オタクの迷宮

海外記事を元ネタにエンタメ情報を発信したり、映画・舞台・ライブの感想、推し活のつれづれなどを呟く気ままなブログ。

サスペンスが加速する〜『バビロン・ベルリン』シーズン2

 
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 故郷のケルンからベルリン警察に転勤になったゲレオン・ラート警部を主人公に、世界的大恐慌ヴァイマル共和国崩壊直前の「魔都」ベルリンを舞台に、街に起きる怪奇な事件を描く『バビロン・ベルリン』第2シリーズ。

 

 第1シリーズでは、ベルリンで地下に潜りスターリン政権打倒を目指して活動を続けるトロツキスト集団「赤い砦」と、第一次世界大戦の敗戦国として厳しい軍事力制限を受けている自国の現状に不満を持ち、違法に軍事力の増強を図る「黒い国防軍」が、奇しくも同じ列車で密輸を実行しようとしたことから引き起こされる様々な事件の顛末が描かれました。(「赤い砦」はロシア貴族が隠匿していた金塊を、「黒い国防軍」は武器用の毒ガス・ホスゲンを密輸しようとしていたのです)


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※ドラマの主人公、ゲレオン・ラート警部(フォルカー・ブルッフ)。シーズン2では生真面目でひ弱なおぼっちゃまくん……というイメージでしたが、シーズン2ではどんどん逞しくなり、ラストにはジェームズ・ボンドばりの活躍をします(^_^;)

 

 第2シーズンでは、警察権力に深く食い込んでいる「黒い国防軍」が実はソ連共産党と組んで、武器の密輸に加え、なんとソ連国内のリペツク(モスクワの南東30キロ)に秘密裡に空軍基地を建設している疑惑が浮上します。当時の史実や実際に起きた事件を巧みに織り交ぜてストーリーを展開する『バビロン・ベルリン』のこと、これって相応する史実があったんだろうか……。メーデーで無慈悲に共産党主義者たちを撃ち殺す一方で、ソ連共産党と手を組んで秘密裡に兵力増強って……。また、ストーリーが展開するにつれ、当時の為政者たちの中には、ヴァイマル憲法によって折角ドイツに根付こうとした民主主義を守ろうとした人物は殆どいなかった……というショッキングな事実も。歴史って残酷。

 

……しかし、自国の歴史の、暗部も恥部も余す所なく描くこのドラマ、製作陣の姿勢に脱帽❗️


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※兄の妻と長年不倫関係にある主人公のラート警部(左…フォルカー・ブルッフ)。しかし次第に捜査助手を務めるシャルロッテ(右…リヴ・リサ・フリース)の健気さに惹かれていき……。

 

 ラート警部は、警察内部における「黒い国防軍」の勢力一掃を目論むベンダ行政長官(元首相で当時の外務大臣だったシュトレーゼマンの片腕……という設定)の命を受け、真相を明らかにすべくリペツクに飛びます。シーズン1は大勢の登場人物の紹介……という意味合いもあり、割とゆったりめなストーリー展開でしたが、シーズン2になってから俄然サスペンスみが加速します。リペツクへの隠密飛行シーンも、離陸時に操縦桿が動かなくなるわ雷が落ちて一時エンジンが止まるわ飛行場の写真撮影中に飛行機から滑り落ちそうになるわ、まるでヒッチコックのスパイもの(『北北西に進路を取れ』『引き裂かれたカーテン』)みたいにハラハラ・ドキドキな展開に(^_^;)

 

 一方で、訪独中のフランス外相とシュトレーゼマンを暗殺、ヴァイマル共和制を転覆してヴィルヘルム2世を亡命先から呼び戻し、ドイツ帝国を取り戻すクーデターを起こす計画が、あろうことか警察内部で進行していることが発覚します。ベンダ行政長官の命を受けて首謀者を探っていたスパイのイェニケは、掴んだ情報を長官に伝える前に何者かに殺害されてしまい、彼が肌見放さず身に付けていた茶色い手帳は犯人に持ち去られてしまいました。真実が記された茶色い手帳を、ラート警部は必死で探しますが……。


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※聾唖の両親を常に思い遣る孝行息子で、読唇術の技能を買われて行政長官のスパイを務めるようになる誠実な青年イェニケを演じたのは、フランソワ・オゾン監督の『婚約者の友人』で鮮烈な演技を見せたドイツのイケメン、アントン・フォン・ルケ。心に闇を抱えたくせつよキャラが殆どの中(主人公のラート警部ですら、例外ではありません)、イェニケくんとシャルロッテちゃんの初々しいカップルだけがヲタクの癒しだったのに……。退場が早すぎる(泣)。

 

 

 フランス外相とシュトレーゼマンの暗殺計画の舞台となるのが、シッフバウアーダム劇場。当時劇場で上演されていたのがドイクルト・ヴァイル 作曲による音楽劇『三文オペラ』。ヴァイルはユダヤ人で、後年ナチスの迫害を恐れて妻の女優、ロッテ・レーニャと共にアメリカ合衆国に亡命します。(ヴァイルの全作品はその後、ナチスから“退廃音楽”の烙印を押され、演奏禁止の憂き目に合います)ユダヤ人作曲家による音楽劇を鑑賞中の、ヴァイマル共和制の申し子のようなシュトレーゼマンが、右翼勢力から命を狙われる……。その後ドイツが辿る運命を象徴するような、何とも皮肉な構図ではありませんか。

 

 様々な困難に遭いながらも、必死で乗り越えようとする登場人物たち。しかし彼らを待ち受けているものは、世界的大恐慌と民主主義の終焉、狂気の独裁者がもたらす壮絶な世界大戦、そして敗戦の果ての国家の分断……。もちろん歴史ドラマとしてだけではなく、ミステリとしても一級品で、シーズン1同様、シーズン2のラストでもあっと驚くようなどんでん返しが待ち受けています。

 

 登場人物たちの来たるべき運命を思えば胸が痛みますが、ドイツTV界が総力を結集して作り上げたこの壮大なドラマを、しかと最後まで見届けようと思っています。

 

原作はフォルカー・クッチャーの「ゲレオン・ラート警部シリーズ」。現在ドイツ本国では第9巻まで刊行されているもよう。ドラマのシーズン1と2は、第1作めの『濡れた魚』を元に製作されたようです。『バビロン・ベルリン』シーズン1〜3は、Amazonプライムビデオで配信中。

 

★今日の小ネタ

マック・ザ・ナイフ

 あまりにも有名なジャズのスタンダードナンバー『マック・ザ・ナイフ』。1955年ルイ・アームストロングが歌って大ヒットして以来、ボビー・ダーリンやエラ・フィッツジェラルド等が次々とカバーしました。ジャズファンでなくとも、メロディを聴けば「ああ、あの曲…」と思い当たるはず。しかし元はといえば、『三文オペラ』の劇中歌(『メッキー・メッサーのモリタート(ドイツ語: Die Moritat von Mackie Messer)』)だったのです。(ドラマ中でも、冒頭の部分がちらっと歌われていました)原曲の作詞は原作者であるベルトルト・ブレヒト、作曲はドイクルト・ヴァイル。ちなみに日本でも、『匕首マック』の題名で、美空ひばりや尾藤イサオがレコードを出しています。

 

②パターノースター


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ドラマ中、ベルリン警察にはパターノースター(ドアがない連続循環型のエレベーター)が設置されている設定。古い物を大切にするヨーロッパでもさすがに稼働している国は少なく、ドイツとチェコでのみ現存しているようです。そう言えば旅行系ユーチューバーの「無職旅」さんが、チェコでパターノースターに乗ってみた……っていう動画をUPされてましたね。