オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、映画・舞台・ライブ鑑賞後の感想をゆるゆると呟いたりする気ままなブログ。

光と翳の美学、此処にあり〜『仕掛人・藤枝梅安』

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 桜木町駅前のシネコン「ブルグ13 」で、『仕掛人・藤枝梅安』鑑賞。

 

 見終わってヲタク、しごく興奮してます。久しぶりにモノホンの時代劇を見たような気がするから。時代劇…といっても、派手な合戦シーンを売りにしたものではなく、原作が池波正太郎だから、江戸の市井の庶民の暮らしを背景にしたストーリーで、そこがまた良かった❗池波正太郎も、早や生誕百年なんですねぇ…。ヲタクは若い頃、時代小説にハマっていた時期がありまして。シバレンの『眠狂四郎』、司馬遼󠄁太郎の新選組シリーズ、吉川英治の『新・平家物語』あたりが好きだった。池波正太郎はヲタク、『鬼平』派なので、『仕掛人』シリーズの原作は未読なんですが、TVの『必殺仕掛人』は大好きで、再放送、欠かさず見てました。初代梅安は緒形拳。野性的でギラギラしてて、どこか突き抜けた明るさのある、ダークヒーローっぽい梅安だった。『復讐するは我にあり』(今村昌平監督)の殺人犯役と、ちょっとカブる感じ。

 

 一方、今回の梅安役・豊川悦司は、緒形梅安とは対極のイメージですね。鍼治療を行う医者でありながら、人を生かすその同じ針で人を殺める、心の底に地獄を抱える男。「今年もまた、死ななかったね……」と、自分自身の因果応報に、常に向き合って生きている。人生を達観した、静かな佇まいの中にヒヤリとした殺気を感じさせて、緒形拳とは全く違う意味で素晴らしく魅力的❗何より、そのすらりとした長い指で、殺める相手の心の臓や、盆の窪に冷たく光る針を音もなくすっと沈ませる時の、所作の美しいこと。…そう言えば、『愛していると言ってくれ』で、トヨエツの手話の指の動きにヤられた…って女子、当時けっこういましたよね(笑)

 

 そしてもう一つ特筆すべきは、江戸時代の日本の美を余すところなく表現した、映像の美しさ。日本座敷の障子や床の間、闇夜に浮き上がる行灯の美しさを墨絵に喩えて、日本古来の美は光と翳の使い分けにある…と言ったのは谷崎潤一郎ですが、今までヲタク、その陰翳の美をスクリーンに再現した映像作家は、溝口健二(『近松物語』『山椒太夫』『雨月物語』など)ただ一人…と思ってきました。しかし今回、令和版『仕掛人・藤枝梅安』がヲタクのリストに加わった❗この「光と翳」の美学はまた、善と悪の危うい狭間で揺蕩う主人公、藤枝梅安の生きざまそのものでもあるのです。

 

 梅安役の豊川悦司は言うに及ばず、ヤンチャな中に愛嬌も色気もある盗賊上がりの仕掛人仲間・彦次郎役の片岡愛之助、凄惨な娘時代の果てに人間を憎むようになった大店の女将・天海祐希のド迫力の悪女っぷり、四十代とはとても信じられない少女のような菅野美穂、キレッキレの殺陣がサスガの若侍役・早乙女太一、偉大なるコメディエンヌの存在感・髙畑淳子(緊張感ピリピリのストーリー展開の中、彼女の登場シーンだけホッとする 笑)……等々、脇役の一人一人に至るまで緻密に考え抜かれたキャスティングがお見事。

 

 そして、さすが※池波正太郎の原作だけあって、当時の江戸の風俗や食事を再現した場面もしっかり出てきます。削り節だけのお茶漬けや湯豆腐、魚の干物、おでん、梅安自ら打つ年越し蕎麦、どれもこれもみんな美味しそう……(じゅる)。ヲタクは夕飯時に見たので、よ、よだれが……(^q^)大晦日の夜半、梅安が縁側で雪見酒を嗜むシーンは、しんしんと降りしきる雪の音がスクリーンから聞こえてきそう。

大のグルメでもあった池波正太郎。小説の中でも度々江戸時代の料理が登場します。彼の小説に登場する料理を再現する『池波正太郎江戸料理帳』なんていうTV番組もありましたっけ。

 

 今回の作品は2部制とのこと、次作は4月7日に公開予定だそうですが、あと2ヶ月もあるのね〜〜。

待ち切れないわ❗