U-NEXTにて、「Back To Black エイミーのすべて」観賞。1990年代から2000年代にロンドンから全米、そして世界のミュージックシーンを駆け抜け、27才の若さでこの世を去った稀代のディーヴァ、エイミー・ワインハウスの伝記映画です。
この映画を観るまで、エイミー・ワインハウスと言えばどうしても、あの摂食障害でガリガリに痩せ細った身体を過度に露出させてフラフラ街を歩く姿だとか、アルコール依存症で暴力事件を起こしただとか、「お騒がせセレブ」のスキャンダラスな印象が強くて……。ソウルフルでハスキーな歌声は唯一無二だと思うし、哀愁に満ちたレトロな曲調は個人的に大好きなんだけど、イマイチ彼女の私小説的な歌の世界には入り込めなかった。しかしこの作品を観て、彼女の曲は全て実体験から受けた心の傷を謳った、言わば彼女の魂の慟哭だと言うことがわかり、死後14年経って初めて、彼女の遺した曲の数々をじっくり聴いてみよう……という気持ちになりました。映画の力ってやっぱり凄い。ティモシー・シャラメがボブ・ディランを演じた「名もなき者」を観た後はしばらく、ディランをはじめ、ジョーン・バエズやピート・シーガー聴きまくったもんね(笑)今日からしばらく「Back To Black」漬けだな(^_^;)
※マネージャーとして娘をサポートし続けた父ミッチ(上…エディ・マーサン)と、エイミーの心の支えだった祖母シンシア(下…レスリー・マンヴィル)。シンシアを亡くしたエイミーは、ブレイクとの無軌道な恋愛にのめり込んでいきますが…。
作品の冒頭、ロニー・スコッツ・クラブで祖母のシンシア(レスリー・マンヴィル)や父親のミッチ(エディ・マーサン)と「Fly Me To The Moon 私を月まで連れてって」を歌うエイミー(マリサ・アベラ)。これが彼女の音楽のルーツとも呼ぶべきもので、祖母のシンシアは※1ロニー・スコッツの舞台に立ったこともある元ジャズ・シンガー、祖母を敬愛するエイミーは、※2カムデンタウン出身でありながら、ジャズやソウルミュージックに傾倒していくことになります。サイモン・フラーとエージェント契約をしてデビューが決まった時も、「私はスパイス・ガールズにはならないよ。憧れはサラ・ヴォーンだから」なんて言ってますしね。(サイモン・フラーはかつて、スパイス・ガールズのマネージャーだった)
彼女のあの独特のビーハイブ(蜂の巣)ヘアも、実は祖母の考案だった…ということが作品の中で明らかにされています。(シンシアはエイミーの髪をスタイリングし、「※3 ロネッツみたいでステキよ」と囁きます)
※1 ロンドンのソーホーにある、歴史あるジャズクラブ
※2 カムデンタウンと言えばメタラーの聖地で、独特なアートやヘヴィメタ系の店で溢れた街なんですよね。たぶんジャズファンは少数派^^;
※3 1960年代、アメリカで活躍したガールズグループ。ちなみに彼女たちの「Be My Baby」、ヲタク最近やっとJoy Soundで90点超えましたっ❗️……関係ないけど 笑
※エイミーのビーハイブヘアの元祖、ロネッツ。ヘアスタイルだけでなく、キャットアイメイクも彼女たちへのオマージュを感じさせます。
この映画は、エイミーが19才の時に知り合い、彼女の念願叶って24才で結婚したものの、2年で破局を迎えた相手ブレイク・フィールダー・シビル(ジャック・オコンネル)との壮絶な関係を中心に描かれています。生まれ故郷カムデンタウンの「ロック・スピリット」に馴染めなかったエイミーは、「古いものが好き、トルーマン・カポーティやチャールズ・ブコウスキーは最高」と嘯きジュークボックスでシャングリラスの「Leader of the Pack」をかけては踊りまくるブレイクに、「彼とは凄く趣味がピッタリくるの」と、たちまち恋に落ちてしまいます。ブレイクはジャンキーなんですが、「ヤクはやらない、ハッパだけ」というエイミーに「ロックな女だからヤクはやると思った」って……(^_^;)ブレイクと言えば、エイミーを薬漬けにしてアルコール依存症にしたクズ中のクズ…みたいに巷間言われてますけど、エイミーの稼ぎを当てにしていた様子はないし(むしろ世間からヒモ扱いされるのに反発していた)、「俺たちは共依存が過ぎるから一緒にいたらよくない。お前はお前にふさわしいセレブと付き合え」と言って離婚を切り出す等、彼は彼なりにエイミーとの関係を真剣に考えてはいたのかな……と思います。(そうとでも考えなきゃ、エイミーが可哀想すぎる 泣)
大麻を除く薬物には拒否反応を示していたエイミーですが、アルコールとは生涯縁が切れませんでした。19才でブレイクと出逢った時エイミーがバーで飲んでいたのがリクスタシー(Rixtacy)。サザンカンフォート1、ウォッカ3、アイリッシュクリーム1、バナナリキュール1というめっちゃ強いカクテルで、彼女がいかに未成年時代からアルコールに依存していたかがわろうと言うものです。
※クズ夫の代表みたいに言われてるブレイク・シビル・フィールダーですが、演じているのがセクシー・ボム、ジャック・オコンネル(Netflix「チャタレイ夫人の恋人」)なんで、エイミーの気持ちもわかる❗️(笑)
まあしかし、ブレイクの元カノを「Fuck me pumps」の中で
バーに来る女たち
スター気取りのファッションで
「ヤってよ」パンプスを履きながら
男たちも全員グッチのバッグの一団に気づくけど
誰が目当てかわからない
と、「ワナビー」女になぞらえてコキ下ろし、
ブレイクとの別れを
あなたは昔のあなたに帰ってく
私たちが積み上げたものなんてまるでなかったかのように
だから厄介な歌をこうやって書いたの
勝算もないから、私は闇に帰ってく事にする
と「Back to Black」の中で魂を振り絞るかのように歌い上げたエイミーにとって、ブレイクは最高のミューズだったことに違いありません。……そして彼との別れから立ち直ろうとすることはすなわち、創作の神から見放されることに他ならなかったのです。
人生に疲れている人が私の歌を聴く5分の間だけでも悩みを忘れほしい
と生前語ったというエイミー。パパラッチには怒号を浴びせても、ファンがロンドンのカムデンタウンにある彼女の自宅の呼び鈴を鳴らすと、必ずといっていいほど外に出て来て、気さくにサインに応じるという神ファンサで知られていたそうです。
……だから今夜は彼女の、甘くほろ苦く、哀愁に満ちたジャジーな歌声に耳を傾けてみよう。短すぎる人生を偲びながら。
★これからもっとキテ欲しいジャック・オコンネル
⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩⇩