オタクの迷宮

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色悪と伝法肌〜藤原竜也✕土屋太鳳「マクベス」彩の国さいたま芸術劇場

 
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 やって来ました❗️横浜の田舎町から彩の国さいたま芸術劇場へ。ヲタクにとって、思えば10年ぶりのこの劇場、忘れもしません、故・蜷川幸雄演出の「ジュリアス・シーザー」以来(蜷川さんが亡くなる2年前)。今回マクベスを演じる藤原竜也はその時アントニウスを演じ、吉田鋼太郎がキャシアス、そしてジュリアス・シーザー横田栄司でした。日本のシェイクスピア劇には不可欠な役者、横田さん。ナレーターとしては復帰されたようだけど、舞台はまだムリなのかな……。「マクベス」のバンクォー役なんて横田さんのための役のような気がするけど。横田さんの、よく声の通る、滑舌の良い台詞回しが聴きたい。吉田鋼太郎藤原竜也横田栄司の黄金の3ショットが見たいの。


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※ヲタクはこの劇場の、美術館のような静謐な雰囲気が大好きです。

 

 

 シェイクスピアって不思議な作家で、懐が深いというかカオスというか思想が無いというか、演出家や演者、さらには観客に「こういう風に解釈してくれ」ってメッセージが何も無い感じ。シェイクスピアその人も作品群も、全てが大いなる謎なのです。ストーリーもテーマもいかようにも解釈できるし、キャラ造型も自由自在。だから井上ひさしも「天保十二年のシェイクスピア」なんて壮大なパロディ作品が作れた。今までヲタクが観た「マクベス」を振り返ってみても、2015年の映画(主演/マイケル・ファスベンダーマリオン・コティヤール)、2021年の映画(主演/デンゼル・ワシントンフランシス・マクドーマンド)、御大・蜷川幸雄の「NINAGAWAマクベス」(主演/市川正親✕田中裕子)、2024年ロンドンの舞台(主演/デヴィッド・テナント✕クシュ・ジャンボ)……と、これホントに同じ戯曲を演じているのかと疑いたくなるほど多種多彩な作品群となっています。

 

 ……だからヲタクはシェイクスピア作品を観る時は、あたかもじぶんが不思議の国に迷い込んだアリスみたいな気分になる。今日シェイクスピアは、そしてシェイクスピアに魅入られた演出家やあまたの演者たちは、果たして私たち観客をどんなワンダーランドに招き入れてくれるのか❓️さあ、お手並み拝見❗️

 

 1階の前から10番目の良席でラッキー❗️おまけに1番通路側の席で、蜷川スタイルを踏襲して演者たちも神出鬼没、あらゆるドアから出てきて客席を縦横無尽に走り回るから、藤原竜也のマントがその度に顔を掠めてうしし(←バカ 笑)そう言えば、市村正親さん親子がヲタクのナナメ前に座ってらしたわ。お父様がパンフを指さして熱心に説明されているのを、ニコニコ聞いてる息子さんが可愛かった。それにしても息子さん、お茶碗くらいしかない小顔でスラリとした長身。新人類出現だよね……。

 

閑話休題

 

 さて、「マクベス」を語る前に押さえておきたい事柄は、エリザベス朝時代(16世紀)のイングランド、いわば都会っ子の文化人だったシェイクスピアにとって「マクベス」の舞台となる中世(11世紀)のスコットランドは、禍々しい呪術が跋扈し、無論キリスト教の宗教観や近代的な倫理観など役立たずの、血で血を洗う未開の土地……というイメージだったであろうということ。言わば、現代人の私たちがロバート・エガース監督の「ノースマン 選ばれし復讐者」を見て、あまりの血生臭さに卒倒しそうになるようなもん(笑)「マクベス」にも、反乱分子マクダフの妻子を、乳幼児に至るまで殺害する凄惨な場面が出てきます。近代人の私たちから見ればなんて極悪非道…と身震いしますが、敵対する王族や反乱分子の子孫は根絶やしにしないと必ず復讐され、将来王位を簒奪される恐れがあるため、中世ヨーロッパではそれが普通だったんですよね。……なのでシェイクスピアマクベスを、後世私たちが思うような残虐非道な人物として描いてはいないんじゃないか…とヲタクは思う。

 

 マクベスマクベス夫人もね、本来は手を汚さずに望むものが手に入る特権階級で、お坊ちゃまとお嬢ちゃまなわけです。シェイクスピアの一連の史劇を観てみれば、英国の王位を巡る争いがいかに血塗られたものだったかがわかろうと言うものですが、マクベス夫妻は天から与えられた特権に満足せずさらなる野心を抱き、不用意にもその手を名君の血で穢してしまいます。大罪を隠すために次々とさらなる殺人を犯し、錯乱の末身も心も破滅へとひた走る悲劇。

 

 ヲタク的にはマクベス夫妻って、まるで「裏ロミジュリ」に見えてしかたないの。マクベス夫妻は身の程知らずの野心のためにスコットランドの荒野で、そしてロミジュリは熱に浮かされた一時の恋煩いのためにイタリアはヴェローナで身を滅ぼしていくのです。……若者たちが一時の気の迷いから暴走し、自ら滅んでいくのは、分別ある年寄りからすれば愚かなことかもしれない。でもだからこそ、その脆さ儚さ、滅亡していくその一瞬の光芒は、抗えない魅力に満ちている。

 

 そういう意味では、それこそロミオや「天保十二年のシェイクスピア」のきじるしの王次、ハムレットを当り役とする藤原竜也は、マクベスにぴったりだと思う。しかも歌舞伎の、特に鶴屋南北が描く「色悪」の愛嬌、ユーモアを滲ませて秀逸。ワルなのに憎めない、こんな母性本能掻き立てるマクベス、初めてかも(笑)そして土屋太鳳。意外にもドンピシャだった。「NINAGAWAマクベス」田中裕子の妖艶な悪女っぷり、あるいは儚げな妖精のように女の弱さを武器にマクベスを絡め取るマリオン・コティヤール、はたまた強権で弱気な夫を捻じ伏せるフランシス・マクドーマンドやクシュ・ジャンボとはまたひと味違う、伝法な姐御肌のマクベス夫人。歌舞伎に出てくる「切られお富」とか、「土手のお六」みたいな……ね❓️(笑)シェイクスピアはキャラ造型も自由自在、演出家のさじ加減1つで「遊べる」戯曲なんで、今回のマクベス夫人も大いにアリだと思いました。

 
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※破滅へとひた走る2人……藤原竜也と土屋太鳳。

 

 

 そしてそして特筆すべきは、吉田鋼太郎、海津義孝、稲荷卓央による3人の魔女❗️禍々しくて下品で猥雑で可愛らしくて最高(笑)意表を突かれましたね。3人が、狂言回しの道化のような役割を担っているんです。上で述べたように、エリザベス朝のスコットランドと言えば、魑魅魍魎が跋扈する未開の地。そんな世界を具現できるのは、やはり超アングラな人たち……寺山組の海津義孝、唐組の稲荷卓央❗️ヲタク個人的に篠井英介毛皮のマリー✕海津さんの下男コンビがゾクゾクするほど好きだったし(美輪さんよりね……小声)、稲荷卓央には来月スズナリの「少女仮面」でまた会えるグッドタイミング。この蠱惑のトリックスター・トリオを形成した演出家・吉田鋼太郎の慧眼に脱帽です。


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マクベスと3人の魔女。左から稲荷卓央吉田鋼太郎、(藤原竜也をおいて)海津義孝。お面つけずに素顔で良かったのに。みんな可愛いんだから(笑)

 

 蜷川さんが亡くなってからずっと藤原竜也の舞台観ていなかったんだけど(ヲタクは蜷川さんの薫陶を受けた舞台人・藤原竜也が好きだったの^^;)でも今年に入ってファンクラブにも再入会したことだし、「マクベス」観てフジタツ熱再燃しちゃったので、これからまた彼の舞台追っかけるかも。でもアレね、フジタツアントニウス(「ジュリアス・シーザー」)みたいな小賢しい謀略を張り巡らすちっちゃい男より、パッと咲いて花と散る、侠気のある桜みたいな役のほうがやっぱり似合う。個人的にフジタツの華麗な殺陣が大好きなので、合戦場面が多かったのは嬉しかったワ。鋼太郎さん、わかってらっしゃる(笑)

 

★今日の小ネタ…やっぱりコンプラなのね。

3人の魔女のセリフ、「綺麗は汚い、汚いは綺麗」はイマドキやっぱり「良いは悪い、悪いは良い」になっちゃうのよね……。また、魔女のお告げ……「女の股から生まれた者は何人もマクベスを倒せない」を鵜呑みにして安心するマクベスですが、ラスト、マクベスの首を取るマクダフは帝王切開で産まれていた(つまり、股を通っていない^^;)……ってオチがあるんだけど、「股」って言葉は使えないらしくって「女から生まれた者」に直されてるから、どうも最後のオチにパンチが効かない。シェイクスピアの戯曲って、その猥雑で下卑た言葉遣いと、一方では宝石のような詩的表現の対比が面白いと思うんだけど。