オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

モノクロとカラーの織りなす美しさ~『婚約者の友人』&『銃』


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(Louvre from Pixabay)

 前回のモノクロ映画特集では、クラシック作品とも言うべきモノクロ映画の数々について語りました。今回は比較的新しい2000年に入ってからの映画で、カラーとモノクロのシーンを織り混ぜて、その対比により、特別な効果を狙った作品を取り上げてみようと思います。


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  まずはフランソワ・オゾン監督の『婚約者の友人』(2016)。1919年、ドイツの小さな街。婚約者のフランツを第一次世界大戦で失ったアンナ(パウラ・ベーア)はいまだに黒衣に身を包み、息子の死に打ちのめされている彼の両親を気遣いながら一緒に暮らしていました。そんなある日、フランツの墓に花を手向け涙ぐむ一人の青年(ピエール・ニネ)の姿が…。彼はアンナにフランス人のアドリアンと名乗り、大戦中敵国同士でありながらフランツと友情を結び、ルーブル美術館にも一緒に出かけたことがある…と語ります。村人の冷たい視線をよそに、少しずつ彼と打ち解けていくアンナ。しかしアドリアンは、大きな秘密を抱えていました…。

 

  アンナの心象風景に呼応するかのように、モノクロ(哀しみ、緊張感、不安)とカラー場面(幸福感、希望)が交互に現れる演出がユニーク。アドリアンはなぜ、アンナの住む村にやって来たのか?ゲイをカミングアウトしているオゾン監督、ホモセクシュアルを題材にした作品も多いので、ヲタクは見ながらそっち方向で推理していたんだけど…違いました(笑)

 

  愛も、友情も、家族も、全てを引き裂く戦争。見ている私たちは、それから20年後には再びフランスとドイツが敵国同士となって戦う残酷な史実を知っているから、なおさら胸が痛みます。…しかしヒッチコックに負けるとも劣らない皮肉屋で意地悪なオゾン、アドリアンの素性が判った後の展開は彼の本領発揮ですね😅

 

  イヴ・サンローランの伝記映画で、まるでサンローラン本人が降臨したような強烈な存在感を示したピエール・ニネ、『ある画家の数奇な運命』でゲルハルト・リヒターの最愛の妻を演じたパウラ・ベーアの、主演二人が素晴らしい。特にラストのベーアの表情は神がかっております😊

 

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  日本映画からは、『銃』(2018)。さしたる目標もなく、日々虚無の世界に生きる大学生トオル(村上虹郎)。それが、荒川の河川敷で偶然拳銃を拾ってから、彼の世界は少しずつ変わっていきます。銀色に光る美しい銃身。まるで愛しいもののように手に取って拳銃を磨くうち、(銃は撃つためにこそ存在する。それならなぜ、俺はそれを撃ってはいけないのか?)という強迫観念に囚われていきます。そして、怪我で瀕死の状態の猫を銃で撃ってから、トオルは、今まで自らも、気の良い友人たち(岡山天音広瀬アリス…天音くんの受けの芝居が相変わらず素晴らしい♥️主人公の友人役をやらせたら右に出る者はいない😊)と共にいたはずの光の当たる世界から、ついに一歩踏み出してしまいます。

 

  トオルの銃の不法所持と動物虐待を疑って、彼をジワジワと追い詰めて行く刑事にリリー・フランキー

あなた、人を殺したいと思ってるでしょ。

拳銃を持っているとね、必ず使いたくなる。

という、悪魔の囁き。

彼のメフィストフェレスぶりが凄い。そして、悪魔と契約を結んでしまったトオルを演じる村上虹郎の銃を構える時の恍惚の表情と、熟して腐る寸前のような色気も。

 

そして衝撃のラスト。見ている私たちは、なぜ今までモノクロ画面だったのか、初めてその理由を知るのです。