オタクの迷宮

海外記事を元ネタにエンタメ情報を発信したり、映画・舞台・ライブの感想、推し活のつれづれなどを呟く気ままなブログ。

女は誰でも秘密を持っている〜「秋が来るとき」(フランソワ・オゾン監督)


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 「KINOシネマみなとみらい」にて、フランソワ・オゾン監督の最新作「秋が来るとき」観賞。ヲタクは今年3月に開催された「横浜フランス映画祭」で本作品上映会の申し込みをしたものの抽選に見事に外れ、涙を呑んだ痛恨の1作でございます。(オゾン監督は来日してトークショウに出席)今年のフランス映画祭はくじ運なかったなぁ…。舞台挨拶付きの上映、応募した5作品中当選したのは「キャッツ・アイ」1作のみ。例年にも増してヲタクのくじ運がなかったのか、はたまた映画祭の知名度が爆上がりで倍率が凄いことになっていたのか……。

 

閑話休題

 

 今年80才を迎えたミシェル(エレーヌ・バンサン)。 それまで暮していたパリの喧騒を離れ、自然豊かな田舎で余生を送ろうと、緑溢れるブルゴーニュで一人暮らしをしています。 秋の休暇を利用して訪れた娘と孫に、自然を生かした食事をご馳走しようと腕を振るったキノコ料理。しかしそんなミシェルの心尽くしも、娘のヴァレリーリュディヴィーヌ・サニエ)が食中毒で病院に運び込まれたことをきっかけに全てが水の泡に。ヴァレリーは母親に叫びます。「私を殺そうとしたでしょ❗️」娘の言葉に息を呑むミシェル。そしてヴァレリーはパリの自宅に戻った直後、謎の死を遂げるのです。

 

 衝撃的なオープニングからヴァレリーの不審死を経て、登場人物の過去や愛憎関係が少しずつ明らかにされ、ミステリータッチで物語は進行していきます。果たしてミシェルは娘に対して一瞬でも殺意を抱いたのか?ヴァレリーの死は自殺?事故?それとも……。ミシェルと親友の息子ヴァンサン(ピエール・ロタン)の本当の関係は?ミシェルが溺愛する孫のルカがヴァンサンに寄せる感情は?……ナゾはナゾを呼び、しかも肝心な部分(ミステリーだとすれば謎解き部分)は他のオゾン監督の作品群と同様明確には呈示されず、私たち観客が想像力を働かせて(自分独自の)結論を導き出す他ありません。「スイミングプール」のように、実際に起きた事実なのか妄想の産物なのかはっきりしない場面も多々ありますし。


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※それぞれに秘密や昏い過去を抱える登場人物たち。(左上から時計回りに)①謎の死を遂げるヴァレリーリュディヴィーヌ・サニエ)、②ヴァレリーの母親で、多くの秘密を抱えるヒロイン、ミシェル(エレーヌ・バンサン)、③ミシェルの親友マリー・クロード、④マリー・クロードの息子でミシェルを慕うヴァンサン(ピエール・ロタン)、④ヴァレリーの息子(ミシェルの孫)ルカ、⑤ヴァレリーの死に疑問を抱きミシェルを追い詰める女刑事。

 

 それにしてもヲタクが個人的に創り上げたストーリーやヒロインのキャラ設定は、「女性には生まれつき母性が備わっている」、「血は水よりも濃い」……といった俗説を真っ向から否定するもので、自分はかなり皮肉屋のペシミストだな……と改めて自己認識して、あんまり気分良くなかった(笑)まっ、所謂「女らしさ」を最大活用して男たちを繰り、ある意味したたかに生き抜いてきたヒロインの生き方が個人的にちと苦手……っていうのもあるんだけど^^;

 

 

ところで「秋が来るとき」日本版ポスターには、「探しに行きましょう これからの人生を」の一文が。アイシングしたお菓子みたいなセンチメンタルなキャッチコピーですが、そこはそれオゾン監督作品なんで^^;他の作品同様、女性に対する風刺や皮肉、ブラックユーモア満載な作品に仕上がっております。今作品でヒロイン、ミシェルの娘ヴァレリー役を演じたリュディヴィーヌ・サニエも、こう語っています。

(オゾンは)非常に先進的なエスプリを持った監督だと思います。だいたい「80歳のヒロイン」なんていうと、孫たちに菓子を作ってくれるようなチャーミングなおばあちゃんでオープンマインドで......そんなステロタイプなキャラクターを思い浮かべませんか? でもオゾン監督はそうじゃない。80年を生きてきた過去があって、矛盾もあれば失敗もあれば成功もしてきた。そんな複雑な人間性を持った、ひとりの女性として撮ろう、という意気込みを感じるんです。

 日本のキャッチコピーに釣られて観に行ったら痛い目見ますよ(笑)そろそろそんなステロタイプから卒業して欲しいですよね。

 

 

 オゾン監督は、ヲタクが密かに「映画史上いぢわるジイさんの二大巨頭」と呼んでいるうちの1人。ちなみにもう一人のいぢわるジイさんはアルフレッド・ヒッチコック監督。ヒッチコックミソジニー入ってて、ストーリーテラーとしては抜群に面白いけど女性を見る目はかなり冷たくサディスティック。一方オゾン監督の場合、女性の狡さやしたたかさ、嫉妬、虚栄心…等々をリアルに描いてはいるけど、根底にはどこか優しさが仄見える。オゾン監督はゲイを公表しているから恋人はムリだけど、ぜひお友だちになりたいタイプ(笑)

 

 どんな平凡な人生に見えても、100人の女には其々、100通りの秘密がある。客席は予想通り7割方シニアの女性。この作品を観賞しながら、来し方を顧み、人には決して言えない秘密を心の裡で反芻し、ミシェルのように(これは墓場まで持っていこう)と、各人静かな決意を固めたのだろうか。……え?ヲタクにもそんな秘密があるのかって?……それこそヒ・ミ・ツでしょ❗️(笑)

 

女の秘密はヴェールのようなものだ。
なにかを隠すのではなく、
美しく見せるためだ。

長谷川如是閑

 

そう❗️けだし名言なり(笑)

この言葉を謹んでオゾン監督に贈呈しよう。

 

★今日の小ネタ……リュディヴィーヌ・サニエ


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※22才の時の出演作「スイミングプール」(上)シャーロット・ランプリングに一歩も引けを取らぬ演技でした。

 

 なんと言っても本作の1番のサプライズは、「スイミング・プール」以来オゾン作品は実に21年ぶりというリュディヴィーヌ・サニエの登場でしょう。映画製作や演技の方向性の違いから、互いに疎遠になっていた時期もあったようですが、今作ではそんなブランクを微塵も感じさせない存在感を発揮しています。