オタクの迷宮

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ロイヤルオペラ in シネマ『ワルキューレ』〜愛か秩序か、ワーグナー沼に5時間半ダイブ

 
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ららぽーと横浜(横浜線鴨居駅)内のシネコン「TOHOシネマズららぽーと」にて、「ワルキューレ」鑑賞。言わずとしれたワーグナーのオペラ大作「ニーベルングの指環」4部作のうち、1番人気の第2作目。2025年5月に英国のロイヤルオペラハウスで上演された舞台を映像化したものです。


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 ロンドンに出向かなくても、僅か5000円で世界最高峰の芸術作品が堪能できる贅沢。一旦暗くなってしまえばもう、こっちのもの。前の人がポップコーンかじっている姿も闇に消え、海を飛翔して一瞬のうちにヲタクは英国のロイヤルオペラハウスの客席にいる(笑)

 

 さて本作「ワルキューレ」は、2023年に同劇場で上演された「ラインの黄金」に続く第2作。全3幕ですが、それぞれの冒頭に懇切丁寧な解説と、演出家のバリー・コスキーや指揮者のアントニオ・パッパーノの貴重なインタビューがつくのも、映像作品ならではの特典と言えるでしょう。


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★あらすじと見どころ

〜第1幕〜

 敵対する部族との戦いに敗れ、命からがらある邸宅に辿り着いた1人の男ジークムント(フランスの新星、スタニスラス・ド・バルベラク)。彼はそこで、夫から激しい虐待を受けている美しい女性ジークリンデに出逢います。2人はたちまちのうちに激しい恋に落ち、ジークムントは勇者のみが手中に収めることができるといわれる無敵の剣ノートゥングをトネリコの木から引き抜き、歓喜のうちにジークリンデを夫フンディングから奪って出奔しますが、彼らの恋は恐ろしい呪いがかけられていました。なんと彼らは幼い頃生き別れた双子の兄妹だったのです。復讐に駆られ、彼らを追い詰めるフンディング。果たして恋人たちの運命は⋯⋯❗️❓️

【見どころ】

 ジークリンデ役は当初、リーゼ・ダヴィッドセンがキャスティングされていたそうですが、リーゼが双子を妊娠したために直前で降板、急遽ナタリア・ロマニウが代役を務めることに。準備期間はなんと、僅か2ヶ月だったそう。ジークリンデほどの大役、2ヶ月でオペラハウスの大舞台に立つなんて、考えるだに恐ろしいですが、ナタリアは、禁忌の恋に身悶え、愛しい人の死の直後に忘れ形見の存在を知る⋯というジークリンデの哀しみ、切なさを見事に演じきりました。悲哀の中にも滲み出る官能性はこの人の持ち味なのかな❓️こうなってみると、既に大御所感漂うリーゼより、ナタリアのほうがフレッシュで適役だったのでは⋯❓️とヲタクは思いました。

 


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ニーベルングの指輪の呪いにより、愛する息子ジークムントを自身の手で殺めなくてはならない運命を嘆くヴォータン(クリストファー・モルトマン)。

 

〜第2幕〜

 第2幕でさらに衝撃の事実が発覚。ジークムントは神々の長ヴォータンが人間の女性に産ませた息子だったのです。妻そして婚儀の神としての誇りを踏みにじられたと怒りに燃えるヴォータンの妻フリッカ(バイロイト音楽祭の常連、マリーナ・プルデンスカヤ)は、不義の夫に最も残酷な罰を与えます。無敵の剣ノートゥングを砕き、自らの手で最愛の息子を死に至らしめよと。絶望に打ちひしがれながらヴォータンは、娘である戦乙女(ワルキューレ)のブリュンヒルデに「ジークムントを殺せ」と命じますが、ジークムントのジークリンデに対する純粋な愛に打たれ、心の底ではジークムントを生かしたいと願う最愛の父の本心を見抜いたブリュンヒルデは、2人を逃がそうとします。しかしその時ヴォータンが現れて、自らがジークムントに与えた剣を砕いてしまうのです。妻を奪われた復讐に燃えるフンディングの剣は、ジークムントの心臓を深々と貫いて⋯⋯❗️

【見どころ】

 ワーグナー作品中最も高潔で魅力的なヒロイン、ブリュンヒルデ。本作の冒頭ではやんちゃでキャピキャピ❓️したティーンエイジャーとして登場する彼女ですが、物語が進むにつれ、父ヴォータンの隠れた願いを知り、父への愛、義兄ジークムントへの憐憫の情から神々の掟を破り、自らが愛の犠牲となる大人の女性に成長していきます。このブリュンヒルデの変化も見どころのひとつで、演じるエリザベート・ストリードは、演出家バリー・コスキーの「ブリュンヒルデを演じるのは、若く、清新な魅力に溢れる歌い手」との要望に見事に答え、そのエネルギッシュな歌声と卓越した演技力で衝撃的なワーグナー・デビューを飾りました。

 

〜第3幕〜

 あのあまりにも有名すぎる名曲「ワルキューレの騎行」の勇壮な調べに乗って幕が上がる最大のクライマックス。名誉の戦死を遂げた戦士たちの霊を、神々の居城ヴァルハラに送る役目を嬉々として果たしている8人の戦乙女(ワルキューレ)たち。そこへジークリンデを連れたブリュンヒルデが、ヴォータンの眼を逃れてやって来ます。ヴォータンの怒りから、愛する姉を守ろうと結束するワルキューレたちですが、彼女たちの懇願も虚しく、ブリュンヒルデはヴォータンに捕らえられ⋯。

【見どころ】

 愛する人を追って死のうとするジークリンデを、「愛すればこそお腹に宿った命と共に生きなければ」とかき口説くブリュンヒルデ。神々の世界の秩序を守るため、最愛の娘ブリュンヒルデを断罪しなければならないヴォータンの慟哭。クライマックスとなる第3幕には、兄妹、姉妹、父娘⋯と、様々な愛の形が感動的に描かれます。ニーベルングの指環の呪いにより、愛を貫けない運命に追いやられたヴォータンですが、いくら呪いをかけられても、愛する心・情熱は消し去ることはできない。これから第3作「ジークフリート」、最終作「神々の黄昏」⋯と、ラグナロク(世界の終末)の悲劇に向けてひた走る「ニーベルングの指環」ですが、結局、世界の終末を回避するには、力や秩序の行使ではなく、愛の力を持ってするほかはない⋯⋯という、ワーグナーの声がどこからか聞こえてきそうです。


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 ロンドンへ行かなくても世界最高の舞台芸術を堪能できる「ロイヤルオペラ in シネマ」は、全国の劇場で公開中です。演者の表情が手に取るようにわかる臨場感が素晴らしく、演出家バリー・コスキーや指揮者アントニア・パッパーノの貴重なインタビューも交えた5時間半。「ロード・オブ・ザ・リング」や「ゲーム・オブ・スローンズ」の原型とも言うべき世界線がこの作品には詰まってる。

 

 この得難い機会にぜひ❗️