オタクの迷宮

海外記事を元ネタにエンタメ情報を発信したり、映画・舞台・ライブの感想、推し活のつれづれなどを呟く気ままなブログ。

トキシック・マスキュリニティは変えられる❓️〜「エミリア・ペレス」


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 桜木町駅前のシネコン「ブルグ13」にて、「エミリア・ペレス」観賞。今日は雨に濡れそぼっていたみなとみらい。まさに映画日和でございました。ブルグ13はファーストデーでおトクだったし。

 

 「エミリア・ペレス」の舞台はメキシコ・シティ。法学博士号を持つ女性弁護士リタ・モラ・カストロゾーイ・サルダナ)は、妻をDVの末に殺害したとして起訴された富豪の夫の弁護陳述の準備に追われていました。全ての準備を整えたのは自分なのに、上司の弁護士は陳述を読み間違える体たらく。無罪を勝ち取って取材陣のフラッシュを浴びるのは男性である上司と富豪だけ。彼らがインタビューを受けている間、リタは突然生理になってトイレに駆け込む……という皮肉なオープニング。

 

 リタはEl Alegatoでこの富豪夫婦の事件を「今日私たちが語るのはある夫婦の話/暴力の話/愛と死の話/病んだ国の話」と歌い踊りますが、作品を観終わってから考えると、これが実は全編を貫く大きなテーマになっているのに気付かされます。汚職収賄に満ちた国で、正義を正義として貫けない生き方、女性であるがゆえに安い賃金でこき使われる人生に辟易していたリタは、トイレにいる時にかかってきたナゾの電話〜「リッチになりたいなら良い仕事がある、新聞スタンドへ来い」にうっかり応答しまいます。出向いたスタンドの前でリタは頭から袋を被せられ、車で拉致されてしまいます。連れ去られた先で恐怖に怯えるリタを待っていたのは、メキシコ全土にその悪名を轟かせている麻薬王、マニタス・デル・モンテ(カルラ・ソフィア・ガスコン)でした。彼は幼少期から性適応障害に悩んでいたこと、麻薬王として重ねた悪事にも烈しく後悔しており、女性になって身分を替え、全くの別人として生まれ変わりたい、その為の手助けをして欲しいと、リタに驚くような依頼をしてきますが……。

 

 まずもってマニタスとタイトル・ロールの2役を演じ切ったカルラ・ソフィア・ガスコンが素晴らしい❗️悪徳に塗れた「前世」の自分から生まれ変わったと信じて疑わないエミリアは贖罪のつもりで、麻薬取引やマフィア抗争の犠牲になった行方不明者の追跡にのめり込み、市民たちから「時のヒロイン」に祭り上げられていきます。しかし結局、エミリアのマニピュレータ的な気質〜周囲の人間を強権で捻じ伏せ、思いのままに繰りたい〜(……言わば、トキシック・マスキュリニティ:有害な男らしさってヤツですね)は変わっておらず、それが後々の凄惨な悲劇に繋がっていくのです。彼女の性転換手術を手掛けた医師ワッセルマンの言葉「身体をいくら変えても女になれるかは心次第、整形手術をするのではなくIDを変えなさい」がラスト、哀しいリフレインとなって響いてくる演出。ヒロインを演じたカルラ・ソフィア・ガスコンは、1人の人間の内側にある、エミリアとマニタスという相反する属性のせめぎ合いをその声音や表情の変化だけで表現してみせてお見事。彼女、過去の差別的発言が炎上してアカデミー賞レースからは脱落してしまいましたが、勿体なかったなぁ……。演技とプライベートは切り離して判断して欲しいよね。犯罪犯したならともかくさ。

 

 そして、エミリアと性差を越えた友情を育んでいく弁護士リタを演じ、見事アカデミー助演女優賞を受賞したゾーイ・サルダナ。ヲタク的には彼女といえば「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズや「アバター」の特殊メーク姿しか見たことなかったから、仕事にも女性としての生き方にも行き詰まり、突破口を探してもがく40才のリタ役を等身大に演じていてとても新鮮だったし、共感を覚えました。マニタスの妻ジェシー役を演じたセレーナ・ゴメスも良かったなぁ……。考えたらさ、登場する女性キャラの中でジェシーが1番可哀想なのよ。10代の頃から、マニタスによって愛という美名の下に支配され、スイスで子どもたちと一緒に自由に暮らしていたと思ったらメキシコに連れ戻され、素性を隠したエミリアにまた再び支配される……っていう(;^ω^)ジェシーは「自分は黄金の檻の中にいる」と嘆き、「傷ついてもいい、私の体だから。崖から落ちてもいい、私の崖だから」と自由への願望を歌い上げますが、解放されるためには傷つかなきゃいけない、崖から落ちなきゃいけない女性の人生って一体何なの……。


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ゾーイ・サルダナ(左)とセレーナ・ゴメス(右)の歌とダンスは必見❗️

 

 この作品はまさに「女性による女性のための女性の映画」(監督は男性だけど 笑)だと言えるでしょう。一般の男性が見てもピンと来ないかも……。「良い映画だったよ」っていう男性がいたら、お友だちになりたいもんですわ(笑)

 

★今日の小ネタ…メキシコという国


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※「行方不明になった家族を探して欲しい」と訴えかける市民たち。

 

 リタが作品の冒頭で「病んだ国」と歌い上げたメキシコ。しかしまあ、行方不明者や強制失踪者が12万人……って。恐ろしや。ヲタクは9年前、メキシコとの国境近くにあるサンディエゴに赴任中だった長女ファミリーを訪ねて2週間ほど滞在したことがあるのですが、何しろサンディエゴ市内の道路ではメキシコナンバー(多くは不法滞在者)の危険運転(急な割り込み、追い越し、速度違反)が酷くて……。長女はすっかり運転恐怖症になってセカンドカーが運転できず、移動はもっぱらタクシーを利用してました。タクシーの運転手さんも「メキシコナンバーを見たらすぐ避ける」って言ってたしね。観光は現地のHISにお願いしたけど、ガイドさんが「昔はティファナ等メキシコの町々に国境を超えて観光ツァーを実施していましたが、最近は麻薬カルテルの犯罪が多発しているのでおススメできません」って言ってました。当時から既に、麻薬組織同士の縄張り争い、さらに麻薬密売の取締を推進するメキシコ政府との間で武力紛争(すなわち麻薬戦争)が勃発していましたから……。(2025年現在も継続中らしい)

その後トランプ大統領がメキシコとの国境に壁を作る……なんて発言して世界中から顰蹙を買ったけど、ヲタクは一概に彼を非難できないと思ったわ(小声)