★ミセス・ハリス、パリへ行く(2022年)
舞台は1957年、ロンドン。 第二次世界大戦で出征した夫を待ちながら、家政婦の仕事をかけもちして日夜働いているミセス・ハリス(レスリー・マンヴィル)。しかしある日のこと、夫の乗った飛行機は1944年に撃墜され、残ったのは指輪1つだった……という知らせが届きます。覚悟はしていたものの、放心状態のミセス・ハリス。しかしそんな時、働き先のお金持ちのおうちで、夢のように美しく、ゴージャスな一着のドレスに出会います。 ドレスの裏には、今まで彼女が見たことも聞いたこともなかった、クリスチャン・ディオールという名前が縫い付けてありました。一目でそのドレスに「恋した」彼女にとって、その瞬間から、「いつかパリへ行って、ディオールのドレスを買う❗」ことが生きがいになるのですが……。
時代設定が1957年というのがニクイですね。ミセス・ハリスがメゾン・ディオールに到着した日はちょうど10周年のコレクションの日で、メゾン中が大わらわ。貴族やら大富豪やら、お得意客が続々と到着するなか、現金を握りしめてドレスを買いに来た「得体の知れない英国女性」を、支配人のマダム・コルベール(イザベル・ユペール)は「あなたの来るところじゃないわ」と追い出そうとしますが、若い会計係フォーヴェル(リュカ・ブラヴォー)やモデルたち、お針子たちは、同じ労働者の立場にあるミセス・ハリスに同情的で、あれやこれや取りなしてくれます。それもそのはず、当時のパリはあちこちでゼネストが多発、アルジェリアをはじめとしてアフリカの植民地が次々と独立し、政府の労働政策の転換が叫ばれていた頃。ディオールも、今までの世界各国の貴族や富裕層ばかりを対象としたオートクチュール限定の商法だけでは立ち行かなくなり、岐路に立たされていました。ちょうどそんな中に飛び込んでいったミセス・ハリスが、持ち前の明るさと人の良さで、「メゾン・ディオール改革」に大きな役割を果たすストーリーは、ひと味違うオトナの青春物語。
※当時のメゾン・ディオールでの新作発表会(パリコレのハシリ)のシーンが出てくるのも楽しい❤
…でも、映画の中で若い人たちの革新的な考え方を受け入れる度量の大きさを見せたムッシュ・ディオール、史実としてはこの年に亡くなっているんですよね😢マエストロの死を契機にイヴ・サンローランがメゾンを引き継ぎ、より一層ディオールは新しいフェーズへと突き進んで行くわけです。
レスリー・マンヴィル(ハイ、ゲイリー・オールドマンの最初の奥様ですねぇ。この作品のような人の良いオバちゃん役も、『ザ・クラウン』や『ファントム・スレッド』のような取り澄ました役もどいらも演じられる…スゴイ❗)とイザベル・ユペール(フランソワ・オゾンのミューズとしても知られた彼女、冷たく取り澄ました裏に情念を燃やす役柄が似合います)、イギリスとフランスの二大女優の演技合戦もお見事。ヲタク、二人とも大好きな女優さんだからもう、二人の共演っていうだけでワクワクしました。最初は全く相容れずいがみ合いながらも、様々な出来事を通じてお互いを理解し合い、最後は「私たち、似た者同士なのよ」(by ミセス・ハリス)と言うまでになる、そのプロセスも胸アツ❗
★タイピスト❗(2012年)
『ミセス・ハリス〜』と同様、舞台は1950年代。フランスのド田舎、雑貨店を営む父と二人暮らしのローズ・パンフィル(デボラ・フランソワ)は、父が強引に進める縁談を逃れる為、独学で覚えた早打ちタイプを武器❓に、パリで保険代理店を経営するルイ(ロマン・デュリス)の秘書として採用されます。ところがこのローズ、重要書類をシュレッダーにかけ、それをムリヤリ引っ張った為に機械を壊したり、電話をとるのにメモが見つからず社長のルイの手のひらに書いちゃったり…と、秘書としてはさんざんのていたらく(笑)ルイは「秘書には向いていない」とクビにしようとしますが、「村に帰ったら、気の進まない縁談を受け入れるしかない」とローズに泣きつかれ(フランスでも50年代はこんな感じだったのね😅)、彼女を田舎に帰さない為の苦肉の策『タイプ早打ち大会』優勝を目指して、彼女を特訓するハメになり…というおはなし。
…はてさて、このストーリー展開と映画のキャッチフレーズのかずかず…「マドモアゼルのド根性見せてあげる」「素敵な上司は鬼コーチ」どこかで見たことある、聞いたことあるゾ…そう❗まんま『アラベスク』(山岸凉子)、『エースをねらえ❗』(山本鈴美香)ですよねぇ。イケメンでクールなコーチがいて、『ドジで、ノロマなカメ』(あ、このフレーズは少女漫画じゃなくて、堀ちえみと風間杜夫ね。ドラマ『スチュワーデス物語』)な私を、栄光の極みに導いてくれる…っていう少女の夢のキラキラ世界✨💍✨
※画面もファッションもみんなカワイイ😍ピンクのタイプライター……欲しい(笑)
鬼コーチ…って言ってるけど、行動を観察しただけで(お前ホントはめちゃくちゃ優しいだろーーっ)って突っ込み入れたくなるのも、やっぱり少女漫画の世界(笑)
映画でのローズの特訓の様子なんて見ると、走ったり跳んだり自転車こいだり、まんまスポ根。手動タイプってホントに体力勝負。5本指で打つ場合、普段使わない薬指や小指にかなり負担が来るから、肩から二の腕も一緒に鍛えなくちゃいけない。ストーリーはまんまスポ根でも、そこはそれフランス映画、おシャレで可愛くてキッチュでポップな作品に仕上がっているところがお国柄❤️カラフルなオープニングがまず必見🎵ローズのブロンドのポニーテール姿を初めとして、登場する女性たちの50年代ファッション、画面の色彩感覚に酔いしれ、映画の中のセリフ…「アメリカ人はビジネスを、フランス人は愛を」に象徴されるフランス的流儀を堪能あれ❗