ヲタクじつは、今年の4月、ロバート・エガース監督の『ノースマン / 導かれし復讐者』の日本公開が決まった時、キャストやストーリーの概略を読んで、「『ノースマン』がなんだかヤバいことになっている」という記事を書いたんですが、今回「東京国際映画祭」の正式出品作品として鑑賞して……
やっぱり、ヤバいことになっていたんです❗
(語彙力不足でスミマセン 😅)
あのシェイクスピアの有名過ぎる四大悲劇の1つ、『ハムレット』の元ネタになったと言われている「ヴァイキングの王子・アムレートの復讐奇譚」を、エガース監督は当時の人々の風習そのままに描いたようです。シェイクスピアの王子ハムレットは、愛する母の父に対する重大な裏切りから自らのアイデンティティそのものが揺らいでしまって、自分自身、いや人生そのものに懐疑的になり、言わば「近代的自我の目覚め」を窺わせますが、こっちのアムレートは……もう、自我の目覚めなんぞ何のその、獣と人間の中間みたいな感じで。狼の遠吠えとかフツーにしちゃってるし(笑)彼にとって、いやあの時代の男たちにとって、近代的な倫理道徳の観念なんて全く存在しないわけですから、やられたらやり返す、目には目を、振り向けば死屍累々、ご遺体の山((( ;゚Д゚)))何しろ、戦いの中で死ななければ天国(ヴァルハラ)に行けないから、みーんな喜んで死地に赴くわけです。恐ろしい時代だよ……😅見ているうちに、なんだか自分の価値観が根こそぎ引っくり返されそうな気がしてきた(笑)
アムレートは、今は奴隷に身をやつしていても、王の血を引く、しかも長子。直系の彼が、※本来なら王位に就けない筈の叔父フィヨルニル(クレス・バング……Netflix『ドラキュラ伯爵』で、非常に個性的な吸血鬼を演じたデンマークの俳優さん)から父王オーヴァンディル(イーサン・ホーク)を殺され、祖国を追われたとなれば、その屈辱はこの上ない。彼の復讐心は、父を殺され、母を奪われた「息子」としてのものだけではありません。王家の人々が何より大事にするのは「血統」であり、彼の壮絶な戦いは、彼が本来持つべきものを奪還するための戦いなのです。
※フィヨルニルは庶子であるため、彼が下克上で王位に就いたということは、全能の神オーディンの加護が得られないことが暗示されています。
アムレートは、スラブの女奴隷オルガ(アニャ・テイラー=ジョイ)に恋して生涯初めて心の安らぎを得ます。また、母グドルン王妃(ニコール・キッドマン)から、叔父フィヨルニルとの不倫関係の衝撃の真相を聞き、「息子としての感情」が動いて、復讐心が一旦は萎えちゃうんですね(この辺りは、シェイクスピアの『ハムレット』とのストーリー展開は全く異なっています)。で、彼の身を案じるオルガの懇願で、復讐を捨てて、共に新天地へ旅立ち、二人で新しい王国を築こうとします。が、その船旅の途中、オルガからある告白を聞いたアムレートは、叔父とその一族郎党を討つために再度アイスランドへ戻っていくのです。……そう、オルガが自分の子を身籠ったことを知ったから。王統が2つに割れるのは、後々国家を混乱させるもと。既に王妃となったオルガと、王の血を引く我が子の未来を安泰にする為に、自らの命は捨てて傍系の王統は根絶やしに行く。彼は腹違いの幼い弟までも容赦なく血祭りに挙げます。王統をゆるぎないものにするには、たとえ赤ちゃんでも敵の血統は完璧に根絶やしにしなければいけないんですね。明日は我が身、いつ寝首をかかれて王統を奪還されるかわからないから。
今回の作品、 ヨーロッパ各王家の原点を見たような気がして、感慨深かったですね。シェイクスピアの史劇をまとめ、あたかも英国王室の歴史を紐解く感のある壮大なドラマ『ホロウ・クラウン~嘆きの王冠』を見た時も思ったけど、それは武力と武力がぶつかり合う、血塗られた戦いの歴史なんですよね。
アムレートの母、グドルン王妃役のニコール・キッドマンのファム・ファタールぶりがサスガのド迫力。いつか彼女のマクベス夫人を見てみたいですね。そしてそして、アムレートに不吉な予言を与える魔女に、なんとビョーク❗出演シーンは一瞬なんだけど、その摩訶不思議なオーラで、見ている私たちを、ヴァイキングが跋扈する太古の昔、人間と獣、魔物や精霊が共存する世界に一挙に連れ去ってくれます。
会場は丸の内ピカデリー。改装前の昔から大作映画と言えば丸の内ピカデリー。『ウェストサイド物語』や『アラビアのロレンス』をここで見た頃が懐かしい……❗改装後は座席もさらに増えて、映画館というより劇場みたい。『ノースマン / 導かれし復讐者』、これこそ大きなスクリーンで見るべき映画。来年1月に一般公開ということですので、ぜひ映画館に足を運んでみて下さい。動画配信全盛の時代にあってもなお、「映画の底力」を体感するために。
★今日のおまけ
その①
この映画、ロバート・プラントが喜びそうだなーと思いながら見てました(笑)レッド・ツェッペリンの曲の歌詞がだんだん難解になって、世相と遊離したものになってしまったのは、彼が北欧神話に傾倒しすぎたせい……と一説には言われているから😅ツェッペリンのドキュメンタリー映画『狂熱のライヴ』では、趣味が高じたプラントが自ら舟に乗って英国に流れ着いたヴァイキングを演じてます。
その②
アムレートが奴隷に化けている時の仮の名前がベーオウルフ。ご存知世界最古の叙事詩の主人公の名前。一説には『ベーオウルフ』には同じ名前の主人公が二人登場して、一方がデンマーク王とも言われています。もしかしてその影響もアリ❓