12/21にミステリーチャンネルで放映されたドラマシリーズ『ゼロ時間へ』(全3話)鑑賞。
はいっ、ご存知原作はアガサ・クリスティの同名ミステリー小説で、英国海峡を臨むデヴォン州の絶壁に聳え立つ豪壮な邸宅で起こる、恐ろしい殺人事件の顛末を描くクローズドミステリーです。

これは“完全犯罪”の話❓️いや違う❗️
愛と未練と支配が絡み合った
歪つな人間関係の物語だ
◆ざっくり、あらすじ
舞台は、1936年のイギリス。英国テニス界のスター選手であるネヴィル・ストレンジ(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)が、妻オードリー(エラ・リリー・ハイランド)から不倫のかどで訴えられ、裁判所で泥沼の離婚劇を繰り広げているショッキングな場面から始まります。(当時の英国には婚姻訴訟法があり、女性の側も不倫を理由に離婚と損害賠償を求めることができました。しかしその代わり、社会からの白い目に晒される代償を背負わなくてはならなかったのです)
オードリーと離婚後、ネヴィルは不倫相手のケイ(ミミ・キーン)とのハネムーン先として、叔母のレディ・トレシリアン(アンジェリカ・ヒューストン)が暮らすガルズポイントを選びます。しかしそんなある日街角でばったりと元妻であるオードリーに遭遇したネヴィルの心には彼女への未練が沸き起こり、「妻でなくても友人に戻って欲しい。一緒にガルズポイントで夏を過ごそう」と誘うのでした。
一族の莫大な財産を一手に掌握、近所でも権力を振るう独裁者のレディ・トレシリアンは一家を長年支えてきた弁護士と遺言書の書き換えに着手していましたが、ネヴィルたちが邸宅に到着した直後、凄惨な殺人事件が発生。外からの侵入は不可能であったことから、当時邸宅にいたネヴィルとケイの夫婦、元妻オードリー、レディ・トレシリアンの野心家の付添人や、ある事件をきっかけにネヴィルを憎む従兄(ジャック・ファーシング)、ネヴィルの謎めいた従者に容疑がかかるのですが…。
◆ここが見どころ
・1930年代英国の時代背景
まず第一に、アガサ・クリスティの他の作品同様、1930年代英国における離婚の難しさ、特に妻側が被る心の傷が描かれている点が挙げられるでしょう。1930年代のイギリスでは離婚は非常に困難で、社会的・法的に大きな制約がありました。特に「有責主義」(不貞や虐待などの明確な離婚原因が必要)と教会(イングランド国教会)の強い影響で、離婚は「恥ずべきこと」とされ、当事者は社会から疎外され、再婚も難しく、王室行事への参加も制限されるなど、非常に厳しい状況だったのです。
実は原作者のアガサ・クリスティも離婚経験者(原因は夫の不倫)。離婚時にはひと月にも及ぶ失踪事件を起こしています。(アガサ自身、その間どこで何をしていたのか、終生口にすることはありませんでした)今作にも、男女間の愛の危うさや夫婦の絆の脆さが描かれ、アガサ自身の離婚時のトラウマがいかに大きかったかをうかがい知ることができます。大人気ミステリー作家として名声を欲しいままにしていたアガサも、1人の女性としては満たされない人生だったのかもしれません。
・デヴォン州の絶景
アガサ・クリスティのミステリーと言えば、その舞台となる英国の風景描写の美しさが特徴。今作の舞台となるデヴォン州はアガサの生まれ故郷で、英国でも特に風光明媚な観光地として知られており、ドラマの中で度々登場する透明感のある紺碧の海の美しさは息を呑むほど。

この美しすぎる風景が、登場人物たちの心の闇をいっそう際立たせる。それが、ミステリーの大家アガサ・クリスティが私たちに仕掛けた、「大いなる罠」のような気がしてなりません。
◆この人に注目❗️
絶大な権力を振るう女当主役に超ベテランのアンジェリカ・ヒューストン。これ以上の適役はないと思えるほどの怪演❓️ぶりですが、ヲタク的に今日特にご紹介したいのがこの人、女当主レディ・トレシリアンに心理的に追い詰められ、主人公ネヴィルとの確執により精神を病んでしまう繊細な従兄を演じたジャック・ファーシング❗️

『ゼロ時間』(上)『スペンサー ダイアナの決意』(下)のジャック・ファーシング。(ダイアナ妃を演じたのはクリステン・スチュワートで、彼女はアカデミー賞主演女優賞にノミネートされました)
チャールズ皇太子との関係の破綻に悩む故・ダイアナ妃の苦悩を描いた映画『スペンサー ダイアナの決意』(2021年)で、当のチャールズ皇太子を演じたお方。Netflixのドラマ『ザ・クラウン』でチャールズ皇太子を演じたジョシュ・オコナーは、優柔不断さからダイアナ妃との関係に亀裂を生じ、悩む皇太子の人間性に焦点を当てて演じていましたが、一方『スペンサー ダイアナの決意』でジャック・ファーシングが演じたチャールズは、「次期国王」であることのみを追求するひじょうに冷徹な感じで、これではダイアナ妃が精神を病むのも当然かな⋯といった雰囲気でした。今作ではチャールズ皇太子とは正反対の、独裁的な叔母に怯える内向的な青年役をきめ細やかに演じていました。
ご本人は、オックスフォード大学で美術史を学び、ロンドン音楽アカデミー(LAMDA)で演技を習得した正統派。これから「来る❗️」んじゃないかな〜〜と、ヲタクは思ってます。
ヲタク、原作も読んでいますが、細かいキャラ設定などいろいろ改変されていて、(あれっ、私原作読んだっけ❓️)って一瞬思っちゃったほど(笑)原作をすでに読んでいらっしゃる方もじゅうぶん楽しめると思います。
アガサ・クリスティはやはり「謎解き」と同時に、「人間」を描く作家なのだと、改めて思い知らされる一作でした。
★『ゼロ時間へ』はミステリーチャンネル・オンデマンドで配信中❗️
【見逃し】アガサ・クリスティー ゼロ時間へ 第1話配信中(2025.12.23 - 2026.01.03)
【見逃し】アガサ・クリスティー ゼロ時間へ 第2話配信中(2025.12.23 - 2026.01.03)
【見逃し】アガサ・クリスティー ゼロ時間へ 第3話配信中(2025.12.23 - 2026.01.03)