オタクの迷宮

海外記事を元ネタに映画・ドラマの最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりするブログ。最近は家が好き過ぎて、映画も専らおうちで鑑賞。

時代劇の概念を覆す傑作〜NHK『いちげき』

 
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NHKオンラインでは、「本格青春エンターテイメント時代劇」と銘打っていたけど、実際見終わった後のヲタクの感想は「いやいや、そんな単純明快なものじゃなかったよ。もっとダークで、深かったよ」…です。いやだからこそ、心にグッと刺さったし、従来の時代劇の枠を飛び越えた作品になったんだと思います。さすがクドカン、ひと筋縄ぢゃ、いかない(笑)ある意味、時代劇の歴史を変える作品だと思う。いや、マジで。

 

 徳川最後の将軍、慶喜による大政奉還後の江戸。浪士たちが商家を襲い、金銭を奪う「御用盗」と呼ばれる強盗事件が多発していました。その裏で暗躍していたのは、薩摩藩。薩摩は「御用盗」によって幕府を挑発、幕府が正面きって反撃してくればしめたもの、一気に武力蜂起し、江戸城開城、ひいては倒幕を目論んでいたのです。薩摩を迎え討つべしという好戦派(小栗忠順とかね)に反して、勝海舟尾美としのり…軽いノリの裏に、時代を先読みする政治家の冷徹な貌をのぞかせて◎)は薩摩藩との正面きっての武力抗争は避けたい、さりとてこのまま強盗集団を野放しにはできない…と、考えあぐねていました。そこで彼は、百姓の青年たちから力自慢の者をリクルート、短期速成で御用盗討伐の非正規武力集団に仕立て上げるよう、新選組から派遣された島田幸之介(松田龍平)に隠密司令を出します。集まったのは、ウシ(染谷将太)、イチ(町田啓太)、セン(岡山天音)、ワサ(塚地武雅)、ヨネ(高岸宏行)、ウメ(細田善彦)、マツ(上川周作)の7人。

 

  まるで黒澤明監督の『七人の侍』さながらのストーリー展開ですが、黒澤映画の侍たちには「貧しい農民たちを野武士の暴虐から守る」という大義があった。たとえ野武士の刃に倒れても、それは彼らにとって、言わば名誉の戦死だったわけです。…しかし一方で、このドラマの百姓青年たちはどうでしょう。戊辰戦争勃発の前夜、幕府と尊王攘夷派の睨み合い、政治の微妙なパワーバランスの上に咲いた徒(あだ)花。彼らは言わば捨て駒、防御の仕方も教えられず、「一撃」で相手を殺さなければ自分が殺される、与えられた刀は死への片道切符なのです。イチが自分の命をかけて対峙する、言わばヴィラン役の「御用盗」の首領・伊牟田(杉本哲太)ですら、薩摩藩に繰られる駒の1つでしかありません。そんな彼らが、自分たちが巻き込まれた理不尽な運命に憤りながらも、仲間と共に必死に戦い、生き抜こうとするさまを熱く描いた、幕末時代劇です。

 

 キャストがまた、粒揃い❗初めて人を斬った時の恐ろしさと後悔に苛まれながら、必死に自分の生きざまを模索していく主人公に染谷将太。主人公ウシの喜怒哀楽を、それこそ身体全体、五感総動員で演じ切ります。ひたすら武士に憧れ、自分の信じる大義にシンプルに突き進む青年イチに町田啓太。大河ドラマ『青天を衝け』で彼が演じた土方歳三の若き日を彷彿とさせるようなキャラで、なんともイキなキャスティング。刀を握らされてもそれに馴染めず、結局はその優しさがアダになって悲劇に巻き込まれるセン(岡山天音)の哀れ。青年たちを率いるうち、捨て駒の筈の彼らに次第に愛着を覚えていく隊長・島田役に松田龍平。顔に刻まれた真一文字の刀傷も物凄く、寡黙な中に味わい深い名演。相対する女性陣の活躍も素晴らしく、激動の時代に翻弄される女性の哀切を体現した西野七瀬しずちゃん、そしてそして何と言っても伊藤沙莉❗自分自身の知恵と才覚で理不尽な運命に抗い、強く靭やかに激動の時代を生き抜いていくキク役で、若手トップランナーの面目躍如です。

 

 ウシたちが必死に生き抜いた時代を過ぎても、欧州では第一次世界大戦、アジアでは太平洋戦争やベトナム戦争、そして今はウクライナ…と、「大義」の美名のもとにどれだけ多くの若者たちの血が流されたことでしょう。…そんな視点から見ると、単なる「過去の歴史を語る時代劇」では終わらない、現代に生きる私たちにもあまたの問題を投げかける傑作だと思います。

 

 1月末まではNHKプラスで配信しているようなので、見逃した方はぜひ❗

 

★今日の小ネタ

 伊牟田(杉本哲太)がイチ(染谷将太)を執拗につけ狙うのも、一撃必殺隊の初戦で、自分の衆道の相手を彼に殺されたから。それも後ろから刺されて武士としての面目も果たすことなく。武士の心得を説いた『葉隠』には、武士たるもの、衆道の相手については「情けは一生一人のもの也」とありますし。

 杉本哲太がその悶々とした狂恋のさまを巧みに表現していましたね。薩摩といえば、西郷どんをはじめとして、衆道の本場だもんね(^_^;)

 

 衆道ネタをもう1つ。衆道モノの映像作品で思い出すのは、大島渚監督の『御法度』(1999年)。司馬遼太郎の『新撰組血風録』の中の『前髪の惣三郎』をモチーフにした映画で、その妖気漂う美貌で新撰組隊士たちを翻弄する少年隊士・加納惣三郎を演じたのが、今回の『いちげき』で渋い演技を見せた松田龍平(当時15歳)。惣三郎に男色の手ほどきをする隊士が浅野忠信でね。耽美的な映像の中の二人の絡みは、『戦メリ』の坂本龍一デビッド・ボウイのアノシーンと同様、ドキドキしたもんです。