オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

NODA・MAP『贋作 桜の森の満開の下』再び❗~WOWWOW

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(From Pixabay)

 野田秀樹の最高傑作と言われ、野田秀樹と故・中村勘三郎の約束事で歌舞伎でも演じられる『贋作 桜の花の満開の下』。本日WOWWOWで再び❗生の舞台を映像で観るのはちょっと…とごく最近まで思っていたヲタクですが、WOWWOWに加入してから数々の舞台を映像で観るようになり、遠くの観客席からは見えない、その時々の役者さんの表情や飛び散る汗を目の当たりにできるのは、映像の醍醐味だなぁ…と思う今日この頃😊

 

 さて本日の『贋作~桜の花の満開の下』、NODA-MAP2018年の上演。何と言っても白眉は、天智天皇の時代、桜の花舞い散る森の奥深く存在する王国の姫二人。姉の夜長姫(深津絵里)と早寝姫(門脇麦)❗恐ろしくも美しいファム・ファタール(男性を破滅させる魔性の女=仏語)、夜長姫。海外の作品におけるファム・ファタールって、セクシーでオトナのお色気ムンムン、真っ赤な口紅が似合う…ってイメージなんですが😅(文学ではサロメカルメンマノン・レスコーマクベス夫人、映画では『蜘蛛女』のレナ・オリン、『死刑台のエレベーター』のジャンヌ・モロー辺り❓)しかしそれに比べて深津絵里の夜長姫は、まるでその表情は清らかな少女。それなのに、口をつく言葉は狂気にまみれている。映像で見ると、毒を含んだ言葉を吐く時、深津絵里の表情がほんの一瞬あどけない少女から夜叉に変わり、狂気のひかりが瞳に宿る❗そんな夜長姫の、見えない蜘蛛の糸に絡めとられ、耳男(妻夫木聡)は、坂道を転がるように運命を狂わされていくのです。

 

  一方、妹の早寝姫(門脇麦)はひたすら純粋でひたむきな聖少女。美青年オオアマ(天海祐希。モデルは勿論大海人皇子天智天皇が瀕死の床にあるのに乗じて、密かに反乱を目論む)にひたむきな愛を捧げますが、劇の冒頭に登場する、古田新太による『ロミジュリ』のミミックに呼応するかのように、その後愛ゆえの悲劇に見舞われます。映画での門脇麦は、『愛の渦』『オオカミ少女と黒王子』『二重生活』『止められるか俺たちを』などで、屈折した、どこか翳のある、しかし心の奥に尖った刺を内包したような役が上手いと思って見ていたのですが、こういう、清らかにキラキラした役もハマるんだなぁ…。今放映中のNHK大河ドラマ麒麟がくる』の駒役、あの素地は早寝姫にあるかも…ですね😉

 

  舞台は、現実世界と地獄を行きつ戻りつしながら進んでいき、いながらにして地獄を見透すことのできる水先案内人が夜長姫なのですが、2つの世界の出入り口が、『狭(せま)鬼門』。フランスの作家アンドレ・ジイドの『狭き門』のメタファです。ジイドのテーマは言うまでもなく

狭き門より入れ、破滅に至る門は大きく、その路は広く、これより入る者多し

— マタイ伝福音書7章13節

  と、神の国、救いに至る門はいかに狭いか…ですが、野田秀樹にかかればそこはそれ、地獄の一丁目(笑)坂口安吾の原作もそうですが、西欧の二元的な世界とは違う、日本古来の、お化けや魔物や人間がそれぞれの世界を行きつ戻りつ共存する、ボーダーがあやふやな世界。そう、上田秋成の『雨月物語』や小泉八雲の『怪談』みたいに😊最近なら『となりのトトロ』とか❓海外でも上演された本作ですが、野田秀樹独自のジャポニズム、という感じです。

 

  何よりも舞台に狂い咲く桜の花が禍々しく美しく、セリフにも出てきますが、「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!」(梶井基次郎散文詩『櫻の樹の下には』)という一文がぴったりな幻想劇です。

 

  WOWWOWのことですから、また将来再放送、あるかな❓その折りには、ぜひ😍


贋作 桜の森の満開の下 | NODA・MAP 第22回公演