「驚くべき映画体験」と、最愛の推しが言ったから。観に行ってきたよセバスチャン、「ガール・ウィズ・ニードル」(デンマーク)桜木町駅前のシネコンブルグ13へ。
セバちゃんが言うように、まさに……驚き…というか衝撃の映画体験。しかもこれが実話だなんて。観終わっても、小刻みな震えが止まらない。会場が明るくなっても、しばらく席を立てなかった。
第一次世界大戦後の混乱の中、子供を出産したものの貧困その他の理由で育てられない女性に対して「里親を見つけてあげる」と言って、生まれたばかりの乳児35人を殺害したというダウマという女性の事件を題材にしたもの。福祉天国、世界でも有数の国民の幸福度を誇るデンマークで、僅か100年前にこのような凄惨な事件が起きていたとは……。
本作のヒロイン、カロリーネ(ヴィク・カーメン・ソネ)は、第一次世界大戦に出征した夫が戦地で行方不明となり、死亡認定がされない為に戦死者の寡婦年金も支給されず、縫製工場の日雇いで僅かな金を稼ぎ、爪に火をともすような毎日を送っていました。そんな中、工場長を務める男爵家の跡取りと恋愛関係となり、妊娠するも、工場長の母親に猛反対され、工場も解雇されてしまうカロリーネ。お腹にいる赤ちゃんの父親はなんと、「ごめんなさい。軽い気持ちだったんだ、別れてくれ」とメソメソ泣くばかり。絶望の中、公衆浴場で無理矢理流産しようと鉄の棒を手に取ったカロリーネでしたが、失敗に終わり(この場面、特に女性は要注意。ヲタクはフランス映画「あのこと。」を観た時に本当に下腹部に痛みを感じた疑似体験を思い出した 泣)、出血して痛みにうめく彼女に、菓子店を経営しているというダウマという中年女性が優しく声をかけてきます。「子どもが生まれたら、私のところへ連れて来なさい。金持ちの養子先を探してあげるから」闇の中で一筋の光を見つけたように顔を輝かせるカロリーネ。その先に、耐え難い地獄の日々が待っているとも知らずに。
映画を観続けるうち、工場長のだらしないクズっぷりを筆頭に、赤ちゃんをダウマの菓子店に連れてくる悲痛な母親たちの陰に隠れて顔が見えない、あまたの男たちに対して沸々と怒りが湧き怒ってきます。聖母マリアじゃあるまいし、いたいけな赤ちゃんたちには父親が必ずいるんでしょう❓️若い母親たちが、生まれたばかりでお乳が足りずに掠れた声で泣き叫ぶ乳児を抱きしめ、自らも血の涙を流しながら街を徘徊する間、その子の父親はどこでどうしているの❓️工場長みたいに「ぼくちん軽い気持ちでいたしちゃったんだよねー。失敗だったよ、しくしく」ってママのスカートの陰に隠れてメソメソしてるの❓️
映画のラスト近く、被告人席に立って「こんな社会で、どの母親がまともに子どもたちを育てられるっていうんだよ❓️私はあの子たちを助けてやったんだ。表彰されてもいいくらいだ」と叫ぶダウマ。もちろん彼女が犯した大罪は赦される余地のないものだということはわかってる。さりとてヲタクは彼女に対して、当時の街の人々がしたように、鬼畜よ人非人よと石を投げつけることも出来ないのです。……これは100年前、ヨーロッパの片隅で起きた、過去の事件ではない。長く続く戦禍の中で、独裁政権が引き起こした構造的な貧困の下で、生まれた子どもに母乳をやることもできない、絶望的な眼差しをした若い母親たちが、世界のここかしこにまだ大勢居るはず。
胸が締め付けられるような、観終わった後に暗澹たる気持ちになるような作品でしたが、救われたのは観客席の8割がたが大学生と覚しき若い人たちだったこと。中にはカップルも居ましたね。こういう作品を観て、ああいう若い世代が、いのちの大切さや子育てについて、新しい命を送り出すためにより良い社会を築くことの重要性を知ってくれたら……。
日本もまだまだ捨てたもんじゃないゾ。……そんな想いを胸に、映画館を後にしたヲタクでした❗️