オタクの迷宮~映画と舞台と音楽と Chaos-α

変わり者よと言われても 今日もオタクで生きてゆく

『青天を衝け』が画期的な大河ドラマになった理由~『篤太夫、帰国する』

  冒頭から家康さまが登場して、私たち視聴者があっけにとられているのを見透かしたように「まだ出てくるのかって?」と、からからと大笑い。「大政奉還で政権はすっぱりと徳川幕府から新政府に移ったのではないの?」という私たちの、今まで漠然と抱いていたイメージを木っ端微塵にしてくれるのです。政権を奪還したものの、あちこちで旧幕府の反乱分子が火の手を上げ、延々と続く戦いで金庫は底をつき、さらには未だ人心も掌握できていない新政府の窮状。それを家康さまの短いセリフ、いや彼が登場したというその事実で全てを語る、脚本と演出の心憎いこと。

 

  登場する人物一人一人にくまなくスポットライトを当て(モブキャラは一人もいない❗)、説明的な台詞や長いナレーションに頼るのではなく、簡潔な会話や役者さんたちの表情、一挙指一投足でその人となりを表現してみせる独特の「青天」スタイル。そして、その優れた作術法に見事に応える、主演の吉沢亮さんをはじめ役者さんたちの熱量の凄さよ。

 

  今夜の見所も数えきれませんが、特に、幕府にあって「機を見て敏」、あまりにも才気に溢れ時代を先取りし過ぎたゆえに新政府に危険人物と目され、非業の最期を遂げる小栗上野介(武田真治)。突き出した舌の先にはあの、アメリカから持ち帰った、彼の夢の象徴たる一本のネジが…。この一瞬で、彼の道半ばの無念を表す、見事としか言い様がありません。

 

  また、箱館五稜郭に立て籠って最後の抵抗を試みる成一郎(高良健吾)と土方歳三(町田啓太)。新撰組で一二を争う剣術の腕を持ち、葉隠武士の典型のようなイメージだった土方が、誰よりも早く断髪洋装に身を固め、剣を銃に持ち代えて颯爽と戦うギャップ萌え♥️案外新しいモノ好きで好奇心旺盛だったのね、土方(笑)ここでも、「その一瞬で全てを語る演出術」が生きていると思います。

 

    そして、何と言っても今夜のクライマックスは、篤太夫の見立て養子・平九郎(岡田健史)の悲劇的な最期でしょう。兄や年上の従兄たちに憧れ、世の中の役に立ちたいと命の炎を燃やしながら、志半ばで倒れた彼。人が死ぬのを初めて見て、恐怖に怯えながらも自らを鼓舞し続け、最後まで武士として誇りを失うまいと必死で戦う平九郎の姿に涙が止まらない😭そして、平九郎の、まるで歌舞伎の一場面のような「死への道行き」と、川村恵十郎(波岡一喜)らからその顛末を聞きながら、怒りに震え、虚しさと悲憤の血の涙を流す篤太夫(吉沢亮)を交互に描く……という、素晴らしい演出。今夜の吉沢さんは、殆ど台詞のない中で表情だけで全てを語る、もはや渋沢が憑依した…と言ってもいいほどの鬼気迫る演技で、背筋が寒くなりました。

 

かつて演出の黒崎博さんが

吉沢くんはきっと誰よりも長く栄一の気持ちを生きるじゃないですか。だから時間が経てば経つほど吉沢くんのその感覚を大事にしていきたいと思ってます。

ある意味で、これは吉沢亮のドキュメンタリー。

とおっしゃっていたことを、今夜はまざまざと思い出しましたね。本当に、その通りになってる……って😊

「亮にゃん、渋沢役と一緒にでっかくなってないか?俳優として」と、隣で珍しく鋭い意見を吐く夫😅

 

  箱館で「上様の汚名を注ぐため戦っている」成一郎や土方には合流しないと言い切り、一人新たな道を歩み始める篤太夫。「烏合の衆に何ができる。それならば潔く果てよ。もはや生きて会うことなないだろう」という篤太夫の辛辣な手紙に破顔して、「アイツらしいな」と呟く成一郎の表情が良かったですねぇ。こういう、互いの本音が忌憚なく言える仲なんだよなぁ、二人は…。男の友情っていいな。久しぶりにチアライジマーズの絆が感じられる場面で、今日は胸が痛む場面ばかりだったから、ちょっとほっこりした😊その一方で、彼らの書簡のやり取りに呼応するような、長七郎(満島真之介)の「俺たちは何のために生まれて来たんだべなぁ?」という台詞がまた、切なすぎる😢それをなすすべもなく見守るお千代の表情も…。長七郎が登場するといつも、脚本の大森美香さんの、人間を見つめる目の暖かさを感じずにはいられません😊

 

そしてラスト、 新たな道を歩み始める篤太夫にとってこれからキーパーソンとなりそうな人物が初登場。「新政府の発行する太政官札はちっとも信用がない」とグチる彼は、三井組大番頭で、三井財閥中興の祖とも言われる三野村利左衛門(イッセー尾形)。

「真の戦争はこれからでござんすよ。わしら商人の戦いは…ふふ」

いやー、イッセーさん、スゲー❗

『青天を衝け』お得意の一瞬芸?お顔のインパクト凄かったっす。

……そう❗刀を振り回すだけが男の戦いじゃない。篤太夫にはこれから、熾烈な「銭の戦争」が待ち受けている。

志半ばで倒れていった平九郎のためにも、負けるな、篤太夫