オタクの迷宮~映画と舞台と音楽と Chaos-α

変わり者よと言われても 今日もオタクで生きてゆく

私たちもまた悠久の歴史の一部である~Netflix『時の面影』

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(サットン・フーの出土品が展示されている大英博物館…From Pixabay)

 1930年代後半まで、イギリス最古の遺跡は、遥か北方からやって来てイングランドを征服したヴァイキングのもの…と信じられていたのですが、1940年代、第二次世界大戦前夜にサフォーク州で発見されたサットン・フーの遺跡が、それまでの定説をまるっきり覆しました。文学作品で言えば、イギリス最古の叙事詩と言われる『ベーオウルフ』や『アーサー王伝説』の時代に、イングランド本土にも文明が存在していたという事実を証明する、英国考古学史上最大の発見だったのです。

 

 この映画は、世紀の大発見がいかにしてなされたか、その顛末を描いたもの。サフォーク州ウッドブリッジ近郊のカントリーハウスに幼い息子と二人で住む未亡人のイーディス(キャリー・マリガン)の依頼を受け、近所の博物館のアルバイトだったバジル・ブラウン(英国のベテラン名優、レイフ・ファインズ)が彼女の家にやって来るところから物語は始まります。

 

  彼は小学校卒業後、生活のために農作業をしながら、絵、天文学、地理学、地質学を通信教育で学んだ、言わば「叩き上げ」。サットン・フー遺跡は、イーディスの、考古学では素人でありながら、まるで神がかっているとも言える鋭い直感力(スピリチュアル…と言ってもいいかもしれない😅)と、バジルの掘削者としての豊富な体験により奇跡的に発見されるのです。しかし、いざ発見されたとなると、それまでイーディスの言うことなど見向きもしなかった村の博物館や、大英博物館から、大挙して関係者が押し寄せてきます。

 

  大英博物館の考古学者チャールズ・フィリップから「これから後は、考古学者たる私の仕事だ。お前は学位も持たないただの掘削者(Excavator)だろう。」と暴言を吐かれて著しくプライドを傷つけられ、泊まり込みで掘削を続けていたイーディスの館を抜け出して、自宅に帰って来るバジル。その時、彼を励ます奥様の言葉が泣かせるんですよ😢(バジルの妻メイは、実際にも、幾つもの仕事をかけもちしながら、バジルの遺跡の掘削作業を経済的に支えたと言われています)

 

掘削は過去や現在でなく、未来のためなんでしょ?次の世代にルーツを伝えるのよね。

未来の人と祖先を繋げる仕事でしょ。

だから戦争が近づいても掘り続ける。

意義があるから。

戦争より永劫の価値があるから。

妻の励ましによって今ひとたび遺跡掘削の意義をかみしめたバジルは、「たとえ名前が残らなくてもいい。下働きでもかまわない」と、再び発掘の現場に戻っていくのです。

 

 一方イーディスは、重度の心臓病を患い、次に発作が起きたら命の保障はないと医者に宣告を受けていました。サットン・フーの船墓遺跡を見て、「これに乗ってママと宇宙まで行けるかな❓」と尋ねる幼い息子を、早晩置いて逝かなくてはいけない悲しみ、苦しみ😢

「人間は結局、最後は朽ちて行くだけね」と嘆くイーディスにバジルは

掘り出したのは人の生きざまです。

(私たちは)洞窟の壁の手形から続いている。……私たちもその悠久の一部です。消え去るわけではない。

と励まします。

 イーディスは、その言葉に自らの存在意義を見出し、サットン・フー遺跡の全ての埋蔵品発掘に、人生最後の炎を燃やすのでした…。

 

  『プロミシング・ヤング・ウーマン』で、セクハラ男たちに鉄槌を下す、ケバい化粧のキッチュな復讐鬼をぶっ飛んだ演技で魅せたばかりのキャリー。今作では真逆の、静かな中にも意思の強さを感じさせる薄幸の未亡人役。彼女の演技の幅の広さを実感します。都会の喧騒な生活を嫌い、普段は英国の片田舎で家族と静かに暮らしているというキャリー。今回の役は、普段の彼女に非常に近いのかもしれませんね😊

 

  ヲタクは大英博物館が大好きで、ロンドンに行く度に立ち寄っていましたから、3回位訪れていると思います。サットンフー遺跡は大量に宝物が出土した為、1つの大きな展示スペースを形成しています。遺跡の発掘に、こんな深い人間ドラマがあったとは…。最近スペースに掲示されたというバジル・ブラウンについての記述は見逃したので、またいつか、大英博物館にサットン・フー遺跡を見に行きたい❗

 

  世界が戦争にひた走っていた暗黒の時代、立場、境遇は違えども不思議な友情で結ばれ、遺跡の発掘に「永遠」を見ようとした二人。

英国アカデミー賞各部門にノミネートされた秀作です。


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