オタクの迷宮

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ミステリーを超えて世界の「今」へ〜「教皇選挙」

 
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 KINOシネマ横浜みなとみらいにて、「教皇選挙」観賞。

 

 カトリック教皇が逝去すると同時に世界中から枢機卿が集められ、バチカン市国のシスティナ礼拝堂で実施されるコンクラーベ教皇選挙)。全員の3分の2の得票数を得て新たな教皇が誕生するまでは完全に外部との接触を断たれ、幾度となく投票が行なわれるという「完全なる密室」の世界。この映画は、そのアンタッチャブルな聖域を初めて白日の元に晒したとも言えるフィクションとなっています。

 

 主人公はコンクラーベを取り仕切る首席枢機卿枢機卿団議長)のローレンス枢機卿レイフ・ファインズ)。彼は選挙開始に伴い、「真の信仰は「確信」と対極にある。新教皇は疑念を持って歩むべき」と発言、物議を醸します。当初は数人の候補者がいましたが、それこそ「疑り深く」そして何よりも選挙の正当性を重んじる彼は、探偵よろしく候補者たちが教皇となる器か否かを調査し始めます。結果、若き日の性的スキャンダルが発覚した者、自らが優位に立つために他の枢機卿たちに賄賂を贈り、それが発覚した者……と脱落者が続出、皮肉にも「教皇選挙を巡る争いには参加したくない。何かあれば首席枢機卿も降りる覚悟だ」と常々語っていたローレンス自身が主たる候補者に祭り上げられていきますが……。

 

 一見、コンクラーベを舞台にしたクローズド・ミステリーであるかのように見えますが、果たしてこの一連の「事件」の首謀者が誰であったのかは最後までナゾのまま。政治家も真っ青の策略家で、チェスでも八手先を読むと言われた前教皇のなせる業…だったのか、それとも全能の神の御業❓️

 

 ライバルたちが脱落していくにつれ、次第に野心が目覚めたローレンスが自らの名前を書いて投票しようとしたその瞬間、世界で同時多発テロが起き、それはバチカン市国も例外ではなく、システィナ礼拝堂の天井が崩落してしまいます。それをきっかけに多様性を認めるリベラル派と排他主義派の争いが勃発、それを諫めるために立ち上がったある枢機卿教皇に選ばれる……という劇的な展開となります。

 

 ……しかしこの作品が最も訴えたかったのは最後のどんでん返し、つまり新教皇が抱える「大いなる秘密」の種明かしにあると言っても過言ではないと言えるでしょう。その「秘密」を抱えながら新教皇に立つ彼、そしてその「秘密」を知りながら、信者14億人とも言われるカトリック教会の未来を彼に託そうとした前教皇……。二人とも、教皇の座を狙って抗争を繰り返す野心家たちとは明確に一線を画す場所に始めから居ました。結局は神の見えざる手により、最も教皇職に相応しい者が「漁師の指輪」をはめるのだ……という暗示をもってこの映画は締めくくられるのです。カトリック教会がこれから、世界が抱える様々な問題に向き合っていくにはどうしたらよいのか。ミステリーの枠を遥かに超えて、深いテーマを提示したラストだったと思います。


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※脇役もクセモノの名優揃い。上から、蝸牛角上の争いを繰り返す男たちを尻目に自らの役割を粛々とこなすシスター・アグネス(イザベラ・ロッセリーニ)、強硬な排他主義者テデスコ(セルジオ・カステリット)、汚職まみれのトランブレ(ジョン・リスゴー)、リベラル派のベリーニ(スタンリー・トゥッチ)。

 

 この作品の演技により、本年度のアカデミー主演男優賞にノミネートされたレイフ・ファインズ。新教皇が決まった瞬間の彼の曰く言い難い絶妙な表情を見逃さないで❗️ヲタクが今まで見た中で1、2を争う名演技です。彼の他にも、内側から人間性が滲み出るかのような抑制の利いた演技でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたイザベラ・ロッセリーニジョン・リスゴースタンリー・トゥッチらがガッチリ脇を固め、その演技アンサンブルもお見事❗️