オタクの迷宮~映画と舞台と音楽と Chaos-α

変わり者よと言われても 今日もオタクで生きてゆく

ベネディクト・カンバーバッチの役者魂~『クーリエ : 最高機密の運び屋』

 

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 時は1960年代前半。旧ソ連フルシチョフ第一書記は、米国の喉元とも言えるキューバに秘密の核ミサイル基地建設に着手、核兵器による第三次世界大戦の危機が一気に高まりました。それを阻止するため、ソ連の核ミサイルの機密情報を米国側に流すという前代未聞のスパイ行為を開始した、旧ソ連軍の英雄オレグ・ペコンフスキー大佐(ジョージア(グルジア)の俳優メラーブ・ニニッゼ…静かな中に鉄の意志を秘めた演技が素晴らしい❗)。彼が政府の中枢から盗んだ機密情報を西側に持ち帰る「クーリエ(運び屋)」として、MI6が白羽の矢を立てたのは、一介の平凡なセールスマン、グレヴィル・ウィン(ベネディクト・カンバーバッチ)でした。

 

  命を賭けたスパイ行為を共に協力して行ううちに、ウィンとペコンフスキーの間には、国籍も人種も思想も越えた熱い友情が芽生えていきます。CIAとMI6から、ソ連本国でペコンフスキーがKGBから監視対象になったことを知ったウィンは、危険を承知で再びソ連に戻っていきます。しかし、そこで彼を待ち受けていたものは……❗❓

 

  この作品の素晴らしいところは、第三次大戦の脅威から世界を救った名も無き英雄のストーリーをヒロイックに描くよりもむしろ、敵対する2つの国に生まれた二人の友情物語として描いている点でしょう。友情…というより、ブロマンスっぽい匂いまでする  笑。自らの命や地位や社会的名声をもなげうって核戦争を阻止しようとするペコンフスキーに、ウィンが次第に強烈に曳かれていくのと比例して、どんどん危険なワナに巻き込まれていく経緯がスリリング極まりない。

 

  そして、当初は自分のビジネスと家族との平和な生活だけを望む(フツーそうだよね 笑)平凡な一市民だったウィンが、重大な任務を負って次第に変貌を遂げていくさまに戸惑い、不安に駆られる妻に、前回の当ブログ記事でも取り上げたジェシー・バックリー❗彼女、ヲタクの中では今大注目の女優さんです。やさぐれたシングルマザー(『ワイルドローズ』)からシュールな不思議ちゃん(『もう終わりにしよう』)、冷静なキャリアウーマン(『ジュディ~虹の彼方に』)など何でもござれの演技派で、今秋にはあのエディ・レッドメインとウェストエンドでミュージカルの主役を張るそう(『キャバレー』)。本作品でも、ベネさま相手に、一歩もひかぬ堂々たる演技。ウィンがソ連の収容所に収監され、鉄格子越しに夫婦が再会する場面は、二人の名演技も相まって、涙、涙…😭

 

  

 

 そしてそして、何と言ってもベネさまですよ❗ 英国で名だたる名家に生まれ、溢れるほどの名声と富と、美しく知性的な奥さまに子宝にも恵まれ、人生の幸福を世界中の誰よりも享受しているかのように見える彼。今回のような作品を見る度に、そんな彼が、なぜ命を削るような演技をし続けるのだろうか…と思います。まるで「役者の業(ごう)」とでも言いたいくらいの捨て身の演技なんですもん。

 

  初登場のシーン、「(接待の)お酒と美食ですっかり太ってしまった中年男」から、ソ連の収容所に拘束されて2年弱、冗談じゃなく、体が半分の極細になってる…😭「コロナ禍において、人は誰でも困難を乗り越えることができるというメッセージを送りたかった」と語るベネさま。彼の、求道的とも言える役者人生には、そんな熱いヒューマニズムが流れているんですね。

 

  時に辛すぎて目を背けたくなるような場面もありますが、ラストに、収容所から解放されて英国に帰還した時の実際のウィン氏のインタビューが流れ、あれほど悲惨な体験をしながらなお、淡々とユーモアを滲ませた英国紳士ぶりに救われるような思いがしました😊

 

  私たちが学びたいことはみな、歴史が教えてくれる。事実は小説より奇なり。ベネさまの言うとおり、困難を乗り越える勇気をくれる作品です❗