オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

常軌を逸した?ブラック・コメディ〜Netflix『ホワイトノイズ』


f:id:rie4771:20230119183233j:image

 時は1984年、アメリカのとある小さな田舎町。ある日のこと、町の近くで可燃性の危険物を積んだトレーラーと貨物列車が衝突・炎上し、ナイオディンDという猛毒物質を含んだ黒雲が発生、風に乗ってその雲が町に迫ってくるという緊急事態となり、町の平和な暮らしは一瞬にして瓦解し、人々はパニック状態に。大学で教鞭をとるジャック・グラッドニー(アダム・ドライバー)の一家も例外ではありませんでした。初めのうちこそ悠然と構えているフリ?をしていたジャックでしたが、消防署長自ら緊急避難命令を出すに至り、家族全員車に乗って逃げ出したものの、まず目に飛び込んで来たのは、焦って逃げ出そうとする者同士の車が激しくぶつかり合い、人が道路に叩きつけられる地獄絵図。おまけにジャックは給油する為に車の外に出て有毒物質を含む雨に打たれてしまい、死の不安と恐怖に苛まれることになります。果たしてジャックたち家族の行末は…❗?

 

 アダム・ドライバー演じる大学の先生(教授なのか准教授なのか講師なのかは明らかにされていない)がまあ、呆れるくらいスノッブなヤローでして。彼のキャラ設定は、ノア・バームバック監督のユダヤ系ブラックジョーク満載。だってさ、大学で何の科目を担当してるかと言ったら、言うにことかいて「ヒットラー科」なのよ❗全米で一番の「ヒットラーファシズム研究家」という設定。かなり芝居がかった男で、授業中に学生たちに向かって、なーんちゃってヒットラーふうなデマゴーグを演じてみせたりする。…ところが、学生には「ヒットラーの研究をするからにはドイツ語は必須」とか言っておきながら、自分は全くドイツ語が喋れず、こっそりドイツ語会話を習ってる…っていう情けない男。おまけに、クレバーな長男が色々なところから情報収集して有毒物質の危険性を説いても、「こういう時犠牲になるのは、決まって貧しくて教養のない人々なのさ。洪水でボート漕いでる大学教授って見たことあるかい?」と言い出す始末(^_^;)店主が逃げて無人のガソリンスタンドでちゃっかり給油、娘にそれを咎められると、「後から小切手送っとく」って、オイ❗とーちゃん、しっかりしてくれよー。また、父ちゃんに負けず劣らず、母ちゃんのバベット(グレタ・ガーウィグ)もおろおろ狼狽えてばかりで、誰に処方されたかもわからないナゾの薬を常用して娘に心配かけてるし…。

 

 しかし、おポンチ父ちゃん母ちゃんとは対照的に、子どもたち(パパママはお互い4度目の結婚なので、みんな血の繋がりはないんだけど、みんなとても仲良し)は健気で可愛くて、常識もちゃんとわきまえてる。親はなくとも子は育つ……ってホントね。このブラックな不条理劇の中で、グラッドニー家の子どもたちだけが唯一の希望の光(笑)

 

 これはパニックムービーではないので、映画の後半は、死への不安からトンデモないことをしでかしてしまうジャックとバベット夫婦の悲喜劇が描かれます。海外の評論では、この後半が蛇足だ…とか、陳腐だ…とか、さんざんなんですけど、個人的にはむしろ興味深い…というか、共感できました。というのはヲタク、1990年代に夫の仕事の関係で5年間、ベルギーに住んでいたんですね。赴任当時、娘たちは4歳と2歳でした。当時のヨーロッパって大変な時期でした。チェルノブイリ原発事故の後遺症で、野菜食べるのは危険だ…というウワサも流れていたし、他には狂牛病の問題が発覚して。30年経って初めて症状が出るケースもある…なんて聞くと、ゾッとしましたよね。(そのせいで、ヲタクたち家族はつい最近まで、献血が出来なかったんです)だからね、原因不明の有毒な雨に濡れてしまったジャックの右往左往は、人ごとじゃなかったんです。

 

 死に直面した時の人間の行動や、※大衆を指導・先導しているつもりがいざ危機に直面するとその大衆そのものに押し流され、飲み込まれてしまう知識人の滑稽な姿を皮肉と風刺をこめて描いており、好き嫌いは真っ二つに別れると思いますが、少なくともヲタクは好きな部類に入る作品です。ラストの、シュールなダンスシーンも含めてね。特に、救急病院のシスターが、「信仰者はいずれ滅びる。私たちは、天国を信じる少数派の為に、信じるフリをしているだけ」と一刀両断するシーンは強烈でしたね(^_^;)ゾッとしたり笑ったりハラハラしたり、いろんな要素テンコ盛り、おなかいっぱい(笑)

騒動がひと段落した後ジャックの大学の同僚(ドン・チードル)が、訳知りに死について一席ブッてるシーンが登場します。

「自分の死の想像は幼稚で、楽しい自己憐憫だ」と彼は語っていますが、あれだけリアル死に近づく体験をしても、彼の「死をもてあそぶ」性癖は治らなかったもよう…やれやれ。

 

 ……とまあ、ここまでヲタク、感想をつらつらと取り止めもなく書いてきたけど、えっと要するに…テーマは何だったのか?

やっぱり、人類最強の味方はスーパーマーケットだ❗

……かな?(^_^;)

(意味のわからない方は、ぜひNetflixで映画本編をご覧下さい 笑)

 

★今日の小ネタ

ヲタクはバームバック監督の映画『フランシス・ハ』が大好きで、映画の中のグレタ・ガーウィグアダム・ドライバーも大好きだから、今回の『ホワイト・ノイズ』も見始めたんだけど……。

『フランシス・ハ』の残像を頭の中に残したままこの映画を見ると、イタイ目に遭います(笑)