オタクの迷宮

海外記事を元ネタに洋画の最新情報を発信したり、鑑賞後の感想を呟いたりしています。今はおうちで珈琲片手に映画やドラマを観る時間が至福。

パリを舞台にしたおススメ映画PART3〜『パリ、嘘つきな恋』『冬時間のパリ』

今日は「パリを舞台にしたおススメ映画」第3弾🎵上映当時もあまり話題にならなかったけれど、そのまま埋もれてしまうには惜しい映画を2つ選んでみました。
f:id:rie4771:20230325130647j:image

★冬時間のパリ(2018年)

冬は、パリが一番パリらしい季節。そんな「冬時間のパリ」に繰り広げられる、いかにもフランス的な、大人の恋模様。

 

 主人公は大手出版社の編集長アラン(ギョーム・カネ)。妻のセレナ(ジュリエット・ビノシュ)は舞台を中心に活躍する女優で、二人の間には可愛い小学生くらいの男の子もいる。結婚歴はすでに20年。しかし、驚くべきことに、二人にはそれぞれ愛人がいるんですね。夫には若いやり手の部下、妻には、自らの恋愛をテーマに私小説を書く小説家のレオノール(ヴァンサン・マケーニュ)。しかもその小説家を今まで主に担当してきたのが他ならないアランという複雑怪奇な関係(笑)さらには、政治家の秘書であるレオノールの妻も交えて、週末には互いにお酒を楽しむ友人関係でもあるという…。


f:id:rie4771:20230325132229j:image

※パリの街並みとジュリエット・ビノシュのファッションがお洒落❤

  

 そんな彼らの交流が、まるで予定調和のごとく淡々と描かれていきますが、我々日本人からしたらかなりインパクトがありますなぁ(笑)でも、個人主義が徹底しているフランス人の面目躍如、恋愛感情は個人の問題であって、たとえ親子、夫婦であっても、それを責めたり、自分の思い通りにする権利はない…そんなポリシーがうかがえるような気がするのは深読みしすぎでしょうか❓自分自身がそれに耐えられなくなったら、その時点でもう、離婚になるわけ。フランス人にとって、たとえ結婚していても、恋愛はあくまでも個人の問題であって、倫理道徳に反する、いわゆる「不倫」という感覚とはちょっと違う。映画の中の二人もお互い愛人がいてそちらのほうに心が傾きつつあり、特にセレナのほう、最近は「離婚」の2文字が脳裏を掠めない…わけでもない、という微妙な状況。

 

  マクロン現フランス大統領がブリジット夫人の元教え子で、夫人のお嬢さんのクラスメートだったという事実は、一時日本のワイドショーがセンセーショナルな話題にしてましたね。たぶんフランス本国では、大統領のプライベートなんて興味の対象外だったと思いますが(笑)そのお嬢さんはマクロン大統領と仲が良く、選挙の際はスタッフとして活躍した…というのもいかにもフランス的。

「私のクラスメートと恋愛なんて、ママなんて不潔❗絶対反対だわ、うぇーん」

…なーんて反応はなかったんでしょうか。親の恋愛も「個人の問題」として心理的に処理できたのだとしたら、フランス人の子供って肝が据わってるな(笑)

 

  アランは、自分の担当している作家のレオノールと妻のセレナが関係を持っていることを薄々気づいていますが、気づかぬそぶり。しかし、レオノールの最新作を自分のところで決して出版しようとはしません。なぜなら、その小説には、主人公と、セレナとおぼしき女性との情事が赤裸々に描かれているから。「なぜ出版のOKを出さないの❓」と尋ねるセレナに、妻の目を覗き込みながらアランは静かにこう言うんですね。「相手の女性の描き方が僕は気に入らないんだ。女性に対する尊敬が見られない。だから出版したくない」…と。さあ、その夫の言葉を聞いて、セレナの下した決断は…❓

 

  別に大きな事件が起きるわけじゃない、淡々と進む会話劇なんですが、夫婦って何なのか、自分自身のポリシーや生き方を大事にするからこそ相手をも同じように尊重すべきであるという真の個人主義について、考えさせられる1本です。夫婦、パートナー、恋人と一緒に見て、感想を話し合ってみるのも面白いかも。

 


f:id:rie4771:20230325132621j:image

★パリ、嘘つきな恋(2018年)

 こちらもフランス映画らしい、大人向けのロマコメです。

 

 今まで一度も恋愛に真正面から向き合ったことはなく、One night loveの出会いと別れを繰り返してきたプレイボーイのジョスラン(フランク・デュボスク…フランスの著名なコメディアン。めちゃくちゃイケオジなり❤)が、ケースワーカー若い女性から車椅子生活の障害者と誤解され、彼女の関心を引く目的でそのフリを続けます。ところがその女性の姉の、こちらは本当に障害を持ったフロランス(アレクサンドラ・ラミー)に真剣な恋をしてしまい…というおはなし。

 

  ロマンスものはあまり観ないワタシですが、これはもうね、序盤はウィットに富んだ設定と会話のキャッチボールに大笑いし、ジョスランが本気の恋に落ちる中盤から涙が溢れて止まらなくなり、ラストはもう号泣状態なので、映画館の館内が明るくなるのが少々気恥しかった覚えがあります(^_^;)

 

  ジョスランの愛すべき「チョイ悪オヤジぶり」(フランス人でこんなタイプ珍しいな、と思ったら、しっかり「イタリア系」って設定だった。納得=笑)、フロランスの凛とした美しさ、強さ、ユーモアのセンスを始めとして、障害の姉を思いやる妹のいじらしさや、ジョスランの嘘にムリヤリ付き合わされてしまう友人(LGBTの医者)、ジョスランを好きだけど自分に自信がなくて悩む秘書、認知症で老人ホームに暮らすジョスランの父親に至るまで、弱さもズルさも持ち合わせているけど、みんな精一杯前を向いて生きている愛すべき人たち。脚本・監督・主演の三役を務めたフランスのコメディアン、フランク・デュボスクの人間そして人生そのものに対する優しい眼差し…その全てが、爽快かつ意外性のあるラストに収束していくという感じです❗


f:id:rie4771:20230325134328j:image

夏のパリも美しい……。

 

 ン十年前のヨーロッパ駐在時代、夫が急きょ出張になった為、3歳と5歳の娘たちを連れてドイツへのバスツァーに参加したことがありましたが、子連れだからとさりげなくいつも手助けしてくれた若い男子学生。そしてそのバスには車椅子の若い女性が一人旅で参加していましたが、当然のように、他の参加者が手を差しのべる。そしてその女性も当然のように笑顔でその善意を受けとる。介助する側もされる側も、ごくごく自然体だったことが思い出されます。

 

  劇中「障害のことをやっとジョークにできるようになった」というセリフがあるのですが、障害を持った人が主人公のコメディって、成熟した社会でしか成立しないんじゃないか…とふと思いました。観ている側もね、その意識如何によって、必要以上に過剰反応しちゃったりするし…。

 

  それで思い出すのが、イギリスのコメディ「リトル・ブリテン」あれもLGBTを始めとしてマイノリティを徹底的にジョークにしているぶっ飛んだ作品ですが、逆説的に言うと、マイノリティを差別していないからこそ、権威やマジョリティに対してと同様、笑いのタネにできるんですよね。ヘンな意識があると、何も出来ないですけど。

 

  「パリ、嘘つきな恋」のフランク・デュボスクも、「リトル・ブリテン」のデヴィッド・ウォリアムスも高名なコメディアン。本作、笑いと涙の感動だけでなく、いろいろなことを考えさせられる深い作品です。

 

 2作とも映画配信サイトで観ることができると思いますので、機会がありましたらぜひ❤