オタクの迷宮~映画と舞台と音楽と Chaos-α

変わり者よと言われても 今日もオタクで生きてゆく

ウィンザーノットにまつわる『シングルマン』と007ジェームズ・ボンドのお話

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(ジョージの住む家。隅々にまでトム・フォードの美学に貫かれている)

高名な ファッション・デザイナーであるトム・フォードが初めて監督を務めた映画『シングルマン』がなんと1400円で購入できるとか❗いやはや、良い時代になりました。もちろん、映画館で見るのがベストなことは言うまでもないけれど、コロナ禍でおうち時間が長くなっている昨今、映画のチケットと同額で名作が家で(しかも何度も❗)楽しめるのはこの上ないシアワセ(*´∀`*)

 

 『シングルマン』。1960年代、キューバ危機下のアメリカ、ロサンゼルス。現地の大学で教鞭をとる英国出身のジョージ(コリン・ファース)は、8ヶ月前の交通事故で、同棲していた恋人ジム(マシュー・グード)を突然亡くし、生きる希望を失っていました。その当時の英国と言えば、同性愛を犯罪とする法律が廃止されたのがようやく、1967年のこと。まだまだ激しい差別があった時代。彼はきっと、ジムとの愛の為に、自由を求めてアメリカに移住したのかもしれませんね。映画の中では何も語られてはいませんけれども。

 

  アメリカに移り住んだとはいえ、同性愛者に対する明らかな差別がアメリカにおいても厳然と存在することは、隣に住む少女との会話の中からもわかります。(少女は無邪気に、父親がジョージのことを「オカマ」と陰口を叩いていることを本人の前で暴露してしまう)だからこそ、ジムとの愛の生活だけが、彼の生きる全てだった。ジムは英国に里帰り中に亡くなった為に、ジョージは死に目に会えなかったんですね。それどころか、彼らの秘めた関係を受け入れられないジムの親族から、葬儀に出席することさえ拒否されてしまいます。ジムを失った今、もはや人生は彩りと光を失った。自ら命を経つことを決意した彼は、遺書を書き始めます。

 

(死装束の)ネクタイはウィンザーノットで

 

死を目前にして、彼の心には望郷の念が沸々と湧いてきたに違いありません。しかし彼の祖国である英国は、マイノリティである彼を受け入れてはくれなかった。それでもなお、極めて英国的なネクタイの結び方にこだわる彼が哀しい…。

 

  ゲイであることをカミングアウトしているトム・フォードの視点から描かれる男たちの美しさときたら、目映いばかり。この映画でヴェネチア映画祭主演男優賞を受賞した、ジョージ役コリン・ファースの端正な魅力、彼が命を賭けて愛したジム役マシュー・グードの、溌剌とした中に潜む小悪魔的な可愛さ。(ジョージがカフカを読んでいる側で、「何読んでるの?」と聞かれたジムがいたずらっ子みたいに「ティファニーで朝食を」を見せる、その時のマシュー・グードの表情がめちゃめちゃ好き😍)そして、ジョージに憧憬を抱き、透明なペールブルーの瞳で真っ直ぐな気持ちをぶつけてくる大学生ケニー役にニコラス・ホルト。最近は『女王陛下のお気に入り』や『The Great /エカチェリーナ時々真実の物語』のクズ貴族 or王様役、『エジソンズゲーム』の変人科学者など、ヒネた役の多い彼ですが、この作品のピュアで清冽な青年がステキすぎる。たまにはこんなニコラスが見たいわ(笑)

 

  ウィンザーノットとは、ウィンザーエドワード8世が初めて結んだからそう呼ばれるようになった…という俗説がありますが、エドワード8世といえば、離婚歴のあるアメリカ人女性、シンプソン夫人との結婚の為にわずか1年足らずで国王を退位したエピソードで有名。(いわゆる「王冠を賭ける恋」ってやつですね。ロマンチックなネーミングとはうらはらに、実情はかなりドロドロしてたみたいですが😅)エドワード8世が退位した為に突如として即位することになったのが弟のジョージ6世で、コリン・ファースは映画『英国王のスピーチ』でジョージ6世役を演じ、アカデミー主演男優賞を見事受賞しています。上のセリフも、コリン・ファースに対するトム・フォードのオマージュが込められているのかな❓…と思うのですが。(今作の役名もやっぱりジョージだし)…って、深読みしすぎかな😅


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  ウィンザーノットと言えば、忘れてはならないのが、007ジェームズ・ボンド。彼には、生粋の英国紳士『シングルマン』のジョージと違って、こんなセリフがあります。

ウィンザーノットにしているヤツは信用できない

(ウィンザーノットみたいに時間のかかる気取ったネクタイの結び方をするヤツは胡散臭いって意味らしいです😅)

 

  日本ではボンドと言えば「英国紳士の典型」というイメージで捉えられていますが、実はジェームズ・ボンド、父親はスコットランド人で母親はスイス人。MI6の中でも一匹狼で独断専行ぎみなのも、彼の出自や生育環境を考えると納得できますよね。ネクタイの結び方の他にも、紐付きの革靴はキライでスリッポンが好きだとか、原作のボンドは英国式のオーソドクシーを嫌う反逆児のイメージです。

 

  原作のイメージからすると、ヲタク的に歴代ボンドの中で一番しっくりくるのがやはりダニエル・クレイグかな…と思います。そう言えば、ダニエル・クレイグのボンドと言えば、トム・フォード


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プライベートでもお気に入りというサングラスは言うに及ばず、ダニエル・クレイグのボンドは、「慰めの報酬」(2008年公開)「スカイフォール」(12年)「スペクター」(15年)と、トム・フォードのファッションなしには語れません。ダニエル・クレイグが演じるボンドの最後の作品「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ(NO TIME TO DIE)」でも、トム・フォードがファッションを担当しているそうです。(いつ公開されるのか未だに未知数ですが😅)

 

  …してみると、『シングルマン』のジョージの遺言も、気取らない反骨漢ボンドに引き比べて、アメリカに長年住みながら頑ななまでに英国スタイルを固持するジョージに対する、トム・フォードなりの、ちょっとした揶揄が読み取れない…わけでもない(笑)トム・フォード自身はアメリカ人ですからね。

 

  セリフひとつで無限に想像(…妄想❓😅)の翼を広げることができる…。

やっぱり映画って楽しいね❗(笑)