまでは数々のフィクションの中で、「野望を遂げる為には手を血で染めることも厭わない男」陰険なヒールとして描かれていたチェーザレ・ボルジアを、シビレるほど魅力的なダークヒーローとして初めて描写したのが、言うまでもなく作家の塩野七生。塩野さんはこう語ります。これまで彼は、野心の為には手段を選ばないメフィストフェレスとして弾劾されてきた、しかし「メフィストフェレスの魅力は永遠である」と。

上の表紙に描かれた宝剣はチェーザレが生涯ただ一度だけ高名な職人に作らせたもの。

そしてチェーザレ自身は、生前ただの一度も自分を弁明しようとはしなかった。自分の悪業に対する弁明は、それが策として有効な時にのみ限られる。彼は自分を語ることの極度に少ない男だった。

そして彼の宝剣は…。

自分を語るという甘えを嫌ったチェーザレが、ただ一度若い野望を古代的な寓意であらわしたのが、この剣である。

もうね、塩野さんのこの前書き読んだだけでシビレちゃいましたよね(笑)

 

  チェーザレは、塩野七生の他の著作『神の代理人』『ルネッサンスの女たち』にも登場して、その冷たい魅力を振りまいています。チェーザレの他にも、彼女が描く男たちは生き生きとした魅力に溢れたイケメンばかり😍(『ロードス島攻防記』のヨハネ騎士団や、敵方オスマン・トルコのスルタン・スレイマン1世、『ギリシャ人の物語』アレクサンドロス大王、『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』フリードリッヒ二世等々)

 

おうち時間が長い今日この頃。塩野七生さんの著作の中から、自分好みのイケメンを探してみてはいががでしょう❓😉

 

(おまけ)

塩野七生の描く人物像は、男性ばかりでなく女性もしごく魅力的。特に『ルネッサンスの女たち』のイーモラの女領主カテリーナ・スフォルツァチェーザレの率いる教皇軍の前に立ち塞がり、自分の五人の子どもたちが捕虜になったと知るや大軍の前で長いドレスの裾を高々と捲し上げ、「子どもなんぞここからいくらでも生まれてくるわ❗」と叫んで、兵士たちがあっけにとられている間に反撃に出る…などという驚きのエピソードが😮

 

 

 

   

鉄の女は行く~本格ミステリ『第一容疑者』のヘレン・ミレン

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(London from Pixabay)

今でこそ女性刑事を主役にしたドラマは当たり前のように製作されていますが、その中でも、1991年から2006年まで7年間をかけて製作された本格ミステリ第一容疑者~Prime Suspect』は、その草分けとも言えるでしょう。

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  ロンドン警視庁(スコットランドヤード)でもピカ一の推理力と判断力、行動力を誇るジェーン・テニスン警部(中盤のエピソードで警視に昇進。演=ヘレン・ミレン)。しかし彼女は女性であるがゆえに傍流の仕事しか与えられず不遇な毎日を送っていました。そんな彼女が、何度も申請を出した末、やっとのことで待望の殺人課に配属されるところからこのドラマは始まります。

 

  予想された通り、叩き上げの部下(注・テニスンよりかなり年上)からの猛烈な反発をはじめとして、セクハラ・パワハラの巣窟、マッチョだらけのスコットランドヤードで(撮影開始時期が今から30年も前なのでそのへんを考慮しなくてはいけないかもしれませんが😅)、真相究明の情熱と鋼鉄の意思で猪突猛進のテニスンは、オトコよりオトコマエ(笑)「Ma'am(マダム、奥様)」と呼ぶ若い部下にすかさず、ドスの効いた声で「テニスン警部、もしくはBoss(ボス)と呼びなさい❗」とにこりともせず断罪、しかも相手が根負けするまで繰り返す(笑)

 

 同様に紅一点の女性刑事が活躍する推理ドラマというと『コールドケース』のリリー・ラッシュを思い出しますが、彼女の場合は年も若いし、課のマスコット的存在😊テニスンとは真逆のイメージですね。どちらかというと日本版『コールドケース~真実の扉』の石川百合(吉田羊)のほうがテニスン寄りかも。

 

  1年に1作程度のペースで丁寧に作られており、エピソードひとつが1時間40分程度(エピソードによっては前後編に分かれています)、映画並の骨太感。スコットランドヤード内の派閥争いや、ひとつの事件を巡っての部署同士の対立、事件現場におけるイニシアティブの取り合いなど、たまにこれってロンドン警視庁のドキュメンタリー❗❓って思うくらいリアル😅特に、人質立て籠り事件におけるテニスンの、犯人との駆け引きや機動隊責任者との犯人狙撃にまつわる丁々発止のやり取りは行き詰まるものがあります。

 

  また、英国における人種やLGBT差別、シングルマザーの過酷な子育て、紛争地域からの移民問題など、当時の社会問題を真っ向から取り上げています。たとえ容疑者であっても人権が徹底的に守られており、警察の取り調べでは必ず弁護人が同席しますし、警察側が不適切な言葉遣いや態度を示した時などは反対に告訴される怖れもあるので、そこをかいくぐりながら(時には血気にはやる部下をシメながら=笑)自白に持っていくテニスンの苦労は並大抵ではありません😅

 

  彼女の「正義」はあくまでも罪を犯した者に法の前で裁きを受けさせること。そこにいささかのブレはない。イギリスでは、すでに13世紀において、法学者ブラクトンが「国王も官吏も神の法、自然の法、この国の慣習法に従って統治すべきである」という「法の支配」の考え方を述べていて、それはやがてこの国の実定法であるコモン・ローにつながるわけですね。テニスンは世界に冠たる法治国家イギリスの名において真犯人を突き止める為、警察の中枢部にさえ真っ向から立ち向かっていきます。

 

  ゲストも、若き日のレイフ・ファインズマーク・ストロング(『キングスメン』『裏切りのサーカス』)、デヴィッド・シューリス(ハリポタシリーズのルーピン役)、コリン・サーモン(ピアース・ブロスナンの007シリーズ)、ブレンダン・コイル(『ダウントン・アビー』)など豪華な顔ぶれが次々登場😊

 

  あのメリル・ストリープテニスン役に惚れ込んで映画化を熱望してる…ってウワサが出たこともありました。でもヲタク的には、いくらメリル・ストリープが最高の名女優であっても、これはやはり大英帝国勲章🎖️も受勲したデイム、ヘレン・ミレンのもの。彼女の一生一代のハマリ役は必見ですし、作品としても、エミー賞英国アカデミー賞受賞の、ミステリーあるいは警察ドラマの古典的名作です😊

 

  

モノクロ映画を語ろう②~溝口健二の墨絵の世界

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 モノクロ映画を語る、今日はその2回目。溝口健二監督の作品にスポットを当ててみたいと思います。

 

 黒澤明小津安二郎監督と並んで国際的評価が高く(ヴェネチア国際映画賞で3年連続受賞は日本人で初)、ジャン・リュック・ゴダールなど、世界の映画人に影響を与えた監督ですが、残念ながら日本ではそれほど正当な評価を与えられていないかな…と思います。

 

  ヲタクが溝口監督の作品に最初にハマったのは『雨月物語』。江戸時代に上田秋成が書いた怪異譚(今だと、ホラー・ファンタジーと言えばいいのかな)を原作としていて、原作は9つのエピソードから成っているのですが、その中で溝口監督が選んだのは「浅芽が宿」と「蛇性の淫」。

  戦乱の世、百姓仕事の傍ら、細々と器を焼いては売り捌く貧しい暮らしに嫌気がさし、都で一旗挙げようと、妻(田中絹代)と幼い子を残して旅立った男(森雅之)。市場で商いをするうち、望まれて荒れ果てた屋敷に器を届けに行った男は、貴族らしき妙齢の美女(京マチ子)と恋に落ちる。しかしその正体は…❗❓

 

  溝口の映像世界って、よく「墨絵の世界」って評されますけど、まさに幽玄な日本古来の美の世界。芒の先に見え隠れする荒れ果てた屋敷、薄暗い行灯のひかりに浮かび上がる怪異、沼から立ち上る白い霧…全編まるで水墨画を見ているような気持ちになります。溝口監督の映画を観る度に、(ああ、日本人でよかった~)って思うんです。

 

…しかし、その映像の美しさとは裏腹に、人間(特に女性)を見つめる溝口監督のカメラ越しの眼差しの、なんと冷徹なことよ。監督って、じつはフランス人で実存主義者なの?って思うほど(笑)彼の映画の中で過酷な運命に翻弄される女性たち。しかし彼女たちはその運命に必死で抗い、自我に目覚め、ますます耀いていくのです。


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近松物語』はその名の通り、近松門左衛門人形浄瑠璃『おさん茂兵衛』が元になっています。大店のおかみ、おさんが手代の茂兵衛と不義密通、それが露見して町中引き回しのうえ磔刑に処せられる話なんですが、潔白の身を誤解され、あらぬ噂を立てられ、悲惨な運命に追い込まれていく二人。悲劇を彩るモノクロ映像は、まさに"陰翳礼讃"(谷崎 潤一郎 著)が描いた日本的な美❗

 

もし日本座敷を一つの墨絵に喩えるなら、障子は墨色の最も淡い部分であり、床の間は最も濃い部分である。私は、数寄を凝らした日本座敷の床の間を見る毎に、いかに日本人が陰翳の秘密を理解し、光りと蔭との使い分けに巧妙であるかに感嘆する。

 

近松物語』では障子と、それに写る黒い人影の場面が多用されていて、モノクロ効果が最高に生かされていると思います。

 

 誤解からのっぴきならない関係になっていくおさん茂兵衛。またね、溝口監督に抜擢された香川京子の演技開眼ぶりが凄い❗何不自由ない大店のおかみが運命に翻弄されながら次第にこの世の真実に目覚めていき、遂には愛の殉教者に。ラスト、彼女の崇高な表情が忘れられません。


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  先ほど溝口健二の冷徹かつ実存主義的傾向について述べましたが、これが『山椒大夫』ともなると、もはや鬼畜ぢゃないかっていう…。ジャン・リュック・ゴダールが影響受けたはずだよね(^_^;)この作品、ゴダールの『少女ムシェット』を観た時のやり切れなさとそっくりだもん(^_^;)

 

 ご存知、『安寿と厨子王』のお話しが元になっているので、人身売買やら小児虐待やらの陰惨な内容。(…とかく伝承的な童話や民話って、これホントに子供に話していいの❓っていう残酷な内容が多いんですよね、じつは)まあ冒頭に「これは人間が人間ではなかった頃のはなしである」ってテロップが流れますが。海外ではこの映画、ホラーのジャンルに入ってる場合もあるみたい。確かに安寿と厨子王、そのお母さんと乳母以外はみんな鬼畜で、その点から言えば、「人外さんホラー」かもしれません(笑)

 

  (おまけ)

NHK朝ドラ、『おちょやん』もいよいよ佳境に入ってきましたが、モデルになった浪花千栄子さん、溝口健二監督の信頼も厚く、今日ご紹介した映画の中でも、『近松物語』ではヒロインおさんの母親、『山椒大夫』では安寿と厨子王の乳母・姥竹役を演じ、名脇役ぶりを見せています。

 

ジャック・ロウデンNEWS~シアーシャ嬢とドーセット旅💅


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(Dorcet from Pixabay)

ジャクロくんがインスタに久しぶりにシアーシャ・ローナンの写真をup♥️(インスタグラム jack.lowden)相変わらず照れやさんの彼、今回も菜の花畑に佇む彼女の後ろ姿のみ😅後ろ姿も美しいのう…。

 歴史と自然が大好きな二人、今はイングランドのドーセット州を旅行中のもよう😊ドーセット州の海岸(写真一番上)は世界遺産。「ジュラシック・コースト(Jurassic Coast)」。約1億9960万年~1億4550万年前、恐竜が生息していた「ジュラ紀(ジュラシック)」の海岸という意味ですね。基本、推しのラブアフェアには関心のないヲタクですが、ジャクロくんとシアーシャちゃんの場合、二人とも大好きな役者さんだし、インタビュー等で真摯で誠実な人柄が伝わって来るので、二人のお付き合い、応援したいキモチでいっぱい♥️旅の写真とか見るとこっちまでほっこりします😊

  上の3枚の写真のうちの一番下、美しい森の木漏れ日。シアーシャちゃん絡みの写真にはさりげなく💄や💅のEmojiを使うジャクロくん😊WoodをWouldにかけてるけど、何が言いたいの?ジャック。まさかシアーシャちゃんに"Would you marry me?"とか?(笑)

 ジャクロくんが主演を務めたNetflixのドラマ、『最悪の選択』(2018年)がツイッターで絶賛されてますね😊特に、ジャクロくんと友人役のマーティン・マッキャンの演技が素晴らしい…と❗(superbっていうくらいだから、最高級の賛辞ですね😉)スコットランドのハイランドに狩猟に出かけた友人同士が誤って少年を撃ってしまいます。それを隠匿しようとしたことから(つまり二人は最悪の選択をしてしまった…)破滅へとひた走る悲劇と、閉鎖的なムラ社会の恐ろしさ。脚本も担当したマット・パーマー監督が完成に9年の歳月をかけただけあって、緻密なストーリー展開と心理描写、ラストは人間性の根源すらも問われるような、素晴らしいサイコスリラーです。まだご覧になっていない方は是非❗2018年エディンバラ国際映画祭で最優秀作品賞受賞。

 現在大活躍中のジャクロくんはじめリチャード・マッデンデヴィッド・テナント等、優れたスコットランド人俳優たちを輩出しているスコットランド王立演劇学校(Royal Conservatoire of Scotland~大学の学位が取得できる)。写真はリチャード・マッデンの卒業式ですね。今年11月公開のマーベル映画『エターナルズ』イカリス役を射止めた彼。いよいよ大ブレークでしょうね。監督も、『ノマドランド』でアカデミー賞監督賞を受賞したばかりのクロエ・ジャオだし。昔、インタビューで「ハリウッドのヒーロー役のオファーが来たけど興味ないから断った」って言ってたジャクロくん。ヲタクは、このイカリス役がクサイと睨んでいるのだが。はー、今さらこんなこと言っても始まらないけど😅おカネにならないインディーズ系ばかり出てるよね。しかも映画製作会社まで立ち上げちゃったから、ますますビンボーに(笑)……でも、そんなあなたが好きです♥️

 

「ジャック・ロウデンはスコットランド独立の最先鋒だが、一方で生まれは(イングランドの)エセックス州チェルムズフォードだということを隠そうとしている」ってまた、タイムズ紙に書かれちゃってる~😅まっ、タイムズ紙って言ってもスコットランド版だし、ジャクロくん自身がリツイしてるし、きっとイギリス政府に向かって「どーだいっっ、イングランド生まれのトップ俳優ジャック・ロウデンだって、生まれを隠してまでスコットランドに定住したんだ❗スコットランドはそれだけイイ国なんだぜー(文句あっか)」って言いたいのネ、きっと😉

 ジャクロくんの新作ドラマ『Benediction』(祝祷)。ジャクロはこの作品で、第一次世界大戦の凄惨な体験から心を病み(今で言うPTSDですね)、その後反戦の詩を書き綴った実在の人物、ジークフリード・サスーンを演じています。国際的な人気を博した大作『ダンケルク』(クリストファー・ノーラン監督)以来の軍服モノ。うー、やっぱり制服ってイケメン度が爆上げするね❗(笑)

モノクロとカラーの織りなす美しさ~『婚約者の友人』&『銃』


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(Louvre from Pixabay)

 前回のモノクロ映画特集では、クラシック作品とも言うべきモノクロ映画の数々について語りました。今回は比較的新しい2000年に入ってからの映画で、カラーとモノクロのシーンを織り混ぜて、その対比により、特別な効果を狙った作品を取り上げてみようと思います。


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  まずはフランソワ・オゾン監督の『婚約者の友人』(2016)。1919年、ドイツの小さな街。婚約者のフランツを第一次世界大戦で失ったアンナ(パウラ・ベーア)はいまだに黒衣に身を包み、息子の死に打ちのめされている彼の両親を気遣いながら一緒に暮らしていました。そんなある日、フランツの墓に花を手向け涙ぐむ一人の青年(ピエール・ニネ)の姿が…。彼はアンナにフランス人のアドリアンと名乗り、大戦中敵国同士でありながらフランツと友情を結び、ルーブル美術館にも一緒に出かけたことがある…と語ります。村人の冷たい視線をよそに、少しずつ彼と打ち解けていくアンナ。しかしアドリアンは、大きな秘密を抱えていました…。

 

  アンナの心象風景に呼応するかのように、モノクロ(哀しみ、緊張感、不安)とカラー場面(幸福感、希望)が交互に現れる演出がユニーク。アドリアンはなぜ、アンナの住む村にやって来たのか?ゲイをカミングアウトしているオゾン監督、ホモセクシュアルを題材にした作品も多いので、ヲタクは見ながらそっち方向で推理していたんだけど…違いました(笑)

 

  愛も、友情も、家族も、全てを引き裂く戦争。見ている私たちは、それから20年後には再びフランスとドイツが敵国同士となって戦う残酷な史実を知っているから、なおさら胸が痛みます。…しかしヒッチコックに負けるとも劣らない皮肉屋で意地悪なオゾン、アドリアンの素性が判った後の展開は彼の本領発揮ですね😅

 

  イヴ・サンローランの伝記映画で、まるでサンローラン本人が降臨したような強烈な存在感を示したピエール・ニネ、『ある画家の数奇な運命』でゲルハルト・リヒターの最愛の妻を演じたパウラ・ベーアの、主演二人が素晴らしい。特にラストのベーアの表情は神がかっております😊

 

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  日本映画からは、『銃』(2018)。さしたる目標もなく、日々虚無の世界に生きる大学生トオル(村上虹郎)。それが、荒川の河川敷で偶然拳銃を拾ってから、彼の世界は少しずつ変わっていきます。銀色に光る美しい銃身。まるで愛しいもののように手に取って拳銃を磨くうち、(銃は撃つためにこそ存在する。それならなぜ、俺はそれを撃ってはいけないのか?)という強迫観念に囚われていきます。そして、怪我で瀕死の状態の猫を銃で撃ってから、トオルは、今まで自らも、気の良い友人たち(岡山天音広瀬アリス…天音くんの受けの芝居が相変わらず素晴らしい♥️主人公の友人役をやらせたら右に出る者はいない😊)と共にいたはずの光の当たる世界から、ついに一歩踏み出してしまいます。

 

  トオルの銃の不法所持と動物虐待を疑って、彼をジワジワと追い詰めて行く刑事にリリー・フランキー

あなた、人を殺したいと思ってるでしょ。

拳銃を持っているとね、必ず使いたくなる。

という、悪魔の囁き。

彼のメフィストフェレスぶりが凄い。そして、悪魔と契約を結んでしまったトオルを演じる村上虹郎の銃を構える時の恍惚の表情と、熟して腐る寸前のような色気も。

 

そして衝撃のラスト。見ている私たちは、なぜ今までモノクロ画面だったのか、初めてその理由を知るのです。

 

  

『Mank/マンク』つながりでモノクロ映画の名作を語ろう~外国映画編


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(『第三の男』で重要な場面に登場するウィーン、プラーター公園の観覧車…Pixabay)

第93回アカデミー賞で、モノクロ映画の『Mank/マンク』が撮影賞と美術賞を受賞❗リアルタイムで授賞式の模様を放映してくれたWOWWOWでの、行定勲監督のコメント「モノクロ映画は陰翳のつけ方が非常に難しい。照明の技術も必要」がとても印象的でしたね。この映画のお蔭で、再びモノクロ映画の美しさが見直されてくるのではないでしょうか?ヲタクからすると、まさに谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讚』の世界。色彩を廃した、光と翳だけの究極の美の世界。今日はそんなモノクロ映画を独断と偏見で語ります。

 

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  『Mank/マンク』は、全盛期のハリウッドで稀代の天才と言われた俳優・監督、オーソン・ウェルズの『市民ケーン』の脚本家ハーマン J. マンキウィッツ(通称マンク)が主人公でした。しかしオーソン・ウェルズと言えば思い浮かぶのが、ヲタク的にはだんぜん『第三の男』のほうなんだよなー。ゴメンね、マンク(笑)監督・脚本は名匠キャロル・リードオーソン・ウェルズはクレジットにはトップに出てきますが、主人公ホリーがその行方を追う親友のハリー・ライム役なので、映画の中盤まで出番なし(笑)しかしひとたび画面に姿を現せば、その謎めいたオーラが圧倒的でした。

 

  舞台は第二次世界大戦直後、建物の多くは瓦礫と化し、まだ戦争の傷痕癒えない、米英仏ソ4分割統治下にあったウィーンの街。売れないアメリカ人作家ホリー・マーティンス(ジョセフ・コットン)は、ウィーンに住む親友のハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)から「ウィーンに来たら、いい仕事を紹介する」という手紙を貰って、期待に胸を膨らませてウィーンにやって来ます。ところが、ハリーのアパートを訪ねると、管理人から「ハリーは交通事故で亡くなった」と言われ、衝撃を受けます。さらにハリーの葬式で、彼がウィーンで悪名高い密売人だったことを聞かされ、打ちのめされるのでした。しかし、ハリーの死の現場に、素性の知れない「第三の男」がいた事実を突き止めたホリーは、それが単なる事故ではなかったことを疑い始め、真相究明に乗り出しますが、彼を待っていたのは残酷な真実でした。

 

  戦後間もなくのウィーン、各国の思惑が絡み合い、ヤミ物資や偽造パスポート等不法な商売がまかり通る中、悪に手を染めながらも必死に生き抜こうとする男と女。

 

  作品的にはフィルム・ノワールのサスペンスなので、窓から見下ろすウィーンの街角、遠くにいる小さな人物の翳が石畳に異様に長く伸びているとか、建物の陰に潜んでいた人物に灯が照らされて顔が浮き上がるとか、追ってくる人物を影だけで表現するとか、モノクロ映像だからこそ主人公の恐怖がいや増すしくみ😅映画史上名シーンとしても名高い、下水道での追いつ追われつ。真っ白な壁に人の影が大きく写し出される時の美しさよ。

 

  考えてみれば、モノクロ映画ってサスペンスやホラー、スリラーにぴったりな映像表現な気がする。暗闇に何が潜んでいるか分からない恐怖。そんな暗闇から、真実が顔を出した時の衝撃。モノクロ映画ではないけど、そんな光と翳の恐怖を巧みに演出したのがブライアン・デ・パルマ監督じゃないでしょうか。(『殺しのドレス』『アンタッチャブル』『ブラックダリア』)

 

そう、モノクロ映画はサスペンスによく似合う。

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 もはやコメントの必要もないアルフレッド・ヒッチコック監督の名作『サイコ』。ヒロインのジャネット・リーが会社のお金を持ち逃げして、見ているこっちもハラハラドキドキ、どうやって逃げ切るのかと思いきや、途中で立ち寄ったベイツ・モーテルで、シャワー浴びてる最中にまさかの惨殺ヽ(;゚;Д;゚;; )いやもう、その衝撃と来たら腰抜かしましたよね😅ヒロインがなんでこんなに早く殺されちゃうんかい?って。ヒッチコックのいぢわるじいさんここにあり(笑)でもって、モノクロ効果が最大限に発揮されたのは、あの、排水口に流れていく血の場面ですよ。

流れる血が、血が、モノクロだからこそ、めちゃくちゃコワイのよぉぉぉ~❗

カラーだと、頭のどこかで(まあどうせ、人工の血糊だから)って思って見れるけど、白黒だと妙にリアルで、ヒッチコック爺さん、絶対その効果狙っていたと思う。反対にギレルモ・デル・トロ監督の『クリムゾン・ピーク』は、恐怖というより、真っ白な雪山と赤い血のコントラストを強調した一種の様式美を狙ってる感じなんでカラーが必須なんですけれども。


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  ベイツモーテルの外観も内部も、モノクロだからこその恐怖倍増😅今は映像技術が発達して、背景もリアルなのかCGなのか区別がつかないけど、当時はセットだと作り物感アリアリ(笑)。同じヒッチコックの『レベッカ』。イギリスの古城を舞台にしたいわゆるゴシックホラーですが、画面上、翳になる部分が多くて怖かった。暗い部屋が無数にあって、そもそもどこに誰が隠れているかわからないシチュエーションって、恐ろしすぎる。

 

  最後に、フランスのフィルムノワールをひとつ。フランスの名女優、故ジャンヌ・モローの『死刑台のエレベーター』。冒頭から流れるマイルス・デイヴィスの気だるいトランペット。いきなり瞳を潤ませたジャンヌ・モローのどアップ、公衆電話の受話器に向かって囁くように彼女が呟く"Je t'aime. ジュテーム"の音楽的な響きにうっとりしていると、「(愛しているのなら)夫を殺して」と続くので、思わずのけ反る(笑)社長夫人のフロランスが、身も心も捧げつくしている男ジュリアンは夫の部下。第二次世界大戦で戦功を上げ、フランスでは英雄視されているけれど、戦争で人間らしい心を失ってしまったものか、彼女に命じられるままに淡々と殺人をこなしていくさまが何とも怖い。モーリス・ロネの、彫刻のような冷たい美男子ぶりがゾクゾクするほど素敵で、フロランスが破滅も厭わないほどのめり込んでいくのも納得(笑)

 

  ジュリアンは社長室で社長を射殺し自殺に偽装しますが、回収し忘れた証拠品を取りに社に戻った時、エレベーターに閉じこめられてしまいます。その間に、路上に駐車してあったジュリアンのスポーツカーを盗んで無軌道な逃避行を始める若い男女。一方、待ち合わせの場所に現れないジュリアンを探して、パリの街を彷徨い歩くフロランス。(かなりのスピードで車が走ってくるシャンゼリゼ通りを無表情にジャンヌ・モローが横切っていくシーンは凄い😮)

 

  まるで地獄への一本道のように規則的にライトが並ぶ夜のハイウェイ。車のヘッドライトに滲むように浮き上がる小雨降るシャンゼリゼ。現像液から、次第に浮かび上がって来る1枚の写真。どこをとってもスタイリッシュな映画(フランス映画だから、シックかエレガントかな?=笑)で、なんとルイ・マル監督25才の時の処女作です。映画界に彗星の如く現れた若き天才。今で言えば、グザヴィエ・ドランといったところでしょうか。


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  モノクロ映画って色彩が無くて眼から入る情報が少ないぶん、音楽がより印象的に耳に残るような気がします。『第三の男』ではウィーン生まれのツィター奏者アントン・カラスが奏でるテーマ曲(恵比寿駅で流れてるアノ曲です😅)が耳を離れないですし、『サイコ』の殺人場面、あのキーキーいう不快なバイオリンの音、『死刑台のエレベーター』全編を流れるモダンジャズは映画の内容と密接に結び付いています。

 

  …って今日は、少し喋りすぎましたね(笑)モノクロ映画について語り始めたら、ヲタクなかなか終わりませんで😅続きはまた次回❗

  

 

 

 

  

 

 

 

 

アマンダ・サイフリッドの真紅のドレスと、ゲイリー・オールドマンの眼差し~アカデミー賞

 
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目にも眩しいアマンダ・サイフリッドの真紅のドレス。そしてヲタクの目線はどうしてもその豊かな胸元に…&#/$@☆「¥?  でもやっぱりレッドカーペットにはこういうゴージャスなドレスよねぇ…😍3年前ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラに抗議して、女優さんたちがこぞって黒いドレス着て、まるでお葬式みたいになっちゃったオスカー会場はまるっきりつまんなかったもん(笑)

 

  アマンダ・サイフリッドは、映画『Mank/マンク』で、実在の女優、マリオン・デイヴィスを演じ、助演女優賞にノミネートされました。マリオン・デイヴィスは、当時アメリカで絶大な権力を振るっていた父娘ほども年の違う新聞王ウィリアム・ハーストの愛人となり、売れっ子女優にのしあがった人物。演じるアマンダは、1930年代アメリカの退廃と狂乱のジャズエージの匂いふんぷん、ビッチな魅力を振りまいておりました。今日のドレスは、映画の中のマリオン・デイヴィスのイメージに見事にクロスオーバーしてたなぁ😅

 

  でもって、ちらっと写ったゲイリー・オールドマンの眼差しの、なんと穏やかで優しいこと😊映画『レオン』の、史上最低のクズ男、麻薬捜査官スタンで本格的「堕ちて」以来ずっと、ゲイリーのキャリアを見つめ続けてきたヲタク。若い頃はどこかピリピリして尖ってて、数多くの美女たちとの長続きしないラブアフェアや家庭内トラブル、アルコール依存症に苦しみ、このままフェイドアウトしてしまうのではないかと危惧したこともあったけど…。いつの間にか全てを乗り越え、今ではその輝かしいキャリアと演技力、暖かい人柄から、後輩の俳優たち(ブラピやジョニデ、クリスチャン・ベールライアン・ゴズリング等々)に「神」と讃えられるほどの人物になった。今回の主演男優賞、ゲイリーは全く下馬評にも上がってなかったから殆ど期待してなかったけど、超意外な結末でビックリ仰天👀❗…だったらゲイリーでも良かったぢゃん(暴言お許し下さい😅ゲイリーヲタのたわ言です=笑)

 

  『Mank/マンク』は美術賞(ドナルド・グラハム)と撮影賞(エリック・メッサーシュミット)を受賞❗モノクロ画面の美しさが圧倒的でしたが、コメンテイターとして出席していた行定勲監督曰く、「モノクロ映画は陰翳のつけ方が非常に難しい。照明の技術も必要」だそうですから、納得の受賞ですね😊

  

 

 

  

オスカーにアジアの風が吹く~監督賞&作品賞『ノマドランド』


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 『パラサイト~半地下の家族』ポン・ジュノ監督から『ノマドランド』のクロエ・ジャオへ、2年連続でアカデミー賞受賞会場にアジアの風が吹いた❗しかも今年は女性…嬉しすぎる😭しかも、今回も監督賞と作品賞のダブル受賞❗

 

  先日『ノマドランド』の感想を書いた時、巷でよく語られている、「ノマドピープルはフロンティア精神の象徴。アメリカ人の原点回帰である」というテーマよりもむしろ、東洋と西洋の思想の融合ではないか…❓と書きましたが、今WOWWOWで録画しておいたクロエ・ジャオの監督賞受賞スピーチを聞き終わって、その感をさらに強くしたヲタク😅…全くの手前味噌で申し訳ないんですが(汗)

 

  今、アジア系の人々へのヘイトクライムが多発しているアメリカ。そんな現実を十分踏まえた上で、長い黒髪を三つ編みにして化粧っ気もなく、ホントに小柄で少女のようなジャオ監督は、噛みしめるように語り始めます。

 

「今この生き難い時代において、どう前向きに進んで行ったらいいのか、わからなくなることもあります。そんな時、小さい頃中国で父と一緒に中国の詩を交互に朗読し合う…という遊びをしていたことを思い出します。全ての人の心には「Goodness~善」がある。世界中どこへ行ってもそれは存在すると、私は信じています」と。

 

  闘争より調和、自尊より謙譲、LuxuryよりSimplicity…映画『ノマドランド』は、クロエ・ジャオが監督を務めたからこそ、あれだけ深みのある映画になった…。クロエ・ジャオとフランシス・マクドーマントという、二人の天才が作り上げた傑作と言えるでしょう。思えば、今回のノミネート作品の中で、動画配信ではなく映画館で上映されたのは『ノマドランド』だけなんですよね…。見事主演女優賞を受賞したフランシスの、映画人の気概、狼の遠吠え😅ホントにこの方は肝が据わってるというか、いつもカッコよくて、まさにHandsome Womanです❗😊

 

  そしてそして、クロエ・ジャオ監督の次回作は、今回の低予算アート系からバリバリのハリウッド大作、マーベル・スタジオ『エターナルズ』❗このへんの振れ幅が楽しみだなぁ。アンジェリーナ・ジョリーリチャード・マッデンキット・ハリントン、マ・ドンソク等とのタッグ、楽しみすぎる😍

 

  小さなジャオ監督が、ドンソクアニキに演技指導しているところを想像すると、自然と笑みがこぼれてしまうヲタクなのでした…ぢゃん、ぢゃん❗

 

  

1980年、戒厳令下のポーランドで…Netflixミステリ『泥の沼』

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(Poland from Pixabay)

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  第二次世界大戦ナチス・ドイツに占領されていたポーランドを解放したのはソ連軍でした。戦後はソ連を後ろ楯とした共産主義国となったポーランド。ところが共産主義時代のポーランドは経済状況が極度に悪化、インフレに苦しみ、食料は配給制、物資の欠乏は慢性化していました。そんな中、レフ・ワレサ率いる独立自主管理労働組合いわゆる「連帯」が民主化活動を活発化させましたが、政府は1981年に連帯を非合法化し、戒厳令を施行して厳しい言論統制を敷きます。

 

  このドラマはまさに1980年、戒厳令下のポーランドが舞台。ある田舎町の地元紙「クーリエ」の記者ウィテク・ヴァニッツ(アンジェイ・スヴェリン)は、小さな田舎町の密接な人間関係に嫌気がさし、ドイツへの亡命を目論んでいます。そんなある日、街のはずれにある広大な森の中で、社会主義党青年組合議長グロフォヴィヤクが、娼婦と共に惨殺される事件が発生。その直後、警察は娼婦の同棲相手を逮捕し、自供調書も取ってスピード解決。しかしウィテクと共に事件担当になった新米記者のピョートル・ザジツキ(ダビド・オグドロニク)は、警察の誤認逮捕ではないかと疑い、独自に捜査に乗り出します。権威に噛みつくピョートルの行き過ぎた正義感に辟易するウィテク。しかし彼もまた知人の娘ユスティナと同級生の心中事件を追ううちに、青年組合議長と娼婦の殺人事件との間に奇妙な共通点があるのに気づいて…。

 

  5話見終わってひと言…。

暗い!とにかく暗い!

…でもって結末のイヤミス感ハンパない。

勧善懲悪の爽快感も皆無(笑)

…でもね、ヲタク的にはツボにハマるテイストです。好き嫌いは分かれると思いますが、北欧ミステリがお好きな方にはおススメ。

 

  主人公二人が、新聞、それも地方紙の記者という設定が、このドラマに深みを与えていると思います。戒厳令下の記者といえば、体制側から全て統制されていますから、記事の題材と言えば、国営の食肉工場や公益事業の提灯記事ばかり。そんな状況に鬱屈たる思いを抱く野心家の若いピョートルが、それこそ泥の沼に引き摺り込まれるように、真犯人探しにのめり込んでいくのも、時代背景を知るとよく理解できます。また、お洒落な洋服を買おうと思ったらヤミで外貨を調達しなければならず、学校を出ても未来が見えない当時の若者たちの抑圧された欲望も…。

 

  ヨーロッパの人々にとって、「森」は神の眼の届かない「魔が棲む場所」というイメージがある…と、以前拙ブログの記事(『ダブリン 悪意の森』2月12日)でも書きましたが、このドラマでも同様のメタファが度々登場します。このドラマにおける「森」もまた、ピョートルの妻(ゾフィア・ビフワチュ…この女優さん、可愛い)が言う「夫婦の仲を裂こうとする」魔の森であり、かつて森にあった収容所で亡くなった大勢のポーランド人たちの亡霊がさ迷う場所なのです。

 

  第二次世界大戦でのナチスドイツからの迫害に始まり、苦難の歴史を歩んできたポーランド。多くの人々が新天地を求めて、他のヨーロッパ諸国やアメリカに渡りました。ヲタクが家族とベルギーに住んでいた頃、次女と仲の良かったお嬢さんはポーランドからの移民3世でした。あの有名なミュージカル『ウェストサイド物語』白人の不良少年グループ、ジェット団の面々はポーランドからの移民2世たち。新天地を求めて来たものの、良い就職口がなくて本国と同様貧困に苦しんでいる…という設定です。刑事が彼らに向かって、「ポラックめ!(ポーランド人の蔑称。現在は差別用語です)」って吐き捨てるシーンがありましたね。アメリカ文学では、ポーランド人と言えば肉体労働者として描かれる場合が多いですね。(テネシー・ウィリアムズ欲望という名の電車』のスタンリー・コワルスキーなど)ジェーフリー・アーチャーの小説「ケインとアベル」も、ポーランドからアメリカに密航してきた青年の成り上がり物語でしたっけ。

 

  ひと昔前まで、日本で見ることのできる海外のドラマと言えば、アメリカ、イギリス、フランス、韓国のものばかりでしたが、今ではNetflixのお陰で北欧や東欧、アイルランドスコットランドのマイナーな作品も楽しむことができる。

良い時代になりましたよね。