オタクの迷宮

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メタミステリーの傑作〜WOWOW「ヨルガオ殺人事件」(全6話…ネタバレあり)


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 2年前にBBCで放映された「カササギ殺人事件」に引き続き、推理小説の敏腕女性編集者スーザン・ライランド(レスリー・マンヴィル)を主人公にしたミステリードラマ第2弾「ヨルガオ殺人事件」WOWOWで放映、待ってましたっっっ❗️

 

 8年前。とある英国の片田舎にある小さなホテル「ブランロウホール」で、麗らかな日差しの中、若い夫婦の結婚を祝うガーデンパーティが行われていました。新郎の感謝のスピーチが始まった時、真っ青な顔をしたホテルのメイドが飛び込んできて、「大変です❗️ホテルの部屋で男の人が殺されてる❗️」と叫びながら新婦に抱きつきます。彼女の純白のウェディングには真っ赤な血の後が…という衝撃のオープニング。

 

 場面は変わって現在。前作で、自ら担当しベストセラー作家に育て上げたアラン・コンウェイの不可解な死と彼の遺稿紛失事件を見事解決したスーザンは出版界から身を引き、恋人のギリシャアンドレアスが経営するホテルを手伝っていましたが、ホテルは老朽化、あちこち壊れるわ、給料未払でレストランのシェフには逃げられるわ……で悪戦苦闘。

 

 そんな中、トレハーン夫妻が英国からわざわざスーザンを訪ねてきて、「娘のセシリーが失踪した。あなたの責任でもあるのだから、探し出して欲しい。謝礼として1万ドル支払う」と、何とも突飛なオファーをしてきます。目を白黒させるスーザン。…実は冒頭、メイドの血塗られた手形をウェディングドレスにべったりつけられた不運な花嫁こそが夫妻の次女セシリーだったのです。8年前宿泊客だったフランク・パリスが殺害された事件は、当時ブランロウホールで働いていたルーマニア移民のステファンという男が犯人として捕らえられ、今も服役中でしたが、セシリーはアラン・コンウェイのミステリー「愚行の代償」を読み、「ステファンは犯人じゃない。真犯人は別にいる。『愚行の代償』を読んでハッキリした」というナゾの言葉を残して失踪してしまったのです。アラン・コンウェイは8年前スランプに陥っていましたが、以前被害者のフランク・パリスと面識があったことから事件に興味を持ち、トレハーン夫妻や娘のセシリーをはじめとして関係者たちに綿密な取材を行い、「愚行の代償」を書き上げた経緯がありました。トレハーン夫妻は、アラン・コンウェイとその作品を誰よりも理解しているスーザンに、「セシリーの視点に立って8年前の真犯人を探し出せば、自ずとセシリー失踪事件のナゾもとけるのでは……」と必死で頼み込むのでした。夫妻の熱意に負けて英国に戻ったスーザンですが、関係者の思惑と事件の虚と実は複雑に絡み合い、真相の解明は困難を極めて……❗️

 

 スーザンが手がける事件と、アラン・コンウェイが生み出した名探偵アティカス・ピュントが活躍するミステリー作品「愚行の代償」(ハリウッドの女優殺人事件)の謎解きが同時に進行するメタ・ミステリーの構成になっているのは第一作の「カササギ殺人事件」と同様ですが、「ヨルガオ〜」の構成のほうがより洗練されているような気がします。そして、英国の片田舎を舞台に展開するクローズドサークルミステリーであること、大勢の登場人物の複雑な愛憎関係、所謂「最も犯人らしくない人物が犯人」、Gold Diggerな色男登場、最後は名探偵(アティカス・ピュントとスーザン・ライランド)が容疑者全員を集めて推理を展開する、作中そこかしこに犯人を示唆するヒントが散りばめられている、アナグラムが効果的に使われている、ハーレクイン・ロマンス的展開……等など、アガサ・クリスティ・オマージュも前作より強めな気がします。

 

 犯人像や殺人の動機はクリスティ作品に度々登場するものなので、ヲタク的には最終話の冒頭でだいたい犯人は絞り込めましたが、ホロヴィッツはクリスティのかなり上を行っているので、メインストーリーと「愚行の代償」ともに、犯人が解明されてからもどんでん返しが待っているので、最後の最後まで気を抜かないで❗️(笑)

 

 レスリー・マンヴィル(スーザン役)やティム・マクマラン(アティカス・ピュント役)、コンリース・ヒル(アラン・コンウェイ役)をはじめとして英国演劇界の芸達者たちが勢ぞろい❗️特にこの3人を除く出演者たちは、メタ・ミステリー構造の中で、髪型を変えたりメーキャップに工夫を凝らしたりして二役を演じているので、「ひと粒で2度おいしい」(ふ、古い⁉️)グリコなタッチのミステリーでございます(笑)

 

★今日の小ネタ

アガサ・クリスティのトラウマ

(ここから先は犯人を示唆するネタバレが含まれていますので注意❗️)⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩

 生涯2人の夫を持ったアガサ・クリスティですが、両方とも幸せな結婚生活ではなかったようです。最初の夫との離婚は夫の不倫が原因で、ショックを受けたアガサは失踪事件(死ぬまで彼女はその真相を口にすることはありませんでしたが…)を起こしています。2番目の夫である考古学者はアガサの財産を調査に注ぎ込み、一方では調査旅行に連れ歩いていた助手を愛人にしていました。アガサの作品には、女性の財産を狙って結婚に持ち込み、不倫を繰り返す夫が繰り返し登場しますが、アガサ・クリスティほど才能にも富にも恵まれた女性であってもそのトラウマから生涯逃れられなかったんだな……とやり切れない気持ちがします。ホロヴィッツも当然その辺りの事情には精通しているのでしょう、「ヨルガオ殺人事件」にも男女の間に横たわる深い闇がストーリーの横糸として織り込まれています。

 

前作「カササギ殺人事件」のレビューはコチラ


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