桜木町駅前のシネコン「ブルグ13」にて、「私にふさわしいホテル」鑑賞。
時は1984年(昭和末期)。1度は出版社主催の新人賞を受賞したものの、文壇の大御所東十条宗典(滝藤賢一)からそのデビュー作を酷評されたため、それ以降は鳴かず飛ばず、新作発表の場さえ与えられない、今は作家もどき❓️になってしまった中島加代子(のん)。彼女の「小説を書く」ためのモチベは、かつて山口瞳が「文豪の為のホテル」と評した、神田の「山の上ホテル」に宿泊し、売れっ子作家を気取ること。そんなある日、「ホテルに缶詰めになって執筆する」作家に成り切るため山の上ホテルに宿泊しに来た加代子は、宿敵・東十条が「小説ばるす」特別号の原稿執筆のため、彼女のすぐ上の階のスィートルームに宿泊していることを知ります。加代子は大学時代の先輩であり、現在は東十条の担当編集者を務める遠藤(田中圭)から、もしこのまま東十条が締め切りに間に合わなければ、加代子がかつて遠藤の指導のもとに完成させた短編を採用してもよいとほのめかされ、早速東十条の執筆を妨害するため、ホテルの従業員になりすまして東十条の部屋に忍び込みますが⋯⋯。
売り出しのためには別人格を演じ、幾つものペンネームを使い分け、人によって態度もコロコロ変わる、自分の野望成就のためならなりふり構わず行動し、犯罪スレスレ行為も辞さない加代子というキャラ、よくよく考えるとトンでもない女なんだけど(お友だちにはなりたくないタイプ 笑)ひとたびのんが演じると、なんでこう爽やかな熱血青春モノみたいになるんだろう。前半にはあまりのぶっ飛び具合に口あんぐりだったヲタク、後半にはすっかり加代子⋯いやどちらかというと加代子を演じるのんの応援団になっててフレーフレー(笑)、じぶんでもビックリ🙀これこそまさに「のんマジック」か❗️❓️さすが希代のコメディエンヌ・のん、恐るべし。
堤幸彦監督作品だけあって脇役陣も超豪華、親子ほども年の違う新進作家(のん)にいいように振り回される大物作家役の滝藤賢一、ソフトな物腰に冷たい批評眼を隠し持つ編集者役・田中圭(のんのぶっ飛び演技と対照的な、抑制の効いた演技が光る)、カリスマ書店員・橋本愛(愛ちゃん、最高❗️)、銀座のママ役・田中みな実、天才高校生作家役の服部樹咲(「ミッドナイトスワン」)、東十条の妻役・若村麻由美など、日本映画界のトップランナーたちが、のんの自由闊達な演技を脇でガッチリ支えています。
しかし、映画中の登場人物の口から語られる昭和の文豪たち⋯⋯三島由紀夫、高見順、川端康成、池波正太郎、檀一雄等々の作品も、昭和が終わって30年以上を経た現在では次第に、人口に膾炙する機会も少なくなってきました。(「逍遥、四迷に鴎外、露伴…」とシャンパン振り回しながらの、のんによる「文豪コール」は作品中の名場面ですが)映画の中で度々登場する原稿用紙と、その上を走るカリカリという万年筆の音も、今は昔。舞台となった山の上ホテルも老朽化のため、今年(2024年)2月から休業を余儀なくされています。
ああ、昭和は遠くなりにけり
のんを筆頭に、芸達者な演者たちの軽快な演技に酔い、くすくす笑うその一方で、心がぎゅっと締め付けられるようなノスタルジックな気分になったのは、ヲタクだけでしょうか❓️
★今日の小ネタ…昭和の神田界隈
山の上ホテルのある神田は、日本でも有数の古本屋街。ヲタクは大学が四谷にあったので、急に講義が休講になったりしてぽっかり空白の時間が空くと神田まで足を伸ばして、映画専門の古本屋で立ち読みして(たまに買うこともありましたよ 笑)から、ラドリオっていう喫茶店で珈琲一杯で時間潰してました。そこは出版関係者のたまり場だったらしく、よく(週刊誌で顔を見かける)作家と編集者が、映画の中の加代子(のん)と遠藤(田中圭)みたいな喧々諤々の討論を繰り広げているのを見かけたことがあります(^_^;)