横浜駅直結のシネコン「Tジョイ横浜」にて、映画『盤上の向日葵』鑑賞。
スクリーン一面に広がる
目に染みるような向日葵畑
その明るさとは裏腹な、絶望を抱えて生きる
男たちの哀しみが胸を抉る

★ざっくり、あらすじ
埼玉県の山中で発見された白骨死体。そこには鋭利な刃物で深々と貫かれた傷があり、また遺体の上には数百万円の価値があるという将棋の駒・初代菊水月作の錦旗島黄楊根杢盛上駒(きんきしまつげねもくもりあげこま)が、まるで死者に手向ける献花のようにひっそりと置かれていました。調べに当たる埼玉県警の刑事石破(佐々木蔵之介)と佐野(高杉真宙)は、その遺体がかつて「鬼殺しの東明」と異名をとった賭け将棋の真剣師・東明重慶(渡辺謙)のものであることを突き止めます。やがて捜査線上には、かつて東明と愛憎相半ばする歪んだ師弟関係にあった、今飛ぶ鳥を落とす勢いの若き天才棋士・上条桂介(坂口健太郎)の名前が浮上しますが……。
★原作は柚月裕子の同名小説
柚月裕子の原作は、ミステリーの分類としては「倒叙ミステリー」(犯人が最初から大体わかっている)の味わい。フーダニットの面白さで読者を引き込むのではなく、「犯人がなぜ殺人に手を染めてしまったのか」という、人間の心理に焦点を当てたヒューマンミステリーになっています。映画も、原作同様(ヲタクは事前に原作を読んでいましたので^^;)捜査を進める「追う者」石破と佐野の視点と、容疑者である「追われる者」上条桂介の視点が交互に語られ、ラストのクライマックス(上条と東明による将棋の真剣勝負)に向かって、息つく間もないスリリングなストーリーが展開します。原作を読んでいてもいなくても、楽しめる作りになっていると思います。
★破滅へとひた走る男たちの運命
父親(音尾琢真)から壮絶な虐待を受けて育ち、果ては自らの「呪わしい出自」(これはネタバレになっちゃうので、ヒミツ 笑)を聞かされ、次第に人としての心が崩壊していく主人公上条役・坂口健太郎の鬼気迫る演技が素晴らしい❗️これまでは所謂「イケメン俳優」の範疇に入っていた彼ですが、今作で演技者開眼したんじゃないかな。それに彼って、切れ長の三白眼で、所謂欧米で言う「blank eyes(空虚な瞳)」ってやつなんですよ。彼の持つ、ちょい冷酷な雰囲気が、心に暗い空洞を抱えたまま生きる天才棋士のイメージにぴったりでした。彼がスクリーンに登場した途端、(わー、上条がいた❗️)ってヲタク、思わず心の中で叫んだもん(笑)

※この、冷たく酷薄そうな表情がヲタクのドM心をくすぐるのであった…(←バカ^^;)
上条を悪の道に引きずり込むヤクザな賭け将棋の真剣師・東明役の渡辺謙、死に瀕してまでも取り憑かれたように将棋を打ち続ける勝負師の柄本明(サスガの怪演^^;)、どーしよーもないクズ中のクズ父ちゃん役の音尾琢真と、一癖も二癖もあるベテラン役者たちに相対して一歩も引かない坂口健太郎の演技は、彼のファンならずとも一見の価値あり❗️
★原作と比べてみると……
原作には、持つ者の運命を狂わさずにはいられない錦旗島黄楊根杢盛上駒(きんきしまつげねもくもりあげこま)の妖しい魅力や、将棋に取り憑かれた男たちの妄執がより深く、より鮮明に描かれています。しかし、映画という2時間の限られた時間の中では、今作のように、何かに取り憑かれたような狂気……というよりむしろ、求める愛を得られぬ絶望の中で、破滅へと突き進む男たちの哀切さに焦点を当てたのは、まさに正解だったのではないでしょうか。(箸にも棒にもかからないような上条のクズ父ちゃんも、音尾琢真の卓越な演技により、最後にはこの映画のテーマとも言える「報われぬ愛の悲劇」を体現しているように見えてくるから不思議^^;)
勝負は終わっても、人生の盤上は続く。
誰もが、自分という盤上で逃れられぬ一手を指し続けている──。
『盤上の向日葵』は、その宿命に抗うすべての人間への、容赦なき鎮魂歌だ。
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