オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

『ウェスト・サイド・ストーリー』スピルバーグ版

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(映画のパンフレット。2980円とかなり高価ですが、各シーン毎に、スピルバーグをはじめとする製作スタッフとキャスト一人一人に綿密な取材を行っており、言わば一種の「製作日記」と言えるもの。ヲタクはパンフレットを読み込んでからリピートしようと思ってます)

 

ロバート・ワイズが監督した1961年の映画『ウェスト・サイド物語』(当時はストーリーではなく物語、でした。邦題にも時代を感じますね😅ジェッツではなくジェット団、フロントマンは団長だった 笑) ヲタクが今まで生きて来た中で、最も映画館に通った回数が多い映画。もちろんDVDも持っていますが、それを含めると、もはや何度見たか数えきれない😅だからこそ、今回のスピルバーグ版、見るのがちょっぴり怖かった。ワイズ版は、単純に舞台をただ移し変えるのではなく、撮影方法から演出から「完璧な映画」になっていたから、たとえ一瞬でも、ワイズ版に比べて色褪せて見えるシーンがあったらどうしようって…。

 

そんな気持ちで足を運んだ『ウェスト・サイド・ストーリー』初日。

 

はっきり言って「色褪せる」どころじゃない❗

完全に新しく、しかも素晴らしく、色鮮やかに蘇った❗

 

  ワイズ版の1番の特色だった「序曲」の部分(カラフルなシルエットがニューヨークの$&〉/@#-"に突如変化して「おおっ❗」と思わず声が出るあのオープニングね)は思いきってカット。すぐにジェッツとシャークスの乱闘に持っていく。俯瞰して撮るのではなく、若者たちにぐっと寄っていって追いかけるリアルな疾走感が凄い。

 

  ワイズ版の『アメリカ』はトニーとマリアが初めて出逢う体育館のパーティーの後、マリアやベルナルドが住むアパートメントの屋上シーン(夜)なんだけど、今回は翌朝の太陽の下、街の通りに出て歌い踊り、道行く人が拍手喝采、まるで屋外のパフォーマンス状態。解放的で明るくて、この演出はスピルバーグに軍配が上がった気がしますね😁

 

  今回はね、状況設定がまずもって巧いのよー。少年ギャングたちの住む界隈がニューヨークの再開発地区に指定され、立ち退きを要求されているという時期が舞台(冒頭に、「リンカーンセンター建設予定地」の看板が映される)。新天地を求めてアメリカに渡って来たのに、なぜまた流浪の身にならなきゃいけないんだっていう、少年たちの焦燥感と鬱屈した怒りが、ヒリヒリ伝わって来る。古びた建物が次々と取り壊され、瓦礫の山に変わっていく。遅かれ早かれ追放される運命だというのに、その土埃の塊を「オレたちのシマだ」と言って旗を突き刺し、命さえ賭けて闘う少年たちの魂の暗黒よ、絶望の深さよ😢

 

  ワイズ版では白人(ジェッツ) VS  有色人種(シャークス)の対立…という単純な構図だったけど、実を言えばジェッツの方もポーランド系やイタリア系、アイリッシュなど、移民は移民なのね。シュリンク警部補が「アメリカに来て、金持ちになりそこなった貧乏白人ども」と吐き捨てるように言ったり、ベルナルド(デヴィッド・アルバレス)がトニー(アンセル・エルゴート)のことを「Big dumb Polack(ノロマなポーランド人の大男)」って言って、アニタ(アリアナ・デボーズ)に「移民の悪口言うなんて、アメリカ人みたい」って突っ込まれる場面も。(「オレはアメリカ人じゃない、プエルトリコ人なんだ」って言うのが、ベルナルドの口ぐせ😅)ちなみにPolackは差別用語で、正しくはPolishです。アメリカでは、ポーランド人と言うと、肉体労働者というイメージ。テネシー・ウィリアムズ欲望という名の電車』のスタンリー・コワルスキー(映画ではマーロン・ブランドが演じた)とか、ジェフリー・アーチャーの『ケインとアベル』とかね。さすがスピルバーグ、社会の分断化がさらに複雑になっている現在のアメリカを巧妙に表現してるなぁ…と思いました。いやむしろ、その深刻さにおいては、ワイズ版が描いた60年近く前のアメリカと変わっていない…ってことを言いたいんだろうか…。

 

  そしてそして、『Cool~クール』ですよ❗どれをとっても名曲揃いの『ウェストサイドストーリー』ですが、中でもヲタクは誰が何と言っても『Cool~クール』イチ推し❗

Boy, boy, crazy boy

Get cool, boy…

と囁くように歌が始まると自動的に背中がゾクゾクして、もうパブロフの犬状態(笑)ブロードウェイの舞台では、ジェッツとシャークスが運命の果たし合いに向かう前、血気にはやる団員たちを「落ち着け、落ち着け」ってジェッツのフロントマン、リフが歌い踊るナンバー。(ヲタクが観たブロードウェイ版は、2019年8月、IHIアラウンドシアターで上演されたブロードウェイ・ドリームチームのもの)舞台版のリフはフロントマンらしいクールガイですよね。

一方ワイズ版の映画での『クール』は、決闘の後、つまりリフとベルナルドが殺され、絶望と不安、復讐心に苛まれる団員たちを副長のアイスが彼らの負のエネルギーを放電させるように激しいダンスへ誘導していくナンバー。ワイズ版でアイスを演じたタッカー・スミスにハマったなぁ…一時期(遠い眼)

  ワイズ版のリフ(ラス・タンブリン)はバク転大得意、ダンスしながらぴょんぴょん飛びはねちゃうような人で、どちらかというと明るいアメリカンボーイ、『クラプキ巡査こんにちは』を担当するちょっとコミカルなキャラ。舞台版のリフのクールなイケメンキャラにはちょっと合わないわけ。だから、『Cool~クール』には冷静沈着なアイスみたいなキャラを新たに造型しなければならなかったわけですね😊

 

 で、スピルバーグ版❗

もうね、これはヤられた❗

ブロードウェイ版、ワイズ版、そのどちらでもなかった❗

あっと驚く演出です。

この楽曲についてはネタバレなので、語らないほうがいいのかもしれないけど、ヲタクはガマンできないっ❗ごめんなさい、語ります(笑)

 

  リフがアイリッシュパブで決闘の前に拳銃を買って、それを取り上げようとするトニーと、そうはさせまいとするリフ(マイク・ファイスト)が一触即発、おもむろに『Cool~クール』が流れ出すというオドロキの展開。危険と隣り合わせのアクションとダンスの融合❗しかも場所は廃墟のような波止場のターミナルで、木の床にはところどころ穴が空いている❗(パンフレットを読むと、穴には危険防止の透明なアクリル版が張ってあったと書いてはありますが、それにしても…)

ヲタク的には、こと『Cool~クール』に関して言えば、スピルバーグ版がベストです❗リフのキャラ造型が、舞台版のクールガイでもワイズ版のコミカルキャラでもない。もっと複雑なの。幼少期から家庭でニグレクトされてきた(らしい)リフはトニーを兄弟以上に愛してるんだけど、トニーはギャングから足を洗いたいと思っていて、さらにマリアに一目惚れしてリフから心が離れてしまう。そんなトニーを傷ついた目で追うリフがもう、魅力的すぎる…😍リフ役のマイク・ファイスト、元々演技畑出身のせいか繊細な表現力が素晴らしく、ヲタク、沼に片足突っ込んだかも(笑)マイクくん、ダンスやボイストレーニングは演技のプラスアルファとして学んでたらしい。それにしてはダンス上手すぎ…😮

 

 ワ イズ版に深くリスペクトを捧げつつ(ワイズ版でアニタ役を演じ、アカデミー助演女優賞を受賞したリタ・モレノが製作側に名を連ね、重要な役で出演)、新たに改変も加えた(上記のほかに、エニィボディズをはっきりとトランスジェンダーとして描写する等)スピルバーグ版。ミュージカルとしてもむろん一級品だけど、一人一人の登場人物の心の襞を丁寧に描いていて、ラストのマリア(レイチェル・ゼグラー)のあの名セリフ……

今なら私、あなたたちを殺せる。

だって、憎むことを知ったから。

が、深く、深く心に突き刺さる😢

 

 

ヲタク、久方ぶりに映画館通いが復活しそうな予感。…まあその情熱の8割がたはマイク・フェイスト見たさだが…(笑)

https://twitter.com/hl4p7JS0DmhEwYI/status/1509623652048052225