
★これは、信仰心が音を立てて剥がされていく、恐怖の密室劇
〜言葉によって人は壊される……
U−NEXTにて、A24「異端者の家」観賞。末日聖徒イエス・キリスト教教会の年若い宣教師、シスター・バーンズ(ソフィー・サッチャー)とシスター・パクストン(クロエ・イースト)が、以前教会が発行する冊子を受け取ってくれた中年の男ミスター・リード(ヒュー・グラント)をガチで改宗させようと、粉雪が舞うある冬の寒い日に、森の中にポツンと佇む男の家を訪ねていきますが、言葉巧みに中に招き入れられ、ついには監禁されてしまう……という、静かで、冷酷な地獄絵図が展開します。
この役にヒュー・グラントをキャスティングしたのはもう、最高のキャスティングですよね。彼が演じるミスター・リードという男、一見物腰柔らかく口調も冷静且つ穏やか、若い女性の宣教師と知的な会話(宗教談義)を楽しむ無害なオジサンかと思いきや、次第に冷酷且つ凶暴な本性を露わにしていく……ってキャラなので、当代、ヒューほどの適役はいないでしょう。観ている私たちは、皮肉とユーモアがないまぜになったヒューの語り口に思わず苦笑いしてしまいますが、次第にその笑顔は凍りつき、恐怖で手が震え始めます。
映画のジャンルは一応ホラーなんですが、ラスト近くまでスプラッターなシーンはあまりありません。しかし、ミスター・リードがシスターたちと会話を交わす中で、じわじわと真綿で首を絞めるように彼女たちを追い詰めていくプロセスが地味に怖くて(^_^;)。ヨハネ福音書に「初めに言葉ありき」という一節がありますけど、言葉って人を活かし励ますこともできる一方で、ミスター・リードのように彼女たちのように純粋な若者を挑発し、追い詰め、恐怖のドン底に陥れることもあるんだな……と、ヲタクは改めて思いましたね。サスガA24、死や肉体を傷つけられることの恐怖よりむしろ、自らが信じていたものが足元から崩れ落ちていく観念的な恐怖を描いて、かなりエッジの効いた作品になっています。
★単なる脱出ホラーではない、深いテーマが…
(WFP統計によれば)世界の総人口の3割を占めるという、世界最大の信仰キリスト教。ミスター・リードは、「聖母マリアの処女受胎やイエスの復活は紀元前から既に世界各地に散見された神話伝説の焼き直しにすぎない。あたかもそれは、誰も知らないマイナーな『地主ゲーム』をそっくりそのまま『モノポリー』として売り出して大儲けしたと同じだ」とうそぶき、レディオヘッドの大ヒット曲「Creep」はThe Holliesの「The Air That I Breathe」のパクリ。キリスト教だってパクリなんだ」などと詭弁を弄し、若い2人の信心が一瞬揺らぐ場面があるんですが、これ、実際にキリスト教信者の方が観たら相当不愉快でしょうね(^_^;)……ところがミスター・リードの喩えが巧くて、観てるこっちも(なるほどな〜)なんて思っちゃうから、なお恐ろしい。たとえキリスト教信者じゃなくても、彼の詭弁に翻弄され、術中にハマっていくのが恐怖なんです。
★グロシーンはラストに集中
前の章で「ラスト近くまでスプラッターなシーンはあまりない」と書きましたが、「ラスト近くまで」っていうのがミソでして(^_^;)ラストめがけてグロシーンは集中してるので、始まったらよくよくご注意を(笑)
★ヒロイン2人のキャラ立ちが見事

※シスター・パクストン(左…クロエ・イースト)とシスター・バーンズ(右…ソフィー・サッチャー)。
冷静沈着な知性派で、ミスター・リードにも常に理論武装して立ち向かうシスター・バーンズが、実は教会の戒律を無視し、秘密を隠し持っていた……というどんでん返しがある一方で、映画の冒頭で下ネタを連発したり「今年は誰も導けてない。焦る」とグチって「落ちこぼれ信仰者」っぽかったシスター・パクストンが、脱出を試みるうちに、「真の信仰心とは何か」に目覚めていくプロセスは、感動的ですらあります。2人のヒロインが人生最大の危機に直面して、もがきながら成長していく姿は共感を呼ぶのではないでしょうか。
好き嫌いは分かれるかもしれませんが、(ありきたりなホラーはカンベン❗️)って思っている人にはおススメしたい、ひねりの効いた作品です。
★今日の小ネタ 全編を彩るBGMは……
ボブ・ディランの「天国の扉」❗️死ぬ間際の男の気持ちを歌った歌で、この主人公の男はある罪を犯したために、自分に向かって天国の扉は閉まっている、でもオレにだって言い分があるんだと言いながら必死でその扉を叩いている……といった内容の歌。
Knock, knock, knockin’ on heaven’s door……
のリフレインが、シスターたちの底しれぬ恐怖と、神に救いを求める必死の“祈り”と重なって耳に響いてくるような気がします。