いろんな意味で凄い映画でした。『イニシェリン島の精霊』、映画の専門サイトにはコメディに分類されてたけど、これってコメディなの?どこか笑える要素あったかなぁ…(?_?)それとも、ヲタクにコメディセンスが欠如しているのか。
監督は、マーティン・マクドナー。同監督の『スリー・ビルボード』の時は、主演のフランシス・マクドーマントとサム・ロックウェルのキャラもあり、けっこうコメディ要素入ってたけど、今回は人間の悪意や狂気じみた憎悪が圧倒的に迫ってきて、けっこうキツかったっす(^_^;)
時は1923年、舞台はアイルランド西海岸の沖にあるイニシェリン島とされていますが、実は島の名前は架空のものだそう。マクドナー監督によれば…
アラン諸島のいちばん小さな島、イニシィアを舞台にしようと思い、2、3年前に見に行ってみました。ですが、島はとても美しいけれど、ちょっとモダンすぎて、求めていたような大規模な自然の風景がなかったんですよ。それで、架空の島にすることにしたのです。
ヲタク実は30年ほど前に、アイルランド本土西海岸コンネマラ周辺を旅したことがあるんです。その時のイメージは映画のイニシェリン島そのままでしたが…。今はもう随分洗練されているんですね。
島で牛追いをしながら、午後には近くのパブに行って友人たちと一杯やる。日が沈んだら、同居する妹シボーン(ケリー・コンドン)が作ってくれた夕食を食べて眠りにつく……そんな毎日を当たり前のものと享受して生きてきた男パードリック(コリン・ファレル)。そんな彼の幸せだった(筈の)人生は、一番の親友だと信じて疑わなかったコルム(ブレンダン・グリーソン)から、突然絶交宣言をされて、180度変わってしまいます。コルムを傷つけた覚えもないパードリックは理由を問いただしますが、コルムはただ「お前が退屈な男だから」と繰り返すばかり。パードリックは妹のシボーンや、島の若者ドミニク(バリー・コーガン)に仲立ちしてもらい、なんとか関係の修復を図りますが、コルムは益々態度を硬化させ、「お前が今度俺に話しかけたら、その度に俺は自分の指を1本ずつ切り落とす」と、とんでもないことを言い出します。パードリックがその禁を破って思わずコルムに話しかけた翌朝、彼の家の扉に何か激しくぶつかった音が。鳥かと思って家の外に出たパードリックは、驚愕の表情を浮かべます。果たして彼がそこで見たものは……!?
パードリックが家の外で「あるもの」を発見するおぞましいシーンから物語は急加速して、大きな石が坂道を転がり落ちるように目を覆うような悲劇へと突き進んでいきます。…何も目ぼしい産業のない、寂れた島。古代ケルトの王国を偲ばせる石垣や紺碧の海と空、白浜等アイルランド特有の牧歌的な光景が美しければ美しいほど、人間の心の底に潜む暗黒面が際立ってくるしくみ。
コルムは老境に入り、自分自身の人生を振り返った時、「何もなし得なかった」ことに愕然とし、フィドルが得意な彼は音大生とパブで合奏したり、作曲をして余生を送ろうと思い立ちます。そんな彼にとって、「ロバのク○の話を延々と2時間もする」、ベートーヴェンをボーボーヴェンと言って憚らない無知で無学なパードリックは疎ましく、それが積もりに積もってプッツンしちゃったもよう。…まあでも確かに、ロバのウ○コの話を2時間も聞かされたらさすがに…(^_^;)んでもって、パードリックの返しも、「ロバのク○の話しなんかしてないっ❗馬のク○だっ❗」って…。おーいー、そっちかい(笑)
一方、コルムのいう「人生の空虚さ…人生とは死ぬまでの暇つぶしである」、「生きがい」など、近代人としての自我の目覚め?的な話は全く興味の範囲外のパードリック。はじめのうちこそ何とか状況を改善しようと努力しますが、人の心を読めない(読もうともしない?)彼は益々コルムを苛立たせるばかり。「気のいい善良な男」として当初登場したパードリックが、自分の存在を全否定され、さりとて閉鎖的な島で他に逃げ場のない彼が、生涯で初めて、心の中にドス黒い憎悪を膨らませていく……その変化を少ないセリフと表情で演じきるコリン・ファレルが凄い❗アカデミー主演男優賞、ヲタクは『エルヴィス』のオースティン・バトラー熱烈推しだけど、うーーーん、この老獪とも言える巧妙な演技、強敵すぎるゾ、コリン・ファレル(笑)
二人は『聖なる鹿殺し〜キリング・オブ・ア・セイクリッドディア』で1度共演していて、その時もなにげにブロマンスっぽいニオイがして良かったのよね。あっ、そういえば、ロブ・パティンソン版『バットマン』のペンギンマンとジョーカーだ❗この二人。
でも……でもね、ヲタクの推しはコリンぢゃなくてドミニク役のバリー♥知的な障害を持っている(らしく)、警察官の父親から性的虐待を受けている島の道化者ドミニクは、パードリックからさえ小馬鹿にされる存在ですがそのじつ、鋭い洞察眼を秘めている設定。愚鈍な表情を見せながら時折、その深い蒼い瞳に知性を閃かせるのはバリー・コーガンの真骨頂。マクドナー監督もバリーの魅力にゾッコンらしく、今回のドミニク役は彼にアテ書きしたもののようです。はっきり言ってイケメンには程遠いけど、噛めば噛むほど味が出そうな感じ?スルメみたいな(笑)日本の俳優で言えば岡山天音?
全編を通じて、遠く※アイルランド本土の内戦の砲火が立ち上る様子が映されますが、監督のインタビューによれば、1つのメタファーとして使われているようです。パードリックとコルムについても、当初は些細な綻びに見えたものが、憎悪が憎悪を呼び、生死を賭けるような惨劇へと繋がっていく……これはまさに1923年当時のアイルランド内戦であり、その後も世界のあらゆる場所で繰り返されている出来事の寓話でもあるのです。
※英愛条約によって「アイルランド自由国」が成立、アイルランド独立が一部認められたものの、北アイルランド6県は英国に取り残され、急進派(IRA)がそれを不満として、ダブリン市街戦に発展。のちの北アイルランド問題の発端となりました。
島でただ一人、近代的自我と自意識を持つ聡明な女性として描かれるパードリックの妹シーボーン(ケリー・コンドン)。彼女は、全員が顔見知りで他人の争いに首を突っ込むような島の状況、本土は独立を賭けて内戦状態だというのに、日常の些末な出来事に汲々としている島民たちにうんざりしており、郵便局のおばさんに彼女宛の私信をこっそり盗み読まれた時、「この島の人間には悪意しかない❗」と吐き捨てますが、彼女の姿に、アイルランドにルーツを持つというマクドナー監督自身の、生まれ故郷に対する愛と憎悪、複雑な感情を見たような気がします。
人間本来の愛憎の物語であると同時に、アイルランドの土着神話、寓話的要素やメタファーが幾重にも張り巡らされたストーリー。ヴェネツィア映画祭やゴールデングローブ賞等、数々の映画祭を席巻している問題作です。
★今大注目、本作の演技で米アカデミー賞助演男優賞にもノミネートされているバリー・コーガンの紹介はコチラ❗🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻
— rie4771 (@rie4771) 2023年1月27日
★4年前、このブログでヲタクが書いたアイルランドの紹介記事はコチラ🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻🔻
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— rie4771 (@rie4771) 2023年1月28日
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