オタクの迷宮

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香川京子と溝口健二と田中絹代と

 
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日本映画界の至宝、香川京子さんのインタビュー、非常に感激しました❗

 

 香川京子さんってね、物凄い女優さんなんですよね。なんてったって昨年公開された映画オタクによる映画オタクのための映画オタクのドキュメンタリー『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』(マーク・カズンズ監督)の冒頭、「日本最高の映画に出演した香川京子さん」というカズンズ監督の賛辞と共に、香川さんのドアップが映し出されましたからね❗…まあでも、ここでカズンズ監督が云う「日本最高の映画」って、小津安二郎監督の『東京物語』のことなんですが(笑)

 

 香川さんは、1953〜1954年の僅か2年間に、前述の『東京物語』をはじめとして、『近松物語』、『山椒太夫』(溝口健二監督)と、名だたる監督の、しかも日本映画史に残る名作3本に立て続けに出演してらっしゃる。これは凄い、凄いことです。インタビューでは、ヒロインを演じ、溝口監督の指導によって演技開眼したとも言える『近松物語』について語っておられました。監督の※「反射して下さい」も懐かしい。

※「俳優は、相手のセリフや動きに反応して動かなくてはならない」という溝口監督の持論。

 

近松物語』は、近松門左衛門人形浄瑠璃『おさん茂兵衛』が元になっています。大店のおかみ、おさんが手代の茂兵衛と不義密通、それが露見して町中引き回しのうえ磔刑に処せられる話です。潔白の身を誤解され、あらぬ噂を立てられ、次第に追い込まれていく二人。悲劇を彩るモノクロ映像は、まさに"陰翳礼讃"(谷崎 潤一郎 著)が描いた日本的な美そのものでした。そしてそして、無垢な女性が過酷な運命に翻弄されながらも次第に自我に目覚め、遂には愛の殉教者となる……おさんの変化のプロセスが、香川さんの女優としての開花そのものだったところが素晴らしかった。

 

 溝口監督の作品はその殆ど全て、女性が主役。過酷な運命に翻弄される女性の姿を通じて、社会の不条理を抉り出す徹底したリアリズムは、ジャン・リュック・ゴダールに影響を与えたというのも頷けます。ゴダールの『少女ムシェット』なんて、まんま溝口健二の『山椒太夫』、それこそ香川さん演じた安寿そのまんまだもん。インタビューでは語っておられませんが、香川さんが『山椒太夫』で安寿を演じた折、監督から平安時代奴隷制や人身売買についての膨大な資料を読み込むよう命じられた…というのも有名な話(^_^;)

 

 ヲタク的には、日本映画史上の三大巨匠と言えば、黒澤明小津安二郎溝口健二。でもって、ヲタクが三人を一言で表現するとすれば、黒澤が「男の美学」、小津が「家族の在り方」、溝口が「女性の生きざま」。ヲタクはだんぜん溝口派なんだけど、先の二人に比べて日本国内での評価がイマイチな気がする。今この時代、もっと彼の作品が注目されてもいいんじゃないかなぁ…。

 

★今日のオマケ

 溝口健二で思い出すのが、監督のミューズだった田中絹代。先ごろ公開されたインド映画『エンドロールの続き』で自らの映画少年時代を感動的に綴ったパナ・ナリン監督がインタビューで、「日本映画界における女性たちの活躍にもっと焦点が当てられるべきだ。例えば田中絹代さんとか」って語っていましたね。同感です❗女優としてだけでなく、日本における女性監督の先駆者としても素晴らしい足跡を残した田中絹代。さしもの溝口健二田中絹代の監督志願には反対していたそうですが、彼女の能力、過小評価していましたね、監督(笑)ここ数年、フランス・リヨンのリュミエール映画祭をはじめとしてカンヌ国際映画祭、ニューヨークなど、海外での再評価が一気に高まっています。本家本元の日本がいちばん遅れてるっぽい(笑)

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