オタクの迷宮

海外記事を元ネタにエンタメ情報を発信したり、映画・舞台・ライブの感想、推し活のつれづれなどを呟く気ままなブログ。

ひたすらキャスティングの妙で見せる〜「国宝」



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相鉄線ゆめが丘駅前のシネコン「109シネマズゆめが丘」にて、映画「国宝」観賞。

 

 暴力団同士の抗争で組長だった父親(永瀬正敏)を殺された一人息子の立花喜久雄(吉沢亮)がその天賦の才を歌舞伎役者・花井半次郎(渡辺謙)に見出され、ついに人間国宝に上り詰めるまでを描いた大河ドラマです。……ってあれ⁉️あらすじがたった3行で終わっちゃったゾ(笑)

 

 こう書いてくるとさぞかし冗長な映画なのかと思われそうですが、3時間の長丁場を飽きることなく見れたのは(少なくともヲタクの場合^^;)ストーリー展開の面白さもさることながら、役者陣が適材適所、キャスティングが素晴らしいことに尽きると思います。

 

 まずは主役の吉沢亮。生来の美貌と、こちらの気持ちを見透かすような、かといって自分自身の心の裡は決して明らかにしない(ように見える)冷徹な三白眼が、芸のために「悪魔に魂を売り渡した」という主役の喜久雄にピッタリで、相対する歌舞伎名家の跡取りらしく鼻っ柱は強いがその実気弱なボンボン、大垣俊介(横浜流星)と好対照を為して印象的。横浜流星は普段、少々舌足らずな物言いが気になるのですが、今作品ではそれが良い方向に活かされていたかも。「二人藤娘」や「二人娘道成寺」を共に踊り、名コンビと持て囃される二人ですが、しかし喜久雄のほうが技倆が僅かながら上回っているようにちゃんと演じられているんですよね。その芸の対比こそが二人の積年にわたる愛憎相半ばする複雑な関係を如実に表しているわけで……。それをスクリーン上に表現し得たのは演出の妙味と、歌舞伎の基礎を二人に叩き込んだという4代目中村鴈治郎指導力、そして何より現在日本映画界では間違いなく若手トップランナーである吉沢亮横浜流星の演技力の賜物でしょう。

 

 その他のキャスティングとしては、宮澤エマが従来のイメージを覆して極道の姐さん役というのも意外性があり、一見愛情深そうに見えて計算高く世の中を渡っていく喜久雄の幼なじみ(高畑充希)や、歌舞伎の世界で上り詰めるために喜久雄に利用されてしまう純粋だけどちょっとオツムの軽い感じの森七菜も良い味出してたなぁ。(注・褒めてます 笑)自分と藝妓の母親(見上愛)を捨てた父親を憎みながらも、一方ではその芸の素晴らしさを認め、酷薄な父を受け入れようとする喜久雄の隠し子・綾乃(瀧内公美)の理性。女性キャラの中では、個人的に綾乃推しです。最後の綾乃のセリフと吉沢亮の万感の思いをこめた表情にヲタク、不覚にも泣きましたよ。

 

 しかししかし、歌舞伎の正統な血筋ではないというそのたった1つの理由だけで喜久雄を最後まで認めなかった歌舞伎界の大御所・万菊を、アングラの極みである暗黒舞踏の雄・田中泯(注・過去には土方巽に影響されたことを公言していたが、現在ご本人は自らを『舞踏』の枠内にはめられることを嫌っておられるようです)に演じさせ、よりにもよって「鷺娘」を踊らせるなんてね。また、花井半次郎の妻役が、歌舞伎の家に生まれながら女性というだけで舞台に立てなかった怨念を芸の肥やしにしてきた寺島しのぶでしょう……。このキャスティングに、美しいけれども矛盾に満ちた歌舞伎という日本独自の伝統芸能に対する、李相日監督のある種のアンチテーゼを感じてしまうのはヲタクだけ⁉️在日韓国人三世である監督の、日本社会そのものに対する愛憎の念とシンクロしてるんじゃないか……なーーんて、いくらなんでも深読みし過ぎか(笑)同調圧力で異端分子を排除しまくる、日本という壮大な「ムラ社会」の1つの象徴が歌舞伎の世界だからね(^_^;)同じ日本の伝統芸能を扱うにしても、出自を隠して徹頭徹尾日本の社会に溶け込み、日本人以上に日本人たらんとした立原正秋在日韓国人作家。本名は金胤奎…彼の所謂「芸道モノ」小説のテーマは能や日本庭園ですが)と、俯瞰的な視点から日本そのものを捉えようとした李相日監督……。これも時代の流れでしょうか。

 

★今日の小ネタ……#国宝名場面キャンペーン

 

 最後にヲタクの趣味に走った感想を言わせてもらえばこの映画……

何はなくとも永瀬正敏よっっっ❗️


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 喜久雄の波乱に満ちた人生の原体験となる父親(永瀬正敏)の死。組の新年会の最中に敵方に踏み込まれ、日本刀を振りかざして戦おうとした矢先、凶弾に倒れるヤクザの組長役。永瀬さん、出演シーンは少ないながら、アナタいちばんオイシイ役よぉぉぉ(笑)諸肌脱いだ背中に広がる刺青と閃く白刃、真っ白い雪に深紅の華のようにじわじわと広がる血。歌舞伎に勝るとも劣らぬ様式美にヲタク、ゾクゾクしたわ。陰で見守る息子に「オトコの生きざま見せてやるっ❗️」って刀抜いた瞬間に蜂の巣になっちゃう無念さ、オトコの哀愁も良かったぜ……(しみじみ)。この映画、配信開始になったら永瀬正敏の登場シーンをヘビロテする自信、今からある(笑)