「KINOシネマ横浜みなとみらい」にて、「ゲッベルス ヒットラーをプロデュースした男」観賞。ナチス政権下では、「国民啓蒙・宣伝大臣」という特異な役職に就き、「史上最悪のデマゴーグ」と呼ばれた独裁者ヒットラーを陰で支えたと言われるパウル・ヨーゼフ・ゲッベルスの生涯を追った作品。
ヒットラーによるオーストリア併合時、ベルリンの町中をハーケンクロイツで埋め尽くし、学校も商店も企業も閉鎖させて市民全員を集め、ヒットラーの凱旋を歓迎させるド派手な演出で熱狂の渦を巻き起こしたゲッベルスはヒットラーの絶大なる信頼を得、ヒットラーの片腕に上り詰めて行きます。ユダヤ人の17才の少年がドイツ人外交官を襲撃した事件を繰り返し報道させて国民間のユダヤ人嫌悪を煽り、また、ポーランド軍との衝突によってポーランドとドイツ双方に市民の犠牲者が出た時も、ドイツ人犠牲者を実数の10倍とメディアに報道させてポーランド・ビドゴシチの住民殺害事件を正当化するなど、徹底したヒットラーの神格化演出とメディアの完全掌握により、ヒットラーと二人三脚で「第三帝国」建設の野望を着々と実行していきますが……。
まず冒頭、ゲッベルスに殺害された5人の子どもたちの遺体が映し出され、その凄惨さに眼を背けたくなります。（ゲッベルスはヒトラーが拳銃自殺を遂げた後、妻マグダと5人の子どもたちを殺害、その後自死しました）意外なことにヒトラーの腹心の部下たちのうち、ヒトラーを追って殉死したのはこのゲッベルスのみ。（SSのアイヒマンや、「死の天使」メンゲレはナチスが劣勢と見るやあらゆるツテを辿って国外逃亡したし、リッベントロップやローゼンベルグは戦犯としてニュールンベルグ裁判にかけられた）たぶん心理学的に言えば、ゲッベルスはヒトラーに対して「同一化現象」（自分にない優れた能力や名声を持つ他者を真似て自分を近づけることで自分自身の価値を高めたり、劣等感やコンプレックスから逃れようとする心理状態）を起こしていて、ヒトラーの死はすなわち彼自身の死を意味していたのでしょう。
作品には多数の当時の映像（中には未発表のものも含まれているそうですが、）が挿入されており、まるでドキュメンタリーを観ているような錯覚に陥る場面も。その中の殆どがアウシュビッツ等強制収容所の処刑場面や、積み上げられた遺体の山等、所謂「閲覧注意」の映像や写真なのでご注意下さい。かく言うヲタクも、気分が悪くなる一歩手前でした……(T_T)
劇中人物の会話も、できる限り現存する資料を元に再現したそうですが、中でもヒットラーとヒムラーとの会話で、「ユダヤ人は害虫と同じ。効率的に駆除出来ないものか」と尋ねるヒットラーに、ヒムラーがガス室を提案する場面は、２人が淡々と語っているだけになおさら恐ろしくて気味が悪くて、観ていて震えが止まりません。そしてゲッベルス自身のスポーツ宮殿におけるあの有名な扇動演説（1943年）……最後の「諸君は総力戦を求めるか！？ドイツ国民よ立ち上がれ、嵐を起こせ！！」に対し、「我々は総統に従います！！」と拳を突き上げながら狂ったように叫ぶドイツ国民の姿にも。
ヒトラーやゲッベルスが存在したのは、もう80年も前のことなのだけれど、彼らの所業が過去の遺物であるとは決して言えないことを私たちは知っている。特にヲタクは、あのドナルド・トランプを創り上げた立役者、辣腕弁護士ロイ・コーンと若き日のトランプを描いた映画「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」を観たばかりだから、ロイ・コーンによる他者を洗脳する手法〜自己肯定感の低い、自己確立の不十分な人々が抱える不安感を煽り、洗脳していくやり口がゲッベルスのそれとそっくりなことに気付いて、戦慄せざるを得ませんでした。ロイ・コーンは「惨めな２代目」と言われ、自信喪失していたトランプを洗脳してモンスターに育て上げ、トランプは今度は同じ手法で民衆をデマゴーグし、自らの思い通りにマニピュレートしようとしている……と言うわけです。
終戦から80年。今も世界はゲッベルス(煽動者)で溢れ、我々は操られているー。
ヒューマントラストグループによるこの作品のキャッチコピーが全てを物語ります。
不景気で将来が見えず、一般大衆が不安を抱えている時代ほど、独裁者が誕生しやすいと言われています。「俺の言う通りにすれば、絶対上手くいく」と扇動され、狂ったように「ハイル、ヒットラー❗️」と拳を振り続けた民衆たち。何が真実で、何がフェイクなのか。真実に目を背け、自分に都合の良いフェイクを信じ込もうとしていないか❓️私たちは常に自問自答していかなくてはなりません。ヒットラーやゲッベルスのような怪物たちを２度と世に送り出さないためにも。
