オタクの迷宮

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シネマ歌舞伎『曽根崎心中』感想〜坂田藤十郎“伝説のお初”と映画『国宝』の原点

 この舞台が存在したからこそ、映画『国宝』は生まれた❗️
受け継がれる芸、引き継がれる魂。
『国宝』の奥底に流れていたものの正体を、私は今日、確かに見た。

 桜木町駅前のシネコン「ブルグ13」にて、シネマ歌舞伎『曽根崎心中』(原作・近松門左衛門)鑑賞。シネマ歌舞伎とは、数々の伝説的な名舞台を現代に蘇らせ、映画館で上映する試み。

 

 今回上映されたのは2009年歌舞伎座公演で、故・坂田藤十郎(四世)が生涯で1400回以上も勤めたという当たり役・遊女お初を演じ、さらに、心中相手の徳兵衛を演じるのが、藤十郎の長男・中村鴈治郎という、2度と再現不可能な、文字通り伝説の名舞台です。

 

★『曽根崎心中』あらすじ

此の世のなごり。夜もなごり。

死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜

で始まる道行きで有名な『曽根崎心中』。

 

 相思相愛の遊女お初(四世・坂田藤十郎)と、伯父の商売を手伝う徳兵衛(中村鴈治郎)。しかし徳兵衛は、親友の九平次(中村芝翫)に裏切られ、伯父に返すはずだった金を騙し取られてしまいます。九平次の策略により、反対に詐欺師呼ばわりされ、さらには手下から狼藉を働かれて絶望する徳兵衛。

 

 彼を信じるお初は、縁の下に潜む徳兵衛に「命をかけて潔白を証明する」覚悟を問い、徳兵衛は死をもって名誉を挽回することを誓います。「お前さんだけを死なせはしない。来世で添い遂げましょう」と徳兵衛を促すお初。伯父の働きによって徳兵衛の潔白が証明されたのも知らず、二人は死に場所を求めて曽根崎の森へと向かい——。

 

★映画『国宝』ファンなら必見❗️

 この2009年の歌舞伎座公演において藤十郎が魅せた圧倒的な芸の真髄は、映画『国宝』で、主演の吉沢亮さんが繰り返し鑑賞して演技の参考にしたという貴重な映像資料でもありました。

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※映画『国宝』で、お初を演じた吉沢亮さん。

 

 『曽根崎心中』は映画『国宝』において、作品テーマの根幹に関わるひじょうに大事なシーンで登場します。上方歌舞伎の看板役者・花井半二郎(渡辺謙)が、お初役に指名したのは、わが息子であり名跡を継ぐべき一人息子の俊介(横浜流星)ではなく、養子である喜久雄(吉沢亮)でした。怒りに燃える俊介はしかし、喜久雄のお初を観て、その芸の素晴らしさに衝撃を受け、絶望のあまり失踪してしまいます。

 

 数々の映画賞に輝く吉沢亮さんの名演技の一端を担ったお初役。そして吉沢さんが手本にしたという故坂田藤十郎さんの舞台が、映画のスクリーンを通してとは言え、この眼で見られるのかと思うとヲタク、チケットを入手した時点からワクワクでした。

 

★そして伝説の『曽根崎心中』

 

 --------坂田藤十郎さんのお初は、もはやヲタクの稚拙な筆力では到底言い表せないほどの素晴らしさ。

 

 数えの19才という薄幸の遊女・お初を演じた藤十郎さんは当時なんと77才❗️それが、登場場面の、なかなか茶屋に訪れてくれない想い人、徳兵衛に拗ねてみせる可愛い仕草から、追い詰められた徳兵衛を庇い、ついには心中を決意する時の一種の俠気に満ちた表情に至るまで、幼気な少女から大人の女性への七変化を余す所なく表現して、それはもう珠玉、そして至宝。

 

 どんな名舞台でも過ぎれば一瞬の幻。

しかしこのように映像に残していれば、現代の私たち観客が楽しめるだけでなく、若き歌舞伎俳優たちがその芸の手本にすることもでき、『国宝』のような映画が製作されることによって、海外の人たちが日本の伝統に触れるよすがともなる。

 

 こうやって、歌舞伎という日本が誇るべき伝統文化は、脈々と後世に受け継がれていくのだ-----と、改めて認識させてくれたシネマ歌舞伎『曽根崎心中』でした。