(フレイザー家が暮らすニューヨークのマンハッタン)
臨床心理士のグレイス(ニコール・キッドマン)はニューヨークの豪奢なアパートメントで、高名な小児科医の夫ジョナサン(ヒュー・グラント)と名門私立校に通う息子ヘンリー(ノア・ジュプ)とともに、人も羨むセレブ生活を送っていました。ところが、学校のチャリティー委員会で一緒になった若いママのエレナと知り合ってから、彼女の、完璧だったはずの人生には、次第に暗い影が…。(エレナは委員会の席上で、偶然一緒になったスポーツクラブで、チャリティ会場で、なぜかグレイスに向かって奇嬌で不気味な行動を繰り返すのです)そんなある日のこと、エレナが顔を潰された撲殺死体で発見され、時を同じくして、夫のジョナサンが失踪してしまいます。フレイザー一家は警察の捜査対象となり、理想的な夫だと信じ込んでいたジョナサンの、次第に明らかになる衝撃の素顔…。それをきっかけに、グレイスは身を切られるような残酷な真実に向き合うこととなり、彼女の人生は一挙に破滅ヘと突き進んでいます。
殺人事件の渦中に巻き込まれたグレイスを見て、手のひらを返したように離れていく周囲のママ友たち。絶望と孤独、苛立ち、夫を信じようとしながら信じきれない心の惑いを表現するニコール・キッドマンはさすがの演技力❗
脚本は「ビッグ・リトル・ライズ」のデヴィッド E ケリー。「ビッグ・リトル・ライズ」でニコール・キッドマンは、今作とは真逆の、とっくに家庭は崩壊しているのに、セレブなママ友仲間にそれを知られたくないプライドと虚栄心から小さなウソを重ね、追い詰められていく女性を演じて秀逸でした。
今作品、後半は息詰まるような法廷劇となっていき、フーダニットのサスペンスと同時に、検察側と弁護側の虚々実々の駆け引きや、人間の心理の不可思議さ、恐ろしさに焦点が当てられていきます。事件の裏に潜む驚愕の真実が明らかになるにつれ、次第にあらゆる神経が研ぎ澄まされていくかのようなキッドマンの演技に注目❗
夫役には、お久しぶりね~🎵のヒュー・グラント。 一時は『ブリジット・ジョーンズの日記』『フォー・ウェディング』をはじめとして、「ロマコメ・プリンス」だった彼。オックスフォード大卒で英国紳士、いかにも清潔で誠実そうなイケメン。そのイメージをウリに一世を風靡しましたが、一転、公道の車中で売春婦とワイセツ行為に及んだとか、誰かを殴ったかどで逮捕され、たちまちのうちに偶像崩壊、単なる「アブナイオジサン」に成り果てた(笑)。当時のファンの悲しみいかばかりか…ってカンジですよねぇ…。
しかしそれから数十年を経て、今作品の演技で一発逆転、マスコミからは「奇跡の復活」と騒がれました。齢(よわい)六十、還暦を迎えたヒュー、スキャンダルを逆手にとって、ニコール・キッドマンに負けない迫真の演技を見せてくれます。(二人とも演技が巧いから、観ているこっちがうっかりミスリードされて、翻弄されちゃうんですよね😅)
ニコール・キッドマン演じるヒロイン・グレイスは、ニューヨークにオフィスを構え、高額なカウンセリング料をとる臨床心理士の設定。カウンセリングで患者を冷静に分析する場面が幾度か出てきますが、一番身近な夫の心理にはまるで無知だった…というアイロニー。『ビッグ・リトル・ライズ』もかなり皮肉で苦い、セレブの浅薄さを揶揄するようなストーリー展開でしたが、これはデヴィッド E ケリーの脚本の持ち味なのかな…。(原題の『The Undoing』は破滅(の原因)といった意味)「心理的バイアス」とか、心理学の専門用語が時々出て来て興味深かった。
ベテラン俳優のドナルド・サザーランド(息子はあの『24』ジャック・バウワー役、キーファー・サザーランド)がニコール・キッドマンの父親役で出演しており、権力も財力も有り余るほど持っていながら、愛する娘を真の意味で幸福にはしてやれない老いた父のもどかしさを滲ませてサスガ。
名優たちの演技のアンサンブルを堪能できる、大人の大人による大人のためのミステリー…といったところでしょうか😊