オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

『Mank/マンク』つながりでモノクロ映画の名作を語ろう~外国映画編


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(『第三の男』で重要な場面に登場するウィーン、プラーター公園の観覧車…Pixabay)

第93回アカデミー賞で、モノクロ映画の『Mank/マンク』が撮影賞と美術賞を受賞❗リアルタイムで授賞式の模様を放映してくれたWOWWOWでの、行定勲監督のコメント「モノクロ映画は陰翳のつけ方が非常に難しい。照明の技術も必要」がとても印象的でしたね。この映画のお蔭で、再びモノクロ映画の美しさが見直されてくるのではないでしょうか?ヲタクからすると、まさに谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讚』の世界。色彩を廃した、光と翳だけの究極の美の世界。今日はそんなモノクロ映画を独断と偏見で語ります。

 

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  『Mank/マンク』は、全盛期のハリウッドで稀代の天才と言われた俳優・監督、オーソン・ウェルズの『市民ケーン』の脚本家ハーマン J. マンキウィッツ(通称マンク)が主人公でした。しかしオーソン・ウェルズと言えば思い浮かぶのが、ヲタク的にはだんぜん『第三の男』のほうなんだよなー。ゴメンね、マンク(笑)監督・脚本は名匠キャロル・リードオーソン・ウェルズはクレジットにはトップに出てきますが、主人公ホリーがその行方を追う親友のハリー・ライム役なので、映画の中盤まで出番なし(笑)しかしひとたび画面に姿を現せば、その謎めいたオーラが圧倒的でした。

 

  舞台は第二次世界大戦直後、建物の多くは瓦礫と化し、まだ戦争の傷痕癒えない、米英仏ソ4分割統治下にあったウィーンの街。売れないアメリカ人作家ホリー・マーティンス(ジョセフ・コットン)は、ウィーンに住む親友のハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)から「ウィーンに来たら、いい仕事を紹介する」という手紙を貰って、期待に胸を膨らませてウィーンにやって来ます。ところが、ハリーのアパートを訪ねると、管理人から「ハリーは交通事故で亡くなった」と言われ、衝撃を受けます。さらにハリーの葬式で、彼がウィーンで悪名高い密売人だったことを聞かされ、打ちのめされるのでした。しかし、ハリーの死の現場に、素性の知れない「第三の男」がいた事実を突き止めたホリーは、それが単なる事故ではなかったことを疑い始め、真相究明に乗り出しますが、彼を待っていたのは残酷な真実でした。

 

  戦後間もなくのウィーン、各国の思惑が絡み合い、ヤミ物資や偽造パスポート等不法な商売がまかり通る中、悪に手を染めながらも必死に生き抜こうとする男と女。

 

  作品的にはフィルム・ノワールのサスペンスなので、窓から見下ろすウィーンの街角、遠くにいる小さな人物の翳が石畳に異様に長く伸びているとか、建物の陰に潜んでいた人物に灯が照らされて顔が浮き上がるとか、追ってくる人物を影だけで表現するとか、モノクロ映像だからこそ主人公の恐怖がいや増すしくみ😅映画史上名シーンとしても名高い、下水道での追いつ追われつ。真っ白な壁に人の影が大きく写し出される時の美しさよ。

 

  考えてみれば、モノクロ映画ってサスペンスやホラー、スリラーにぴったりな映像表現な気がする。暗闇に何が潜んでいるか分からない恐怖。そんな暗闇から、真実が顔を出した時の衝撃。モノクロ映画ではないけど、そんな光と翳の恐怖を巧みに演出したのがブライアン・デ・パルマ監督じゃないでしょうか。(『殺しのドレス』『アンタッチャブル』『ブラックダリア』)

 

そう、モノクロ映画はサスペンスによく似合う。

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 もはやコメントの必要もないアルフレッド・ヒッチコック監督の名作『サイコ』。ヒロインのジャネット・リーが会社のお金を持ち逃げして、見ているこっちもハラハラドキドキ、どうやって逃げ切るのかと思いきや、途中で立ち寄ったベイツ・モーテルで、シャワー浴びてる最中にまさかの惨殺ヽ(;゚;Д;゚;; )いやもう、その衝撃と来たら腰抜かしましたよね😅ヒロインがなんでこんなに早く殺されちゃうんかい?って。ヒッチコックのいぢわるじいさんここにあり(笑)でもって、モノクロ効果が最大限に発揮されたのは、あの、排水口に流れていく血の場面ですよ。

流れる血が、血が、モノクロだからこそ、めちゃくちゃコワイのよぉぉぉ~❗

カラーだと、頭のどこかで(まあどうせ、人工の血糊だから)って思って見れるけど、白黒だと妙にリアルで、ヒッチコック爺さん、絶対その効果狙っていたと思う。反対にギレルモ・デル・トロ監督の『クリムゾン・ピーク』は、恐怖というより、真っ白な雪山と赤い血のコントラストを強調した一種の様式美を狙ってる感じなんでカラーが必須なんですけれども。


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  ベイツモーテルの外観も内部も、モノクロだからこその恐怖倍増😅今は映像技術が発達して、背景もリアルなのかCGなのか区別がつかないけど、当時はセットだと作り物感アリアリ(笑)。同じヒッチコックの『レベッカ』。イギリスの古城を舞台にしたいわゆるゴシックホラーですが、画面上、翳になる部分が多くて怖かった。暗い部屋が無数にあって、そもそもどこに誰が隠れているかわからないシチュエーションって、恐ろしすぎる。

 

  最後に、フランスのフィルムノワールをひとつ。フランスの名女優、故ジャンヌ・モローの『死刑台のエレベーター』。冒頭から流れるマイルス・デイヴィスの気だるいトランペット。いきなり瞳を潤ませたジャンヌ・モローのどアップ、公衆電話の受話器に向かって囁くように彼女が呟く"Je t'aime. ジュテーム"の音楽的な響きにうっとりしていると、「(愛しているのなら)夫を殺して」と続くので、思わずのけ反る(笑)社長夫人のフロランスが、身も心も捧げつくしている男ジュリアンは夫の部下。第二次世界大戦で戦功を上げ、フランスでは英雄視されているけれど、戦争で人間らしい心を失ってしまったものか、彼女に命じられるままに淡々と殺人をこなしていくさまが何とも怖い。モーリス・ロネの、彫刻のような冷たい美男子ぶりがゾクゾクするほど素敵で、フロランスが破滅も厭わないほどのめり込んでいくのも納得(笑)

 

  ジュリアンは社長室で社長を射殺し自殺に偽装しますが、回収し忘れた証拠品を取りに社に戻った時、エレベーターに閉じこめられてしまいます。その間に、路上に駐車してあったジュリアンのスポーツカーを盗んで無軌道な逃避行を始める若い男女。一方、待ち合わせの場所に現れないジュリアンを探して、パリの街を彷徨い歩くフロランス。(かなりのスピードで車が走ってくるシャンゼリゼ通りを無表情にジャンヌ・モローが横切っていくシーンは凄い😮)

 

  まるで地獄への一本道のように規則的にライトが並ぶ夜のハイウェイ。車のヘッドライトに滲むように浮き上がる小雨降るシャンゼリゼ。現像液から、次第に浮かび上がって来る1枚の写真。どこをとってもスタイリッシュな映画(フランス映画だから、シックかエレガントかな?=笑)で、なんとルイ・マル監督25才の時の処女作です。映画界に彗星の如く現れた若き天才。今で言えば、グザヴィエ・ドランといったところでしょうか。


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  モノクロ映画って色彩が無くて眼から入る情報が少ないぶん、音楽がより印象的に耳に残るような気がします。『第三の男』ではウィーン生まれのツィター奏者アントン・カラスが奏でるテーマ曲(恵比寿駅で流れてるアノ曲です😅)が耳を離れないですし、『サイコ』の殺人場面、あのキーキーいう不快なバイオリンの音、『死刑台のエレベーター』全編を流れるモダンジャズは映画の内容と密接に結び付いています。

 

  …って今日は、少し喋りすぎましたね(笑)モノクロ映画について語り始めたら、ヲタクなかなか終わりませんで😅続きはまた次回❗