Netflixオリジナル『ペイン・ハスラーズ』鑑賞。アメリカにおいて大きな社会問題となった、いわゆる「オピオイド危機」の顛末を描いた「実録モノ」です。
本題に入る前に、一体「オピオイド危機」とは何だったのか、ちょっと説明しておきましょう。このドラマ、アメリカの医療制度の実態について前知識がないと解りにくいので……。
★オピオイド危機とは❓️
アメリカのある小さな製薬会社パーデュー・ファーマが、ガンの末期患者が悩む強烈な痛みを即効で取り除く医療系麻薬オピオイド入り鎮痛剤「オキシコンチン」を開発します。会社側は医師たちへの収賄も辞さない強引な販促運動を展開し、それは瞬く間に患者の間に広まり、パーデューの株価は一時400倍に膨れ上がりますが、実はその薬には重度の依存性がありました。オーバードーズで死亡する患者が続出して社会問題化し、パーデューは集団訴訟を抱えたまま2019年に経営破綻しますが、今年2024年まもなく、パーデュー社が巨額の賠償金を支払う代わりに、創業者一族の民事責任が免除されるか否か、最高裁が判決を下す見通しとなっています。
※創業者一族のCEOを演じるのは、アンディ・ガルシア(中央…『ブラック・レイン』『ゴッドファーザー』)。かつてはハリウッドのイタリア系イケメン俳優として、アル・パチーノと並ぶ2大巨頭だったけど、今回の役は唯金主義の怪物で、イケオジ感はゼロ。かなり増量したのは役のためかな❓️ちとザンネンなり……。
……とかように、全米を揺るがせた「オピオイド危機」。2022年にはバイデン政権が各州に対して、問題解決の助成金として15億ドルを支払うほど深刻化しましたが、その顛末を、クラブのポールダンサーから会社の営業のトップに上り詰めた女性の視点から描いたドラマ。(社名や薬剤の名称は変えてあります)テーマは重いですが、語り口はライトでコメディタッチ。味つけがちょっぴりピカレスク・ロマンふう❓️(笑)
離婚後、小学生の娘と暮らすシングルマザーのライザ・ドレイク(エミリー・ブラント)は、住む家も家賃滞納で追い出され、安モーテルで暮らしながらナイトクラブでポールダンサーをして日銭を稼ぐ日々。彼女はクラブに客として来ていたザナ製薬の営業部長ピート(クリス・エヴァンス)にその人当たりの良さと会話術を見込まれ、彼の部下として働くことになります。ピートの販促方法は医師たちへの過剰な接待や贈賄、時には女子社員による色仕掛けも辞さない強引なやり口でしたが、一人娘フィービー(クロエ・コールマン)の持病が悪化し、手っ取り早く稼ぎたいライザは、彼の言われるままに違法すれすれの危うい橋を渡り始めます。その結果、鎮痛薬ロナフェンはバカ売れし、アメリカンドリームさながらに、瞬く間に貧乏のドン底から這い上がり、富と名声を手に入れたかに見えたライザでしたが……❗️
ライザは元々、「何か人に役立つことをしたい」という想いを抱いていた正義感の強い女性。ザナ製薬の営業部員として働き始めた当初は、ロナフェンは「ガン末期患者の痛みを速やかに取り除く夢のような薬」というCEOニール博士(アンディ・ガルシア)の言葉を信じて、販促活動にのめり込んでいく彼女でしたが、鎮痛薬を末期ガン以外の患者にも処方して売上を伸ばそうとする会社のやり方に次第に疑問を持ち始めます。金銭欲や名誉欲、そして正義感との狭間で心が揺れ動いていくライザ役を、数々の演技賞にノミネート経験を持つ英国出身の女優、エミリー・ブラントが熱演❗️(彼女はプロデューサーも兼ねているそう)サスガの演技を見せてくれます。
しかししかし、作品中彼女以上に生き生きしていたのが、金と色と欲に塗れたサイテーのクズ男を演じたクリス・エヴァンスでしょう。おまけに、分科会で社員たちに檄を飛ばす時、被り物姿でラップを刻むという、イン・シンクばりのパフォーマンスまで見せてくれる出血大サービス🙀MCUの良心のシンボル、キャプテン・アメリカ役の重圧がよほどこたえていたのか、キャップ役を引退した後のはっちゃけ具合が凄い(笑)『ナイブズ・アウト』や『グレイマン』のイッちゃったサイコパス役とか。でも、引退後のほうが溌溂としてるよね、彼(^_^;)
※「薬を売るためには殺人以外なんでもやる」と豪語するピート(クリス・エヴァンス)
確かに欲に目が眩んだ製薬会社や医者たちは確かに悪だけど、『ペイン・ハスラーズ』は、アメリカの医療制度に潜む、もっと根深い問題に焦点を当てている気がしてなりません。日本や英国のように国民なら万人に適用される健康保険制度が存在しないアメリカでは、ガンに罹っても貧しい人たちは治療ができない。だましだましガンと共存しながら生きていくしかない。そして末期になったら鎮痛薬を使用する。『ペイン・ハスラーズ』は、今だにアメリカを揺るがし続けている「オピオイド危機」の根底に潜むもの……「貧乏人は病院に行けず、死を待つしかない」と言われるアメリカの医療の現実を強烈に皮肉った作品と言えるでしょう。(アメリカ人の平均寿命は76才(2021年の時点)。先進国の中では驚くべき低さです)
そもそもライザ自身、鎮痛薬の営業にのめり込むきっかけになったのは、一人娘に良性の脳腫瘍が見つかったから。保険範囲で治療するには頭蓋骨を切るという危険で大がかりな手術を受けなくてはならず、身体に負担のかからない鼻から内視鏡を入れる手術は保険外で、莫大な費用がかかると医者に宣告されたからなのです。医者の診断は、「開頭手術は大変でしょうから、腫瘍がどの程度大きくなるか、ギリギリまで経過観察しましょう。腫瘍を大きくしないためにはおとなしくして、あまり運動しないように」。小学生の少女に向かって医者が言う言葉がコレですよ❗️……小さい頃からヲタクが憧れ続けたアメリカという国は、こんなに弱肉強食、貧しい人々に無慈悲な国だったのでしょうか❓️😭
あー、なんだかんだ言って、日本に生まれて良かったよ(笑)