オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

『アイ・アムまきもと』~面白うて、やがて哀しき人生かな

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 牧本壮(阿部サダヲ)は、のどかな庄内地方の市役所で、引き取り手のいない(大概は独居の)ご遺体の「お見送り係」を務めています。とはいえ、係に所属しているのは彼一人。空気読めない、会話が成り立たない、思い込んだら猪突猛進で、おそらくはどの部署に配属されてもはみ出してしまうであろう彼に、上司(篠井英介)が温情から割り当てた役職です。それでも牧本はそれを天職と思い、通常は荼毘に付したらすぐに無縁墓地行きのご遺体を見るに忍びず、今一度遺族と話し合い、引き取りが無理な場合は自腹を切ってお葬式を出しているのです。……しかしそんな彼の天職も、都会からやって来た効率第一主義の局長(坪倉由幸)から一刀両断、今手掛けている蕪木幸一郎(宇崎竜童)のお見送りを最後に、「お見送り係」は廃止❗と宣告されてしまいます。その時から彼の、蕪木が生前関係のあった人たち……かつての職場の同僚(國村隼松尾スズキ)、路上生活時代の仲間(嶋田久作)、一時期同棲していた女性みはる(宮沢りえ)、そして20年前に棄てた娘(満島ひかり)に会って話を聞くことで、蕪木の人生を、彼の人となりを辿る旅が始まります。これほどまでに、一人の人生に深く関わることは牧本にとって初めてで、何もかもが新鮮な体験です。それによって少しずつ、牧本の人生も変化を見せていきますが……❗

 

  何しろ日本を代表する演技巧者の阿部サダヲを中心に、上に挙げた人たちの他に、松下洸平やでんでんも加わり、キャストが芸達者というか名優たちばかりで、会話のテンポや間合いや呼吸がそりゃあ見事なもんです。

 

  例えば、牧本がみはる(宮沢りえ)の孫の赤ちゃんを一時預かる時に……

みはる「あんた、子供いる?」

牧本「いりません❗」

そばにいたおじさん「あんた子ども持ってるかって聞いてんだよ」

牧本「持ってません❗」

ヲタク、思わず吹き出す😅

 

 

 他にも、刑事の神代(松下)が牧本の懸命さにほだされ、本当は部外秘の書類をわざと床に落として「5分経ったら取りに戻ってきますから」と言って部屋を出て行こうとするのに牧本が、「なんで今持っていかないんですか❓」と言う時の「間」。もう、何もかもが絶妙❗……もっとも、ヲタクのヘタな文章ぢゃ、面白さが半分も伝わらない(汗)ぜひ、映画を見て、面白さを味わって下さい。

 

  蕪木が家を出て行ってから、母親と二人で生きてきた一人娘・塔子(満島ひかり)。母親はとうに亡くなり、彼女は毎日、養豚場で懸命に働いています。しかし彼女の独り暮らしの家はきちんと片付けられ、茶葉から丁寧に入れた紅茶は素晴らしく美味しかった。その日から牧本は、今まで炊飯器とフライパンから立ったまま直接食べるのを止めて、きちんと器に盛り付けて食べるようになります。真似をして紅茶を入れてみたけど、いまいち美味しくなさそうに首、傾げてます(笑……ティーバッグだったからかな❓😅)彼女に対する淡い想いや、彼の中で少しずつ芽生えていく「何か」。その後に彼を襲う運命を考えると、切ないです😢

 

面白うて、やがて哀しき人生かな。

……でも、身体は消え失せても、その人が懸命にいきた証しは、必ずどこかに痕跡を残す。

 

  突然不条理に終わってしまう人生でも、看取る人もなく人様から見れば「寂しい」と言われる人生でも、諦めることなく、一生懸命生きよう❗最後に、「がんばった、がんばった」と自らに言えるように。

 

  原作はイタリアの作品だそうですが(ウベルト・パゾリーニ監督・脚本『おみおくりの作法』。ちなみにヲタクは未見です)、イタリア的な乾いたユーモアと、日本の湿った情緒が適度に融合した、秋に見るに相応しい佳作といえるでしょう。

 

★今日の小ネタ

イケオジの代表格・宇崎竜童さん、写真だけのカメオ出演かと思いきや、ご本人登場~~🎉✨😆✨🎊スタイルちっとも変わらない、カッコいい😍ラストクレジットに流れるジャズふうアレンジの『虹の彼方に~Over the rainbow』も素晴らしいです❗切なくも感動的なラストをさらに盛り上げてくれます😊