KINOシネマ横浜みなとみらいで「ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻」鑑賞。生涯に渡り、「世継ぎの男子」を産ませるためだけに6人もの妻を娶り、それが叶えられなければ即離婚、あるいは処刑を繰り返した、「史上最低のミソジニスト」(……とヲタクは思ってる^^;)ヘンリー8世(ジュード・ロウ)と、男子を産まなかったものの6人の中で唯一離婚も処刑も免れた彼の最後の妻、キャサリン・パー(アリシア・ヴィキャンデル)の虚虚実実の心理攻防戦をサスペンスタッチで描いた作品です。
この映画は、敬虔なプロテスタント信者であるキャサリンが、幼なじみのアン・アスキュー(エリン・ドハティ)の辻説法現場❓️を訪れる場面から始まります。その時期ヘンリー8世は、当初認めていた英語による聖書の出版を禁じ、自らが首長たる英国国教会の主教たちに、カトリックに倣ってラテン語による説教を命じるようになっていました。アスキューは「人と神の間に何人(なんぴと)も介在することがあってはならない」と、カトリックに逆行するかのようなヘンリー8世の態度を批判しており、アスキューの思想に賛同するキャサリンは、あろうことかヘンリー8世から贈られた首飾りを活動資金として密かに彼女に渡してしまいます。後々それが、彼女を窮地に追いやることになるのですが……。(キャサリンに異端の罪を着せようと画策する英国国教会の主教を、英国の名優サイモン・ラッセル=ビールが演じています)
※信仰心と友情で結ばれたキャサリン・パー(アリシア・ヴィキャンデル…左)とアン・アスキュー(エリン・ドハティ)。アスキューは貴族の身分でありながら人間の平等と信仰の自由を叫び、ヘンリー8世を批判したため異端の罪に問われ、拷問の末火炙りの刑に処せられます。25才の若さでした。
自身の熱烈な信仰心により、前妻たちが遺した子供たち…後のエリザベス1世やエドワード6世を我が子のように可愛がり、夫であるヘンリー8世を「善なる道」へと導こうとしていたキャサリン。(夫を罵るアスキューに対して、「それでも彼は私には手を上げたことはないのよ」などと弁護したりします)しかし、世の中そんなに甘くない(笑)ミソジニストは死ななきゃ直らない。……ってゆーか、敬虔な信仰心の持ち主である彼女と、根っからの快楽主義者であり俗物であるヘンリー8世とでは、そもそも交わる点が1つも無いわけです。……そして、キャサリンの不貞と裏切りを疑い始めたヘンリー8世は、じわじわとその本性を露呈し始めます。ジュード・ロウがまた小憎らしいくらい巧みに演じているので、もうゾッとするくらい怖くてしかもキモチワルイ(笑)
キャサリンが夫に真底絶望してからというもの、国王と王妃……というより、DVクズ夫と、これまで虐げられ続けて命の危険を感じ、ついに反撃に出た妻の壮絶なバトルが展開します。そしてラストのどんでん返し、ヲタクは思わず声が出そうになりましたよ。映画の冒頭、脚本を担当したヘンリエッタ&ジェシカ・アシュワースは「歴史は王と戦争のことばかり(書いている)。だから女性のことは想像を巡らすしかない」といきなり強烈な皮肉をカマしているので、もちろんフィクションだとは思いますが……。(歴史の本にはどこにも書いてないもんね、あんなこと 笑)
……というわけで、ヒロインのキャサリンを演じるのは、「強くて美しい女」を演じさせたらジェシカ・チャスティンと共に当代随一のアリシア・ヴィキャンデル(トゥームレイダー ファースト・ミッション)。以前彼女、「映画の中で強い女性が登場してもいつも1人(女性の共闘映画は殆ど無い)」と、ハリウッドに今も根強い男女格差を痛烈に批判してましたよね。今作のアノ場面は、そんな彼女の日頃の怨念大爆発❗️……と言ったところでしょうか。(ジェシカ・チャスティンが女性共闘映画「355」を自分が製作総指揮して作っちゃったのもひょっとしてアリシアの発言に触発されたのか❓️笑)
※熱烈たる信仰心、強靭な意志と知性で暴君・ヘンリー8世と渡り合うキャサリン・パー(アリシア・ヴィキャンデル)でしたが…。
そしてそして、ヒロインのキャサリンを追い詰める稀代の暴君、ヘンリー8世を演じるのはジュード・ロウ❗️ヲタクは昨年12月の東京コミコンで、スター・ウォーズのコスプレイヤーたちとニコニコ・ノリノリで、「ボクは日本文化が大好きさ❗️」と語ったり、撮影会やサイン会で神ファンサしてた「生ジュード」を見てるんで(素顔はホントにお茶目な人で、しかも親日家)、最初はかなり違和感あったけど、特殊メークでパット見誰か全くわからないビジュアルなんで、別人と割り切って見ることにした。チャーチルを演じたゲイリー・オールドマン、ドナルド・トランプを演じたセバスチャン・スタンと同じね。なんでイケメンの演技派って、わざわざせっかくの美貌をうっちゃるような役を演じたがるのかしら…。勿体ないわ(笑)
※天から授けられた美貌をナゼ壊したがるのか…(泣)上からジュード・ロウ(ヘンリー8世)、ゲイリー・オールドマン(チャーチル首相)、セバスチャン・スタン(ドナルド・トランプ)欧米では最近、歴史をフェミニズムの視点で捉え直す作品がトレンド。そうすると、セバスタみたいにプライベートではフェミニストなイケメン俳優も、クズ男を演じる羽目に…。まっ、彼らは(ここはボクの演技力の発揮どころ)とばかりにけっこうノリノリで演じてるけどね(笑)
実際のキャサリン・パーはヘンリー8世の死後、エドワード新王の摂政になれというヘンリー8世の遺言をさっさと反古にし^^;、長年の恋人だったトマス・シーモア(ヘンリー8世の妻だったジェーン・シーモアの兄……サム・ライリー)と即結婚して子を妊娠したという恋多き女のイメージが強いけど(トマス・シーモアをエリザベスと取り合った……なんて話もありますしね^^;)、結局はシーモアとの子を出産する時に産褥で亡くなっています。今作はそういったキャサリンの「女としての側面」には一切触れていないので、彼女をフェミニズムの史観から抜本的に捉え直す……という明確な意志を持って制作されたように思われます。
最近の歴史映画はリアリズム重視、画面は薄暗いし、馬上槍試合で負傷したヘンリー8世の悪臭を放つ脚の描写など、眼を背けたくなるシーンも多いので、ひと昔前の華やかな宮廷のコスチュームプレイを期待する向きには不向きな映画かも(^_^;)
★今日の小ネタ
①「ファイアーブランド」の意味
そのまま訳すと「教唆扇動する人」の意味。だとすると、実際その罪で火炙りの刑に処せられたアン・アスキューのこと❓️しかし、ヘンリー8世がああなっちゃったのもある意味(無意識に)主教に教唆されたせいとも言えるし、キャサリンはそのじつ、かなりトマス・シーモアに扇動されてるような気がするし…。
うーーん、よくわからん!(笑)
狩猟狂いで歌好きダンス好きなヘンリー8世は今で言うパリピ(笑)カタブツなキャサリンがそんな王の様子に顔をしかめる……という。ジュード・ロウがその美声で、ヘンリー8世が作曲したと言われている「Pastime with Good Company(良き仲間との気晴らし)」を歌う場面も出てきます。