オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

歴史上のイケメン列伝②~アラビアのロレンス

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(From Pixabay)

 デヴィッド・リーン監督の往年の名作、映画『アラビアのロレンス』(1962年)。中学生の頃、初めて見て以来砂漠の雄大な景色と主人公ロレンスの複雑怪奇な人間性、当時のアラビア半島における欧州列強の勢力地図に強烈に惹かれ、映画を繰り返し見ると共に、さまざまな文献を読んではますます『アラビアのロレンスの世界』にのめり込むことになったのです。

 

  アラビアのロレンスことトマス・エドワード・ロレンスは、オックスフォード大学で考古学を学び、第一次世界大戦で従軍、カイロの陸軍情報部で軍用地図の作成に携わります。映画ではカイロ時代の彼(演・ピーター・オトゥール)の、どこかコミュ障ぎみで周囲から煙たがられており、マッチを点けては手で揉み消すというクセが、のちのち相次ぐ戦乱で肥大していく彼のマゾヒズムの萌芽を感じさせ、一瞬の動作でその人物の心理を描いて見せる、ロバート・ボルト脚本&リーン監督のゴールデンコンビの巧みな職人芸を感じさせます。  

 

  当時のアラビア半島オスマン・トルコ帝国の支配下にあり、さらにアラビア民族はハリトやハウェイタットをはじめとして多数の部族に分裂、領土や水源を巡って互いに紛争を繰り返している状況でした。

 

  ロレンスはおそらく様々な部族を統一して「アラビア」という概念を現実化してみせようとした最初の人物でしょう。彼は当時、アラブ独立戦争でリーダーであったマッカのシャリフ、ファイサル王子(映画では英国の名優、サー・アレック・ギネスが演じています)と親交を結び、互いに争っている部族の同盟軍を編成して、トルコ軍の要塞アカバに対し、「死の溶接炉」と呼ばれ、一度入ったら生きて帰れないと言われた灼熱のネフュー砂漠(Nefud Dessert…下の地図参照)を縦断して奇襲をかける作戦を考え出します。(源義経のひよどり越えとアイデアは同じですよね😅)「アカバのトルコ軍の大砲は海に向かって固定されている。まさかネフュー砂漠から敵が襲ってくるとは考えてはいまい。私は奇跡を起こしてみせる」と断言するロレンスに、「クレイジーだ」と反発しながらも、その決断力と強靭な意思、カリスマ性に次第に惹かれていくハリト族の長アリ(演・オマー・シャリフ)。

 

  アカバ攻略を果たし、アラブ人たちから神聖な白いアラブの民族衣装を贈られたロレンス。真っ白な衣装を風に翻し、陶酔の表情を浮かべながら列車の屋根の上、跳ねるようにダンスして、アメリカ人記者のカメラに笑いかけるロレンスの強烈なナルシシズム

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(From Pixabay)

  しかしロレンスの栄光は、アカバ攻略を頂点にして次第に翳りを見せ始めます。トルコ軍の物流を絶つ為に、ダイナマイトで次々と鉄道を爆破するというゲリラ作戦を繰り返すロレンスたち。(ロレンスのゲリラ戦法は、後年ベトナム戦争において、ベトコンたちに戦いのヒントを与えたと言われています)しかし長距離移動を強いられる作戦の間にアラブ人の戦士たちは次第に疲弊し、ロレンスは可愛がっていたお付きの少年二人をも失うことになります。

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  そしてロレンスは、戦いの中で、自分たちの利益の為に略奪と殺戮を繰り返すアラブ人たちの姿を目の当たりにし、彼らのうち大多数には「アラブ独立」というひとつの概念、理想を植え付けるのは未だ無理なのだ…と、絶望的な結論を下すに至ります。また、ロレンスたちが命がけで戦っている間、サイクスピコ条約に代表されるように、欧州列強は第一次世界大戦後に旧オスマン帝国アラビア半島をどのように分割統治するか、秘密裏に交渉を進めていたのです。


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(ロレンスの自伝『知恵の七柱~Seven Pまillars of Wisdom』に掲載された写真)

  そして、ロレンスにとって運命の日がやって来ます。トルコ領ダルアの占領作戦の為、現地人に化けて偵察に出かけたロレンスは、同性愛者の司令官に捕らえられ、情交を迫る彼を拒否した為に、一晩中鞭打ちの刑を受けることになります。金髪碧眼、白い肌のロレンスに欲望を滾らせるトルコ人司令官に、アカデミー賞俳優(『シラノ・ド・ベルジュラック』)であり監督でもあったホセ・ファーラー。わずか10分ほどの登場なんですが、その存在感に圧倒されます。


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  ヲタクは前にも述べたように、映画を見てトマス・エドワード・ロレンスその人自身に興味を持ち、「アラビアのロレンス」(中野好夫著/岩波新書)、彼の自伝「Seven Pillars of Wisdom」を読みましたが、自伝の中で彼は、この一夜について微に入り細に入り、しかも淡々と記述しているんですね。かえってこう……微かな狂気さえ感じる文章でした。

 

  この一夜を境にして、ロレンスの人格はどこか、崩壊してしまったようです。それと同時に、戦いにおいて、大義よりも殺戮を繰り返すことに次第に快感を覚えていくロレンス。ダマスカス進軍の途中、ある村で大量殺戮を行ってきたトルコ軍と遭遇したロレンスは、「Enough. Stop.(もう十分だ。やめろ)」というアリの制止も聞かず、狂ったように銃を振り回し、「No Prisoners!(捕虜など許さぬ。皆殺しにせよ)」と叫び続け、以前はあれほど忌み嫌っていたジェノサイドの罠に、自ら陥っていくのでした。

 

  度重なる戦いによって徐々に引き出される自らの残虐性に戦慄し、アラブ独立という大義が、当事者であるアラブ人たちには理解されず、他でもないロレンス自身もまた、イギリスやフランス、ロシアの帝国列強に利用される一つの駒にしかすぎないことを知った時の彼の底知れぬ絶望感。

 

  全ての夢破れ、アラビアの民族衣装を脱いで英国陸軍の軍服に着替え、軍用トラックに揺られてダマスカスを去るロレンスの瞳は、何も映してはいない。絶対的な虚無。彼の乗ったトラックをオートバイが追い抜いていく乾いた音。帰国後にオートバイ事故で46才の若さで世を去る彼の、まるで死の序曲のように…。

強烈な余韻の残るラストでした。

 

 作品賞をはじめ、アカデミー賞7部門を獲得した名作です。

 

余談ですが、ヲタクの推しジャック・ロウデンがゲームソフト「バトルフィールド1」でアラビアのロレンスを演じています。映画でロレンスを演じたアイルランド人俳優ピーター・オトゥールはダークヘアを金髪に染めていましたが、ジャクロくんは元々金髪碧眼なので、イメージぴったり😍誰かリメイクしてくれないかな~🎵


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