韓国映画「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」観賞。
自身がゲイであることを認められず苦悩する青年フンス(ノ・サンヒョン)と、独特の個性の持ち主であるがゆえに社会に馴染めず孤立してしまう女性ジェヒ(キム・ゴウン)の、13年間に渡る「友情」(愛情❓️)の物語です。
2人の交流が始まったのは、共に同じ大学の仏文科に在籍していた20才の頃。クラブの裏の暗闇でフンスがワンナイトラブの男性と激しいラブシーンを繰り広げているのをジェヒが目撃したことがきっかけ。ゲイであることを周囲にも(たった1人の母親にも)ひた隠しにしているフンスは真っ青になり、口止めしようとジェヒを追いかけます。
「俺の弱みを握ったな❓️」と血相を変えて詰め寄るフンスに、あっけらかんと
「えっ、弱み❓️自分らしく生きることがあなたには弱みなの❓️」
と答えるジェヒ。
いいよね、カッコいいねジェヒ。ヲタクが男なら即惚れちゃうね(笑)
そんな自由奔放、肩で風を切って颯爽と生きているかに見えるジェヒにも、長い間引き摺っている心の痛みが。中学生の頃、牛乳パックを描くという美術の課題が出た時、ただ1人飲んだ後のクシャっと潰れた牛乳パックを描いたジェヒの鋭い独特の視点は美術教師の称賛を受けましたが、一方でクラスメートたちの妬みを買い、それが酷いイジメに発展して、最終的には退学に追い込まれた……という過去があったのです。ジェヒはフンスに問いかけます。
なんで人は異質なものを排除して、優越感を得たがるの?本当はそれって、劣等感なのに。
そんな過去を抱え、大学でも「ビッチ」呼ばわりされながら、そして付き合った男たちにもなかなか真の自分自身を理解されずに悶々としながらもなお、「愛すること」「人を理解すること」を諦めないジェヒとルームメイトとして暮らし始めるうちに、当初は
「愛?なんでそれが愛って確信できる?単にドーパミンが分泌してるだけだろ」
と冷めた眼でジェヒを見ていたフンスも、次第に自分自身のセクシャリティを受け入れられるようになっていきます。
2人の13年間に渡る交流はもちろんこの作品のメインテーマなんだけど、シニアなヲタクから見ると、なんと言っても心抉られたのが、フンスのママの心情ね。息子が30を過ぎて、初めて自分がゲイだとカミングアウトされたママ。黙って、突然「映画観に行く」って言って出て行って、帰ってから飲んだくれてるママを見て、フンスはそんなにショックだったのかと絶望的な気持ちになるんだけど、ふと見ると机の上に映画館の半券が。見れば「君の名前で僕を呼んで」じゃありませんか❗️必死で息子を「一個人として」丸ごと理解しようとするママの深い愛が胸に迫り、ヲタクの目からは一気に涙が……(笑)
この作品には様々な愛の形が登場します。男女、男性同士の恋愛、親子愛、そしてジェヒとフンスの性差を超えた友愛……。観ている私たちが世代を超え、性差を超えて、今一度「愛」を、「人生」を見つめ直すきっかけをくれる、素敵な映画でした。
これも愛 あれも愛 たぶん愛 きっと愛
(by 松坂慶子)
★今日の小ネタ……「君の名前で僕を呼んで」
フンスのママが少しでも息子を理解しようと観に行った映画「君の名前で僕を呼んで」(2017)。ご存知ルカ・グァダニーノ監督のBLロマンスの傑作です。「君の名前で〜」で、愛し合う2人、17才のエリオ(ティモシー・シャラメ)とオリヴァー(アーミー・ハマー)を引き裂いたのは、オリヴァーが信仰するユダヤ教の厳格な戒律でしたが、今作品でフンスが苦悩するのは、韓国社会に根強く残る儒教文化と同調圧力。本来は人を生き易く、幸せにするために存在する筈の宗教や哲学が、人が愛し合う時の障害になるという大いなる皮肉。……さて、あなたはどう考えます❓️