オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

やっぱりオム・ファタールだったトム・ヒューズ❤️~『ジョーンの秘密』

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 キノシネマみなとみらいで『ジョーンの秘密』。80才を越えたごくごく平凡な(…のように見えた)老婦人がある日突然、ソ連のスパイ(情報漏洩の反逆罪)を働いたというかどで逮捕された…という衝撃の実話を題材にした物語です。映画は、逮捕されたヒロインのジョーン・スタンリー(ジュディ・デンチ)が、その激動の半生を振り返る形で進んでいきますが、彼女が犯したとされる国家への背信行為、それは何を目的としたものだったのか❓本当にジョーンは英国を裏切ったのか❓だとしたら、それはなぜ…❓その経緯が、サスペンスタッチで解き明かされていきます。ジョーンがケンブリッジ大学物理学科の学生だった頃、ロシア人学生レオ・ガーリチ(トム・ヒューズ)から共産主義の活動に勧誘され、彼の思想に対するひたむきさとカリスマ性、巧みな弁論術に心酔し、それはやがて激しい恋愛感情に変わっていくのですが…。


 映画について語る前に、ケンブリッジ大学ソ連のスパイ活動の関連性について少々。「ケンブリッジ・ファイブ」と呼ばれた、第二次世界大戦中から戦後にかけて英国で暗躍したソ連のスパイ網について耳にしたことがおありでしょうか❓コードネーム等から確認できている人数は5名、自ら告白してソ連に亡命した者、国家の中枢にいながら秘密裏に活動した者いろいろですが、共通しているのが全員富裕層出身、名門のパブリックスクールからケンブリッジ大学に学んだ、前途有望な若者たちだった…ということです。映画でも、このケンブリッジ・ファイブをモデルにした人物が度々登場しています。BL映画の名作『アナザー・カントリー』、『裏切りのサーカス』、『イミテーション・ゲーム』などがそうですね。当時の英国の政治腐敗や階級制度に反発した彼らの眼には、共産主義は、公平と平等を約束してくれるパラダイスに思えたのかも。…そんな当時の英国社会の様相を頭に入れてこの映画を見ると、さらに興味深いかもしれません😊


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ジョーンは物理学、特に中性子学における学業の優秀さを買われ、戦時中に、とある国家機密プロジェクトのリーダー、マックス・デイヴィス教授(スティーブン・マックス・ムーア)の秘書として採用されます。ところがその国家的規模のプロジェクトとは、当時アメリカ、イギリス、ソビエト連邦など列強がしのぎを削っていた、原爆の開発計画でした…。ナチスと対抗し、さらには世界のパワーバランスを崩さない為には、英国はソ連と情報を共有すべきだ、「君が入手できる情報を流せ」とジョーン(ソフィー・クックソン)に迫るレオ。ジョーンは、そんな背信行為は出来ないとレオをはねつけます。そこには、レオの愛を信じきれない、恋する一人の女性としてのもどかしさ、辛さがあるのでした…。ところがそんな時、世界に先駆けて開発に成功した米国は、広島と長崎に原子爆弾を投下。その惨状を目の当たりにし、後悔の念に苛まれるジョーンが、最後に選んだ道は…❗❓

 

ドラマ『終わりなき世に生まれつく』(アガサ・クリスティ原作)の記事でも書きましたが、またもやトム・ヒューズ、謎めいた青い瞳と、何を考えているのか推し測れないアルカイックスマイルで相手の心をかき乱し、運命を狂わせていくオム・ファタールぶりを遺憾なく発揮しております😅ジョーンに対しても、決して「愛してる」とは言わない、彼女を抱き締める時は必ず「僕の可愛い同志~My little comrade…」と耳元で囁くレオ。恋する乙女に同志なんて言葉を使うなんて(怒)だけど、低く囁く声は物凄くセクシー(*´-`)っとに、悪い男だよ(笑)

 

最初はジョーンの明晰な頭脳と正義感を政治活動に利用しようと近づきながら、彼女の純粋さに次第に心を動かされ、時を同じくして、スターリンの独裁体制に疑念を抱き始めたレオの、強固な意志が少しずつ、砂のように崩れていく…。その微かな変化を哀しみと共に静かな佇まいに滲ませて、ああやっぱり得難い俳優さんだと、ヲタクはスクリーンに大写しになるトムくんの青く澄んだ瞳を惚れ惚れと眺めるのでした😊

 

本作品の監督、サー・トレバー・ナン、若干23才のベン・ウィショーを起用して、舞台でハムレットを演出したことがあるはずですが…。「このカリスマ性溢れるレオ役は君しかいない」と、トムくんを口説き落としたくらいだから、彼の俳優としての技量には惚れ込んでるはず。ナン監督、映画版ハムレット、ぜひトムくんでお願いします🙏(笑)  

 

  中年期も過ぎる頃になって、母親の思いもよらぬ真実を突き付けられた息子ニック(ベン・マイルズ)のショックは計り知れない😭弁護士である彼は、愛する母親に今まで裏切られていたのだと思い込み、自分の弁護を頼む母親に「弁護なんてできない❗母さんは祖国を裏切ったんだ」と激しい言葉を投げつけます。この場面は観ていてつらく、心が折れます😢

 

  しかし、その後に来る、記者団を前にしたジョーンのスピーチ(さすがのジュディ・デンチ❗)、そしてラストの爽やかなどんでん返し。ヲタクは心洗われるような涙を流しつつ、陳腐な表現かもしれないけれど、人類が世界の平和をいつか実現できるとしたら、それはやはり政治的駆け引きでもない、科学の力でもない、結局は人間の愛の力なのだ…という思いを強くしたのでした😊