オタクの迷宮

海外記事を元ネタにエンタメ情報を発信したり、映画・舞台・ライブの感想、推し活のつれづれなどを呟く気ままなブログ。

女はいつも仮面(ペルソナ)を被っている〜渡辺えり「少女仮面」


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 下北沢のザ・スズナリでスタジオ3◯◯「少女仮面」(渡辺えり主演・演出)観賞。昨年逝去した日本演劇界の巨星・唐十郎の追悼公演です。

 

 戦後80年、太平洋戦争の記憶が風化しつつある昨今、昭和の記憶をいまだ心の襞に刻み込ませているであろう渡辺えりが、若い役者たちの先頭に立ってこの芝居を演じ、演出家として作品に新たな息吹を吹き込むことの意義は非常に大きい…とヲタクは思います。

 

 ヲタクは偶然にも渡辺えりとタメだから、ヒロインのモデルになった伝説のタカラジェンヌ春日野八千代の舞台も実際に観たことあるし(東京宝塚劇場の「シャングリ・ラ」。当時那智わたるの熱烈ファンだった叔母に連れて行ってもらったのです)、登場キャラの「水飲み男」の姿から、幼い頃渋谷のガード下で見た傷痍軍人の物乞いの姿を思い出すし、全編に流れるBGM、メリー・ホプキンの「悲しき天使」からはどうしても反戦の暗喩を深掘りしてしまう世代(メリー・ホプキンはプロデューサーとしてのポール・マッカートニーの秘蔵っ子だから、どうしても…ね^^; 実際にはロシア民謡が元歌で、メッセージ性は低いみたい)個人的にはいろいろ身につまされ、ぐっと来る場面が多かったけれど、さてこの作品をこれから次世代の若者たちにどう伝えていくか。唐十郎の作品ってその時々の時代の世相を色濃く反映してるから、時が経つにつれ、テーマが風化してしまうおそれがどうしてもあると思う。今の若い人たちにとって春日野八千代はもちろんのこと、彼女の想い人・甘粕大尉って誰だっけ❓️って感じでしょうし、ポール・ニューマン&ジョアン・ウッドワード夫妻の小ネタに至ってはたぶん完全スルーされる(笑)


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※ハリウッドきってのおしどり夫婦と言われたポール・ニューマンジョアン・ウッドワード。結婚した年にジョアンはアカデミー主演女優賞、ポールはカンヌ映画祭主演男優賞を受賞したというパワーカップルですが、実は交際を始めた当時ポールは既に結婚していて、不倫→略奪婚だったんだよね^^;

史実では甘粕には日本に妻子が居たわけだから、「少女仮面」の春日野と甘粕は立派な不倫関係です(笑)

 

 しかしその一方で、この作品には、常に二律背反に引き裂かれる私たち女性という存在を描いている点において、普遍的なテーマを内包しています。春日野八千代は宝塚の伝説的スタァなので、ファンの少女たちに神のごとく崇められる聖なる仮面(ペルソナ)を被りながらそのじつ、不倫関係にある甘粕大尉を想って身悶える自らの肉体を持て余しています。しかし私たちのような一般人でも春日野と同じように、女としての肉体を押し殺し素知らぬ顔をして、清く正しく美しく、善き母親や社会人というペルソナを被って生きていかなければならないのです。春日野は肉体とペルソナに両端から引き裂かれ、次第に狂気に陥っていきますが、私たちとて、いつ彼女と同じように足をすくわれて、真っ逆さまに地獄に墜ちかねない危うい橋を渡って生きているのではないでしょうか。今後このテーマをより深く掘り下げていけばこの作品、今後も末永く演じられていくような気がします。

 

 とにもかくにも、今この令和の時代に、しかも古稀を迎えて「少女仮面」を上演した渡辺えりの気力胆力に乾杯❗️


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※キャストの中でヲタクの推しは腹話術の人形を演じた福本雄樹(右)かな。唐組のスターだけあって、唐さんの匂いが染みついてるわ(笑)


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※翌日早朝の下北沢商店街。閑散としていて、昨夜の賑わいがウソのよう。つわものどもが夢の跡……って感じです。……ただ、24時間営業のお店から言い争いの声が。どうも演劇観の違いで口論になったもよう。役者さんたちかな。シモキタの演劇人たちは熱いね(笑)

 

★今日の小ネタ…甘粕正彦

 ヲタクは以前「歴史上のイケメン列伝」というシリーズを当ブログでUPしたことがあるんですが、よっぽど甘粕についても書こうと思ってました。チェーザレ・ボルジアと同じ「ワル」イケメンのカテゴリーで(^_^;)……ただ、憲兵時代にアナキスト大杉栄伊藤野枝の拷問・殺害に関わっているし、終戦時に満州で服毒自殺を遂げているけど、生き残っていたら間違いなく東京裁判A級戦犯だったろうから、ヲタクみたいな軽い読み物で取り上げるのも憚られて……結局止めました。

 

 「少女仮面」で春日野と甘粕が恋仲になるという設定は、彼が一方では芸術を愛する趣味人であり、満州映画協会の理事長という立場から日本映画の発展に寄与した功績を、唐十郎が評価した現れなのかと思っています。


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甘粕正彦本人(左)と、ベルトリッチ監督の映画「ラスト・エンペラー」で甘粕を演じた坂本龍一。めっちゃスタイリッシュでカッコよくて、「歴史上のイケメン」シリーズで取り上げようと思ったのも坂本龍一のせい(めっちゃミーハー 笑)