オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

板谷由夏さんおススメの『裏切りのサーカス』

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(MI6の本部があるロンドン。「サーカス」の呼び名の由来は、以前ケンブリッジサーカスに建物があったことから…From Pixabay)

WOWWOWオンデマンドが、 ミニシアター文化への感謝と応援の気持ちを込めてオススメ映画10作品を無料配信…という、何ともイキなはからい😊ラインナップの中に『裏切りのサーカス』を見つけて、これがブログを書かずにいられようか(笑)

 

板谷由夏さんのコメント…

静かで淡々とした男達の心の中を探りながら見ていると、結構いろいろなところにいろいろなことが隠されていて、それを探すのが面白い映画だと思います。

まさに、まさにその通りですっ❗

 

  好きな映画は数々あれど、ストーリーも場面展開もすっかりアタマの中に入っているのに、あのセリフを言う時のあの俳優の唇の歪み方が見たいとか、あの時の視線はじつはどこを向いていたのか、彼が彼に殴りかかった真意は怒りか嫉妬か…とか、些細なことが気になって繰り返し観たくなる映画があるもの。『裏切りのサーカス』もそんな映画の一つ。

 

  舞台は1970年代、米ソ冷戦時代の真っ只中。世界中のあらゆる場所にスパイが暗躍していた時代。この映画は、英国諜報部MI6の上司から特命を受け、重要な情報ごと西側に寝返りたいという東側のスパイと密会する為、ハンガリーブダペストへ出向く一人の工作員(マーク・ストロング)の姿をカメラが捉えるところから始まります。この特命はなぜかソ連側に漏れており、彼はブダペストの路上で撃たれ、計画は失敗に終わります。


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(「ドナウ川の真珠」と言われるブダペストの街並み…From Pixabay)

  この事件をきっかけに、どうもMI6の幹部の中にソ連と通じている二重スパイ(いわゆる「もぐら」)がいるらしい…という事実があきらかとなり、その隠密捜査の為に、一旦は引退した初老のスパイ、ジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)がその任務に当たることになります。

 

  作者のジョン・ル・カレはMI6での勤務経験があり、恵まれない処遇の中、命を賭けて任務を遂行するスパイたちのリアルをその著作の中で時に冷徹な筆致で描き出しました。(去年12月に他界した…というニュースが入りましたね😢…合掌)

 

  スマイリーを演じるゲイリー・オールドマンがもう、その佇まいからお洒落の仕方からめちゃくちゃカッコよくて😍一見温厚な英国紳士に見えながら、MI6本部から重要書類を盗み出すよう部下のピーター・ギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)に命じる時の非情さよ。かと思えば、上司のコントロール(ジョン・ハート)から絶大なる信頼を置かれていると自負していた彼が、ふとしたきっかけで自分すらも「もぐら」ではないかと疑われていたと知った時の表情❗無言のうちに静かな失望感とやりきれなさを滲ませて…秀逸です。ル・カレ原作のジョージ・スマイリーシリーズでは、スマイリーと敵国ソ連の伝説的スパイ、通称カーラとの頭脳戦と、男同士の奇妙な絆が描かれていますが、この映画の中でベネ様相手にカーラとの初めての出逢いを語る時のゲイリーの長いモノローグも必見❗この時アカデミー主演男優賞にノミネートされながら、惜しくも受賞を逃したゲイリー。この時獲らせてあげたかったよね…ゲイリー本人と認識できないチャーチル首相役よりもさ(笑)

 

  一方、「これから君を危険に晒すことになる。しかし失敗して捕らえられても、私の名前は絶対口にするな」とスマイリーに冷酷に言い放たれても、彼に心酔しているがゆえに何の疑念もなく危地に赴くピーター・ギラム役ベネ様のピュアな青さ、若さゆえの情熱😍あー、もうたまりましぇ~~ん(⬅️アホ😅)奇人変人の天才か、屈折した役柄が多い昨今のベネ様。彼の若き日の貴重な正統派イケメン演技と言えるでしょう。

 

  二人以外にも前述のマーク・ストロングコリン・ファースなど、渋い英国イケメン俳優総出演…といった趣。今や英国だけでなくハリウッドのトップ俳優に上り詰めたトム・ハーディが髪をキンパに染めて、MI6の下で汚れ仕事を請負う若い工作員役。東側スパイの内縁の妻と禁断の恋に落ちる熱い男を演じています。

 

監督はあの「ぼくのエリ 200歳の少女」のトーマス・アルフレッドソン。裏切りと駆け引き、陰謀渦巻くストーリー展開に反して、彼の描き出す真冬のロンドンやブダペストの街並みの映像はひたすら静謐な美しさに満ちています。

 

この名作をまたとない機会にぜひ❗