オタクの迷宮~映画と舞台と音楽と Chaos-α

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チャドウィック・ボーズマンの衝撃~『マ・レイニーのブラックボトム』

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「 ブルースの母」と呼ばれた実在の歌手、マ・レイニーがシカゴでレコードを録音する、スタジオでの1日を描いた映画。劇中で披露されるのがレコードの中の1曲『ブラックボトム』なのです。

 

  冒頭の、南部のテント・ショー、子飼いのバンドやダンサーたちを侍らせ、人生のパワーと楽しさを爆発させるように歌うマ・レイニー。観客もマと一体になって、そこにいる誰もが幸せそう。当時、南部諸州では交通機関、学校、レストラン、娯楽施設などで黒人分離政策が適用されていました。「隔離はしても平等」の名のもとに…。勿論これは詭弁であって、理論的にはこれ以上の差別はありません。しかし、黒人のみで「隔離された」テントの中で歌い踊るマ・レイニーの弾けるような笑顔…。

 

  ところがどうでしょう。レコーディングで北部シカゴにやって来たマは、高級車に乗りきらびやかな衣装は身に付けているものの、目は虚ろで常にイライラし、白人のレコード会社の重役やマネージャーにはハナからケンカ腰。確かに、白人と黒人の融合政策がとられていた1928年当時の北部でマは白人たちと交わるようになった。ところが、彼女の口から語られるように、「(白人の)マネージャーから自宅に呼ばれたことなんて一度きり。あいつらは私の才能を食い物にしているだけ」それは、自らの才能だけを頼りに、業界の白人たちと渡り合い、ねじ伏せる闘争の日々の始まりでした。

 

  一方、マを待つ間スタジオで待機しているバンドマンたちの間でも、さまざまな人間模様が展開し、同じ境遇だからと言って必ずしも1つになれない、はじめは小さな亀裂だったものが、時間が経つに連れそれが大きくなり、取り返しのつかない分断になっていくさまが乾いたタッチで描かれていきます。

 

  幼少期に母親を白人の若者たちにレイプされ、そのトラウマから「いつか有名になって白人たちをひざまずかせてやる」という一念に取り憑かれているトランペッターのレヴィ役に、先頃43才の若さでこの世を去ったチャドウィック・ボーズマン。登場した時からもう、涙が止まらない😢なぜって、ガンに蝕まれた彼の身体は痩せ細って『ブラックパンサー』の時と比べると半分くらいになってる…。自らが置かれた境遇を受け入れられず、天に向かって「神などいない❗いるなら今この俺を殺してみろ❗」と絶叫するレヴィは、栄光の最中に世を去らなければいけなかったボーズマン自身に重なり、心抉られて画面を正視できませんでした😢

 

 

 

  自由の国アメリカ、平等の国アメリカ。能力さえあれば人種を超えて「成功できるはず」だったアメリカ。しかし、その果てにあったものは…❗❓

 

  レコーディングを終え、ギャラの200ドル(たったの200ドル!)を受け取って再び高級車に乗り込むマ・レイニー。その虚ろな視線の先には何があるのか❓…一方、マお抱えのバンドマンたちの間には、取り返しのつかない悲劇が起きようとしていました…。

 

  差別とか、ヘイトとか、時代のせいだとか、そんな単純な言葉では言い表せない様々なテーマが、「スタジオでの1日」にぎゅっと凝縮されたような映画。チャドウィック・ボーズマンの人生を最後に彩った入魂の演技をぜひ❗(マ・レイニー役のヴィオラ・デイヴィスも素晴らしい)

 

  ジャズ好きにはたまらない、当時のレコーディング風景と、マ・レイニーがいみじくも「人生そのものだ」と語る、哀切で憂いを帯びたブルースの調べが魂に染み入ります。そして、映画の最後にマ・レイニー自身の当時の貴重な音源が流れます😊

(Netflixで配信中。)