上 : イヴ・サンローラン本人
下 : ピエール・ニネ
本日ご紹介するのは、フランスの若手演技派ピエール・ニネが伝説のデザイナー、イヴ・サンローランに扮した映画『イヴ・サンローラン』(2014, フランス)。当ブログでは以前、彼が出演した『婚約者の友人』『ブラック・ボックス /音声分析調査』についても書いています。どちらも名作です。下にURLを貼付しておきますので、興味のある方は読んでみて下さい😊
ふだんブランド品にはとんと縁がないヲタク😅サンローランに関しても、クリスチャン・ディオール亡き後、彼のサロンを20代で任された天才であるとか、あの有名なモンドリアンの服だとか、自らヌード写真を撮らせてセンセーションを巻き起こしたとか…それくらいの乏しい知識しかありませんでした(汗)
今回この映画を見て、「モード界の帝王」と称されたサンローランという稀代の天才の活躍の陰には、壮大なBLロマンスがあったことに初めて気づかされました😮映画は、最愛の人サンローランの死を悼む、ピエール・ベルジェ(ギョーム・ガリエンヌ)のモノローグから幕を開けます。ベルジェは生涯にわたり、サンローランの仕事上、私生活上のパートナーでした。
若くしてクリスチャン・ディオールの片腕となり、彼亡き後の1953年、若干21才にしてデザインを引き継ぎ、初のコレクションを成功させて一躍モード界の寵児となったサンローラン。しかしそれも束の間、彼の元にアルジェリア独立戦争最中のフランス軍からの召集礼状が…。自分はその任ではない、デザインで戦うのだという抵抗も空しく、彼は強制的に徴兵されてしまいます。ディオールの当時のオーナーであったマルセル・ブサックが右翼の大物であったこと、また、徴兵を拒むサンローランを愛国心の欠如と糾弾する、心無い世論の声がその原因であったようです。
しかし繊細で芸術家肌の彼は精神を病み、躁鬱症(現在は二極性障害と呼ばれています)を発症して、電気ショック療法等の治療を受けることに。そして彼は精神疾患を理由に、ディオールとの契約を解除されてしまいます。そのどん底の時代に彼を全面的に支えたのが、当時の恋人のベルジェでした。彼はフランスの資産家で、ディオールを解雇された恋人のため、彼自身のサロンを立ち上げようと資金調達に奔走、ついにアメリカの大富豪からの資金融資にこぎ着けます。ベルジェの全面的な支援の下、表現の自由を手に入れたサンローランは時流の波に乗り、次々と新作を発表して喝采を浴びます。しかし、彼の軍隊時代のトラウマは彼の繊細な神経を苛み、そして……❗
華々しい活躍の陰で、 二極性障害の他にも、薬物やアルコール依存等、様々な問題を抱えていたサンローラン。コレクションが大成功に終わった夜、極度の緊張と疲れが頂点に達し、ヒステリックに叫び始めるサンローランに、ベルジェは静かに語りかけます。(ベルジェはサンローランがどんなに激しても、決して大声を出したり感情的になったりしないんですよね。子育ての最中だってなかなかできないことです。エライ❗)
「……君は全てを手に入れたのに。これ以上何がしたいんだ❓」
それに対するサンローランの答えが……なんだか可愛いんですね。
「君とゆっくり過ごす時間が欲しい」
って答えるんです。夫婦の痴話喧嘩かよー❗(笑)
サンローランの望み通り、それから二人はマラケシュの別荘で長いバカンスに入るんですが、サンローランはこの時のバカンスがよほど楽しかったのか、ファッション界を引退した後は、殆どマラケシュで過ごしたようです。
デザイン以外はからきし何も出来ない、大きな子どものようなサンローランを生涯支え続けたベルジェ。それでも世間は「サンローランの才能を食い物にするヒモ」と揶揄し、映画の中でも、サンローランの親族は決して二人の関係を認めていなかったことがうかがえます。
サンローランを演じたピエール・ニネは、フランス最高峰の国立劇団コメディフランセーズに史上最年少で合格し、サンローランと同じ早熟の天才ぶりを認められ、主役に抜擢されます。ラストクレジットのニネの名前の下に「コメディ・フランセーズ」と書いてあって、フランスでは凄いことなんだな……と改めて思いました。彼のヴィジュアルの作り方や立ち姿、所作や話し方などサンローラン生き写し……ということで、当時まだ健在だったベルジェ(2017年86才で没)は「彼が戻ってきたようだ」と、嬉しさのあまり号泣したそうです。(ニネはこの作品の演技により、セザール賞最優秀男優賞を受賞)
写真家ジャンルー・シーフが撮影したイヴ・サンローラン本人のヌード写真。映画でも撮影シーンがバッチリ出てきます😅余談ですが、シーフの奥さんって、あの伝説的シャンソン歌手バルバラなんですね。知らなかった……。
生き写しの青年を見て号泣するほど一人の人間を愛することができたベルジェ、そしてそんな彼の溢れるほどの愛を一身に受けて人生を駆け抜けたサンローラン。これほど幸福な人生があったでしょうか❓……人を生かすものは、地位や名誉や権力やお金ではなく、やはり「愛 Amour」だと、ヲタクは思うから😊
アルジェリア独立戦争など当時のフランスの政治情勢や、カール・ラガーフェルドや画家のビュフェ、サンローランのミューズたち(ルル・ド・ラ・ファレーズ、べティ・カトルー)が実名で登場する当時のパリモード界・社交界の描写が非常に興味深いですし、何と言ってもサンローラン&ベルジェ財団の全面的なバックアップを得て再現されたパリコレのシーン(財団から貸し出された当時の衣装を使用)は圧巻❗の一言です。