オタクの迷宮

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それでも、人は生き延びるしかない——『おくびょう鳥が歌うほうへ』考察

 これは、「再生の物語」なんかじゃない。
人が壊れたあと、どうやって一日一日を“生き延びるか(Outrun)”の記録だ。

 

 U-NEXTにて、『おくびょう鳥が歌うほうへ』(原題は『The Outrun(生き延びる)』)鑑賞。

 

 この作品は、アルコール・ドラッグ依存から立ち直ろうとする1人の女性の魂の再生を描いた実話(原作はスコットランド人作家エイミー・リプトロットのベストセラー『The Outrun』)で、主演のシアーシャ・ローナンの演技は国内外で大絶賛され、

◆アイルランド 映画テレビアカデミー賞(IFTA)主演女優賞

◆ロンドン映画批評家協会賞 ブリティッシュ/アイリッシュ演技賞
など、数々の主演女優賞を受賞しました。


 さらに監督のノラ・フィングシャイトも英国アカデミー賞(BAFTA)スコットランドで監督賞を受賞、作品としての評価も折り紙つきです。

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★『おくびょう鳥が歌うほうへ』あらすじ

 この映画は、29才のヒロイン、ロナ(シアーシャ・ローナン)が泥酔の末見知らぬ男に殴打され、顔を腫れ上がらせて警察に駆け込むショッキングなシーンで幕を開けます。

 

 ロナはロンドンの大学院で生物学の修士号を取得したほどの知的な女性ですが、双極性障害を患う父親の介護に疲れ果ててアルコールにのめり込み、数々のトラブルを引き起こした末に友人や恋人、社会的信用を全て失い、故郷のスコットランドに逃げるように10年ぶりの帰郷をします。

 

 絶海の孤島であるオークニー諸島のパパイ島に1人渡った彼女は、野鳥保護団体に就職し、絶滅が危惧される幻の鳥「ウズラクイナ(Corncrake)」の調査を通して、再起を計ろうとしますが------。

 

★シアーシャ・ローナン、圧巻の演技

 はっきり言ってこの作品には「アルコール依存症から回復した、めでたしめでたし」というカタルシスは全くと言っていいほどありません。(現にヒロインのロナは作品中アルコールを口に含んで酩酊し、罪悪感に苛まれます)そこにあるのは、「それでも今日を生き延びる」という、限りなく地味で、苦しく、だからこそ尊い営みだけなのです。

 

 そんな薄氷を踏むような毎日を、不安と絶望、怒りと哀しみ、再起への決意、人生の希望の灯りを手探りするような切なさを滲ませながら、繊細且つ力強く演じ切ったシアーシャ・ローナンの演技はまさに圧巻です。

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 この作品でシアーシャは、ほとんど素顔のままカメラの前に立ち、ロナ役の悲痛さと絶望感を一切の装飾なしに引き受けています。

 

★『おくびょう鳥が歌うほうへ』は、シアーシャ・ローナンとジャック・ロウデン夫妻の愛の結晶

 エンドクレジットには、製作総指揮として、シアーシャと共に、彼女の最愛の夫ジャック・ロウデンが名を連ねています。

 

 2022年、まだ同棲中の恋人同士だった2人は、ジャックの故郷であるスコットランドのエディンバラに映画製作会社※「アーケード・ピクチャーズ(Arcade Pictures)」を設立し、周囲を驚かせました。そして同時に、同社の記念すべき第1作目が、エイミー・リプトロットの『THE OUTRUN』

(2016年 ウェインライト賞、2017年 PEN/アッカーリー賞などの英国文学賞を連続受賞。10か国語以上に翻訳され、本国では11万部超えのベストセラーに)の映画化であると、ジャック自身のインスタで明かされたのです。

※現在はシアーシャ&ジャクロ夫妻は経営を退き、彼らの親友が経営しています

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※6年に及ぶ交際期間を経て、2024年エディンバラ市役所に正式に婚姻届を出した2人(上)

 

 この映画を通じてヲタクは、ジャックとシアーシャが私生活だけでなく演技者として、映画制作者として深い信頼で結ばれている得難いパートナー同士であると、思わずにはいられませんでした。

 

★もう1人の主役、オークニー諸島

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 冬ともなれば雪混じりの暴風雨が窓を打ちつけ、荒波が岩を洗う過酷なオークニー諸島。

 

 それでもあえてヒロインのロナが生活の場としてそこを選んだのは、自らの重度のアルコール依存症が、「自然に癒される」などという生易しいものではとても回復できないことを知っていたから。

 

 身を切るような冷たい冬の北海に飛び込み、何度となく襲い来る酩酊感のフラッシュバックを断ち切ろうとするロナの姿に、私たちは涙を禁じ得ません。

 

 その闘いの日々の最中、ロナが幻の鳥の啼声を聴くラストシーン。ブラックアウトした画面に一瞬、ウズラクイナと覚しき啼声がします。

 

 あの鳥の声が、神の救済だったのか。
それとも、ただの偶然だったのか。
その答えを、ロナも私たちも知るすべはありません。

——なぜなら、ロナの孤独で果てしない闘いは、彼女が生きていく限り続いていくからです。

 

★そして、これから

 かねてから「スコットランドを舞台にした文学を映像化して、スコットランド映画産業の発展に寄与したい」と語っていた我が最愛の推し、ジャック・ロウデン。シアーシャ・ローナンという最愛にして最良のパートナーを得た彼にとってこの作品は、映画制作者としての第一歩。


 これから先、2人にどんな物語が待っているのか——彼らの歩みをこれからも見守り続けたいと願うヲタクです。