オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・コンサート鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログです。

『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』~ベネさまの変人ぶりが……

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 猫を擬人化し、ユーモラスな筆致で描き続けた英国の絵本作家ルイス・ウェイン。彼の生涯を、当時の社会情勢を絡めて描いた「真実の物語」です。

 

 原題は『The Electrical Life of Louis Wein』んんん?何ゆえに「電気的生活」?……映画を見て、はじめて納得。時代は1800年代から始まります。ウェイン氏は英国の富裕なジェントリー階級に生まれ、何不自由のない生活を送れた……筈だったのですが、父親が早くに亡くなり、一人息子、しかも長男の彼は、5人!の妹たちと母親を養わねばならない身の上。「電気」に取りつかれた?彼は、発明家を目指して様々な特許を取ろうと四苦八苦しますが上手くいかず、生活の為に動物の挿し絵を描き始めます。しかし彼は、牛の挿し絵を描くために牛に至近距離まで近付き、角に引っ掛けられてケガをしたり、静かに泳がなければいけなかった当時のトルコ風呂で壮大な水しぶきをあげながらバタフライをしたり……と、かなりKYな困ったちゃん(笑)そんな彼が初めて恋したのが、ウェイン家で雇った家庭教師のエミリー(クレア・フォイ)でした。初めての気持ちに戸惑う若きウェイン氏。「胸がチクチク痛んだり、股間が躍動したりするのが何故なのか、純情なルイスにはわからなかった」というナレーション(ナレーションを担当するのはオリヴィア・コールマン!ユーモアを滲ませて秀逸)にはヲタク、思わず吹き出しました。年上の家庭教師との身分違いの恋はたちまちのうちに社交界ではスキャンダルに。しかし、今までずっと「人と違うこと」に悩み、「人とどう接したらわからなかった」自分の本質を理解してくれ、母性にも似た大きな愛で包んでくれるエミリーへのルイスの気持ちは変わることはなく、二人は周囲の反対を押し切って家庭を持ちます。……しかし幸せは長くは続きませんでした。結婚後半年して、エミリーは末期の乳ガンとの診断を受けてしまったのです。後で調べてわかったんですが、二人の結婚生活はわずか4年だったんですね……😢エミリーを喪った後のウェイン氏の人生を考えると、胸が痛みます。

 

  ウェイン氏は挿し絵の仕事を休んで、闘病するエミリーに付き添います。そんなある雨の日、庭に迷い込んできた子猫を夫妻はピーターと名付け、我が子のように可愛がります。ヲタク、この映画を見て初めて知ったのですが、当時の英国では、猫は罪や悪魔に近いと言われていて、ペットとして飼われることは殆どなかったそうです😮(ビックリ)  ウェイン氏にとって、エミリーとピーターと過ごした4年間は生涯で唯一の幸福な時間でした。それを再現しようと試みた、可愛くてちょっと間抜けで、ユーモラスなネコの絵は、これまではネコ好きを声を大にして言えなかった愛猫家たちに勇気を与え、さらに多くの人々の心を捉えていくのです。

 

……しっかし見終わってみると、ウェイン氏の人生はなかなかに悲惨なんですよね。ネコの絵本は人気爆発、ウェイン氏は一躍時代の寵児となるものの、版権のしくみ等に無頓着なために金銭はあまり入ってこず、相変わらず借金まみれ。5人の妹たちはとうとう一人として嫁ぐことはありませんでした。(ジェーン・オースティンの小説や、『ブリジャートン家』みたいに上手くはいきませんわな😅)そして、精神病院に入院した妹の一人に続いて、ウェイン氏にも幻聴や妄想、奇嬌な言動が始まり、遂には統合失調症の診断を受けることになります。

 

  そんなウェイン氏の生涯を、淡々と、センチメンタリズムを排除して描いたこの映画。しかしだからこそ、精神を病みながらも、妻を愛し、ネコを愛し、妹たちを守り続けた彼の優しさと誠実さがしみじみと伝わってきます。彼にとって「電気」とは、単にモノを動かす力ではなく、もっと根源的なもの……彼を勇気づけ、生きるモチベーションを与えるエネルギーに他なりません。そして、彼にそのエネルギーを与えたのは、妻エミリーと息子同然のネコのピーターだったのです。ウェイン氏の「電気的生活」とはまさに、「愛の生活」だったわけですね😊

 

抑えた描写ながら、映画のテーマが観ている私たちにひしひしと伝わってくるのは、ベネさまの、20代前半から70代後半までを完璧に演じきる俳優としての底力と、ナレーションを担当したオリヴィア・コールマンの素晴らしさも大いに影響しているでしょう。ヲタクはヒネクレ者なので、人生の苦労をこれでもか!とばかりにグイグイ描写する映画とか、「今年一番泣ける感動作」とか言われるとかえって腰が引けてしまうんですが😅『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』は……

はっきり言ってめちゃくちゃ好みです(断言)

いかにも英国風な、大人の人間ドラマ。

 

……しっかし、ベネさまほど「奇人・変人」を魅惑的に演じる人はいないね!