シアターコクーンで『泥人魚』
(唐十郎・原作、金守珍・演出 )。
唐十郎特有の唐突な比喩や、次元をぴょんぴょん跳び跳ねるような言葉遊びに、観ているこちら側が眩惑されるようなシュールな世界。しかしこの作品の場合、国の干拓事業によって分断された諫早湾の内側の水が腐り、海の生物が絶滅してしまったという実際の悲劇を元に創作されているので、他の唐作品と比べて、多少は分かりやすいものになっている…かもしれない 笑。(今でも諫早湾干拓裁判は継続中だそうです)
海を分断した「ギロチン堤防」、太平洋戦争時の「人間魚雷」、「天草四郎」の逸話等、時の巨大な権力になすすべもなく飲み込まれていった人々の悲劇、シリアスなテーマが次々と現れるのですが、それを全てファルスに変えてしまう……偽悪的というか、照れ屋な感じは、戦う万年青年、唐十郎イズム満載です😊
ヲタク、途中何度もバカ笑いしたくなる場面があったんだけど、周りがしーんとして観てるので、笑い噛み殺してけっこう苦しかった(笑)演出の金守珍氏によれば…
基本的に唐さんって、笑いがない芝居は大嫌いなんだよね。まぁ、「こんなことでお客さん笑ってるよって悪意もあるんだけど」(笑い)
あっ、そーか、わかった❗みんな唐さんの手中にハマってやすやすと笑ってバカにされちゃたまるか❗って感じでガマンしてたのね(ち、違う?😅)
「ギロチン堤防」を実際に体感すべく、夜中に泥水に浸かりながら進み、身動きのとれなくなったというエピソードは、常に時の権力と刺し違える覚悟で進んできた、彼の烈々たる気概を感じさせます。
「人でも魚でもない」ヒロイン、やすみという役は、作者の唐十郎が宮沢りえに当て書きしたというけれど、まさにまさに❗登場場面はそれほど多くないのに、彼女が舞台に登場したとたんに、彼女の全てに視線が釘付けになってしまう。 この人は、どうしてこうどんな役を演じてもどこか……清冽さを失わないというか、ニンフみたいなんだろう。少女のように華奢な身体❓鈴を転がすような声❓いやそれだけじゃない、きっとこの人の精神の中には、やすみと同じように、泥水を這いずり回っても、たとえ一瞬悪に手を染めても、決して汚されることのないコツンとした硬いシンがあるのだ……とこちらに信じこませてしまうほどの凄い演技なんです😍稽古の陣中見舞いに来た唐十郎は、宮沢りえが素晴らしすぎて、感極まって泣いちゃったらしい😅ラストのやすみの行為、この欺瞞に満ちた現実世界で「善なるもの」を貫くためには、大きな犠牲を払わなくちゃいけない…って意味なのかな❓…だとしたらちょっと悲しいけど、でも、最後には蛍一がナイトよろしく助けてくれたものね😊…結果、ハッピーエンドだったんだと思う。アンデルセンの『人魚姫』の悲しいラストぢゃなくて良かったよ、うん。
ほぼ出ずっぱりの磯村勇斗、声は通るしタッパはあるし、何よりも膨大なセリフ量を機関銃のように喋って、そうそうたる大先輩たちと堂々と渡り合っていてビックリ😮…伸び盛りの若さが眩しいくらいキラキラ、また一人素晴らしい舞台人が誕生した瞬間に立ち会えて嬉しい😂(そのむかしの蜷川版『ヘンリー五世』ハル王子役、松坂桃李の鮮烈さを思い出しましたことよ)いろんな価値観に振り回され、悩み、自分の無力さを嘆きながらも知恵を絞ってヒロインのやすみを守ろうとする純朴な青年、蛍一をのびのびと演じ切りました😊
そしてそして、風間杜夫御大❗共演者から「演劇界の重鎮」と言われていましたが、重鎮にしては軽妙洒脱自由闊達な演技で、その熱さは、かつてつかこうへいの舞台に立っていた時の風間さんと変わらなかった。マジシャンみたいなタキシードから天草四郎のコスプレ、ドテラにオムツ姿まで出血大サービス、はては六平ちゃんと水に飛び込んでずぶ濡れに…😅ベテラン勢、獅子奮迅の大活躍です(笑)パンフレットの対談では風間さん、つかさんから「アングラ芝居なんか出るんじゃねぇ❗」って言われたというエピソードも(笑)しかしねー、今回の金守珍氏の演出、つかこうへいのマグマみたいなエネルギーを思い出させるけども。
唐作品には、どこかヘンテコリンで社会からのはみ出し者、でも愛すべき人たちが次々出て来ます。干拓事業をゴリ押しする物欲のカタマりみたいな月影小夜子でさえ、蛍一に3秒見つめられて恋に落ちそうになる純情可憐な一面を持ち合わせているのです。またね、小夜子を演じる愛希れいか、いわゆるヒール役だというのに、なんてキュートでコケティッシュなんでしょう🎵タカラヅカ出身の人って、えもいわれぬ不可思議な魅力がありますよね。
金守珍をコンサートマスターに、将来ある若手と、中堅どころと、ベテラン勢がそれぞれの美しい音色を響かせた目眩く唐ワールド、そして何より作品を愛してやまず、生き生きと楽しそうに演じているのが強く印象に残りました😊