オタクの迷宮

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没後20年〜レスリー・チャンが耀いた映画3選

 香港出身、その飾らない魅力と美しさで世界を魅了したスター、レスリー・チャンが自らその命を断ってから早や20年。ヲタク的に表現すれば、彼は「この世に生を受けたのが早過ぎた人」。英国と中国、極めて保守的な倫理観を持つ社会において、レスリーはゲイでした。もちろん社会の圧力はそれを許しはしなかった。そのため彼は、声高にそれを公の場でカミングアウトはしなかった。しかし今振り返ってみると、一表現者として彼独自のやり方で、映画やコンサートなどで、そのボーダーレスな思想を表現し続けていたと思います。2000年のコンサートツアーでは、ジャン=ポール・ゴルチエがデザインした、アンドロギュノス的な衣装(透け素材のセーラー服、黒髪のウィッグ)を身につけて観客を限りなく挑発、香港の地元メディアから散々叩かれました。倫理道徳や世間体や社会通念との果てしない戦い……。力尽き、翼折れた彼が、マンダリン・オリエンタル香港の高層階から身を投げたのは、そのコンサートから3年後のこと。原因は、13年交際していた男性との別れにショックを受けた…とか、新しい年下の恋人との仲に悩んでいた…とか、様々に言われたけれど、それだけじゃなかったと思う。

 

 美しい人に、今はもう銀幕の中でしか会えないけれど、それだけに、彼の魅力は色褪せず、圧倒的に耀いている。今日はそんなレスリー・チャンの魅力が堪能できる映画をご紹介しましょう。


欲望の翼(1990年…ウォン・カーウァイ監督)
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 今見ると、まあよくもこれだけ香港のトップスターたちを集めたもんだわい……と呆れるくらいゴージャスな布陣。監督の盟友、クリストファー・ドイルのスタイリッシュな映像が冴えまくり、舞台となる雨季の香港とフィリピンの湿った熱気が、銀幕から立ち上ってくるよう。6人の若者たちの、恋愛……というには生々しすぎる、本能のままに欲望を迸らせる無軌道な青春。それは滴る熱帯夜のなせるわざなのでしょうか?…きっと誰もその問いに答えることはできないに違いありません。

 

 レスリーは、生みの母に捨てられた心の空洞を埋めるために、刹那的な恋を繰り返す青年ヨディ役。美しいけれど、何も映していないような硝子玉のような瞳、酷薄な表情……。映画の中の彼の恋人たち(カリーナ・ラウ、マギー・チャン)は、たとえヨディの心を切り裂いたところで、どこにも自分たちの居場所は無いとうすうす気付いていながらなお、一縷の望みを抱いて彼に狂い、常軌を逸していきます。レスリーの最後の瞬間に思いを馳せると、彼自身もまた華やかな笑顔の裏に、ヨディと同様、心にぽっかり空いた昏い穴を持て余していたのでは……?そんな彼の本質をいち早く見抜いたのがウォン・カーウァイ監督だったのだと思います。カーウァイ監督作品のレスリーの色気ときたら…。特に鏡に向かって腰をくねらせるダンスシーンはエロすぎ(笑)

 

ブエノスアイレス

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(1997年…ウォン・カーウァイ監督)

 香港の名家に生まれながら、父親のコネで就職した会社で金を持ち逃げ、石もて追われるが如く故郷を後にし、地球の裏側、ブエノスアイレスまで流れ着いた男(トニー・レオン)。レスリーは、奔放でさんざん身勝手に振る舞いながら、しかしすぐに「俺たち、今度こそやり直そう」と、猫のように甘えてくる同棲相手の役。レスリーのオム・ファタルっぷりここに極まれり…って感じでしたよね。

 

 初めてこの映画を観た時には、ホモセクシュアリティを真正面から描いた内容に度肝を抜かれました。それも当時、人気・実力共にトップクラスのトニー・レオンレスリー・チャンが演じたんですから……。当時話題になったのが、二人が絡みつくように踊るタンゴのシーン。アルゼンチン・タンゴの発祥地とされるブエノスアイレスは、19世紀には出稼ぎ労働者がひしめく港町でした。彼らが日ごろの性的鬱憤のはけ口として、男同士荒々しく踊ったダンスが、アルゼンチン・タンゴの始まりと言われています。…その歴史を考えれば、そのものズバリのシーンより、よっぽどセクシー。観た夜は興奮してなかなか寝つけなかったことを、つい昨日のように思い出します(^_^;)

 

 撮影監督クリストファー・ドイルの才が冴え渡り、手持ちのカメラでズームして追いかけるように撮っていく躍動感(特にトニー・レオンが職場の仲間とサッカーに興じるところ)、「香港はブエノスアイレスの反対側にある。足の下に香港があるんだ」ってトニー・レオンが呟いた瞬間に映像が引っくり返るシーン等々、25年間以上経った今でも、その映像美はいまだ斬新で、全く色褪せていません。

 

★君さえいれば/金枝玉葉(1994年…チ・リー監督)
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 当代一の人気歌手ローズ(カリーナ・ラウ)を恋人に持つ、才能溢れる作曲家で音楽プロデューサー、サム(レスリー・チャン)。新人発掘オーディションの優勝者ウィン(アニタ・ユン)を育てるうち、享楽的なローズとは正反対、ウィンの率直で飾らない人柄に惹かれていくサム。しかし実はウィンは、「普通の若い男性をスターにする」というテーマのオーディションに男性と偽って合格していたのです。それまでゲイに対して偏見を抱いていたサムは、自分がウィンに恋していることをなかなか受け入れることができず、「…もしかして僕はゲイなのか?」と思い悩みます。

 

 レスリーに、「ゲイだとわかると人気が落ちる」なんてセリフを言わせるのは、製作側が知らなかった(…のかな?^^;)とはいえ、かなり彼には気の毒だったなぁ…とは思うんですけど、それを度外視すれば、愛称「哥哥ゴーゴー(お兄さん)」そのままに、レスリーの愛嬌のある、キュートな魅力満載のロマコメです。劇中で主題歌『追』(香港アカデミー賞主題歌賞受賞)を切々と歌う、彼の艶のある美声も胸キュンもの。またね、レスリーを巡る恋のライバル、アニタ・ユンとカリーナ・ラウが二人とも健気系女子で、とっても可愛いの。

 

 映画のラスト、レスリーの、恋が成就した時の幸せそうな笑顔が、今見返すと胸に痛い😢

 

★今日のオマケ

レスリー・チャンの命日は4月1日なんですが、その日にBunkamuraル・シネマで『欲望の翼』(デジタルリマスター版)が特別上映されることに決まったもよう。もう一本、シークレット上映されるみたい。もう一本…って、アレかな?ソレかな?コレかな?(笑)

 

②『欲望の翼』と『君さえいれば』両方で、レスリーに片想いする女性の役を演じたカリーナ・ラウ。彼女は実生活ではトニー・レオンの奥様。15年に及ぶ長い結婚生活で、トニーはかなり気難しく扱いづらい人のようで、カリーナがある時インタビューで記者にそれをグチったところ、「トニーはまだレスリーを忘れられないんじゃ?」という読者からのコメントがあったとか。トニーとレオンのラブシーン、ガチで凄かったもんね(^_^;)