ヲタクが無類のアイルランド好き……と言うのは当ブログの他の記事で度々お話している通り。英国本土とは違うミステリアスなケルト民族の風習、晴れたかと思えば急に雨が降る、でもその為に緑は一層深くなり、「エメラルドの島」と呼ばれる美しい国、そしていまだに妖精の存在を信じる純朴な人々の住むところ……。
ハイ、『ボドキン』はそんなヲタクのセンチメンタルなロマン志向を見事にブッ壊してくれましたとさ(笑)
なんだかさ、これからは「アイルランド大好き、第二の故郷かも〜〜😍」なんて、手放しに言えなくなっちゃった…みたいな。「田舎の人は全員善人」みたいに考えてる単細胞だったのか、じぶん……みたいな。ご丁寧にNetflixポスター(映画版)には、「パブで漏れ聞いた実話に基づく」って書いてあるし。
舞台はアイルランドの海辺の町、ボドキン(注・架空の名前)。この風景からすると、ちょうどヲタクが30年前に旅したコークから西へ向かうディングル半島にかけての一帯のような気がします。(アイルランド西部一帯は、「最もアイルランド的な場所」と言われていますから…)
そんなのどかな田舎町に、アメリカのシカゴから「一発屋」のポッドキャスター・ギルバート(ウィル・フォーテ)、ある職務倫理違反を犯した為にキャップから「しばらくアイルランドに身を隠せ」と命じられたロンドンの腕利き新聞記者ダブ(シヴォーン・カレン)、ダブに憧れる記者志望のリサーチャー・エミー(ロビン・カーラ)がやって来ます。たまたま同じB&Bに泊まり合わせた彼らは、25年前のサーウィン祭り(死者の祭り、すなわちハロウィン)の夜、駆け落ちをしようとした一組の男女が忽然と姿を消し、一人の少年が失踪した後に記憶喪失の状態で発見されたという事件が起きたにもかかわらず依然として未解決のまま迷宮入りしており、奇妙なことに街の人々は一様にその事件について見て見ぬふりをしていることに気づきます。3人はそれぞれの野心と使命感から、謎を解くべく事件を再び調査し始めますが、じつは、一見平和そうに見えた田舎町には暗い秘密が眠っており、それを明らかにしようとする3人に魔の手が忍び寄ってきて……。
ポッドキャスターのギルバートが言うように、「犯罪実録モノ、田舎町、アイルランド(つまり風光明媚で自然に溢れた場所)はポッドキャストでどれも人気なネタ」であることは確かで、それはNetflixでも同じでしょう(笑)肝心なのは、それをフィクションとしてどう料理するか❓️『ミッドサマー』(アリ・アスター監督)のように異世界ホラーにするか、北欧や東欧のミステリのように、美しい風景と人間の心の奥底に潜む悪や欲望を対比させるイヤミスにするか(Netflixだと『Deadwind』や『泥の沼』シリーズ、『チェスナットマン』など)、はたまた『フランス絶景ミステリ』シリーズのように観光案内を兼ねたライトな語り口で描くか……。
※記事を書くためなら手段を選ばないダブ(右)に散々マウントされ、引っ張り回されるエミー(左)。しかしひょんなことから、その危ういパワーバランスは崩れ始めます。仕事で女同士が組む時のあるある(笑)
しかし『ボドキン』は、そのどれにも当てはまらないところがユニーク。ダークなミステリコメディとでも言いましょうか。一見純朴に見える田舎町の人々(特に修道女❗️)がかなり欲深くてしたたかで、そのパブリックイメージを逆手にとって陰で悪事に手を染めてたりするんですが、それを皮肉とブラックユーモアと風刺でチクチク描いてるとこがいかにも英国人らしいなぁ……と思いました。でも実際、アイルランド人のことかなーりディスってるよね❓️このドラマ(^_^;)やっぱり英国人とアイルランド人ってお互いに相容れない存在なのか……。だいたいボドキンってネーミングからしてdad bod(ビール腹の父ちゃん)を連想させて少々おマヌケな語感だし、作り手の微かな悪意を感じるのはヲタクだけ❓️
ミステリドラマとしては骨太で、最後にしっかりと複数の伏線も回収される、良くできた作り。また、暴走女のダブを筆頭に、ギルバートもエミーもそれぞれワケアリな人物で、事件の謎を追ううち、否が応でも自分自身の生き方を見直さざるを得なくなる3人それぞれのサブストーリーも面白い。特に自分に自信がなくてずっと他人に流されて生きてきたエミーの、最後の爽快な変身ぶりにはご注目。また、羊や牛の酪農など、牧歌的なイメージがあるアイルランドですが、実は世界中のIT企業を誘致して経済復興を遂げた国で、最近はヨーロッパにおけるシリコンバレー化しているようです。そんなアイルランドの「今」もしっかり描かれていて、そこも注目点かも。
※「ポッドキャスターは取材相手を尊重し、人に勇気を与える物語を語らなくてはいけない」と言いつつ、人の良さがアダになって、ズルズルと犯罪スレスレの行為に巻き込まれてしまうアメリカ人のギルバート。……もしかしてアメリカ人のこともディスってる❓️(笑)
好き嫌いは分かれるかもしれませんが、英国人の皮肉たっぷりなユーモア……例えば企画会議で英国人にある提案をしたとしましょう。物柔らかな口調で、「That is a brave proposal」(直訳すれば「それは勇気ある提案ですね」ですが、その心は「そんな陳腐なアイデアを堂々と披露できるなんて図々しいヤツだな」となります)と返されて、「チッ」と舌打ちしつつも、(うまいこと言うな。悔しいけど)って思える人にはきっと面白いドラマだとと思います……って、オマエこそ英国人をディスってるだろうって❓️そんなことないわ❗️英国人は大好き(マジで)。だってヲタク自身が慇懃無礼な皮肉屋で英国人にそっくりだから(笑)