オタクの迷宮

映画・ドラマ・舞台レビュー、ケルト文化、滅びの美学、推し活のつれづれまで── 観て、感じて、考える。 "好きなモノ・人"についてしか語らない偏愛のブログ。そして今日もどこかで、ヲタクが迷走中。

『カリギュラ究極版』——絶対権力が生む“怪物”を描いた歴史超大作

 U-NEXTにて、『カリギュラ 究極版』(1979年)鑑賞。『カリギュラ』(原題:Caligula)と言えば、当時のペントハウス誌社長ボブ・グッチョーネが46億円の巨費を投じて製作した映画。ローマ帝国皇帝カリギュラ(マルコム・マクダウェル)の放蕩、残忍な所業を描いた超大作ですが、公開当時は「ジョン・ギールグッドやピーター・オトゥールなど、英国の名優たちを使ったハードコア・ポルノ」、「映画史の汚点」と酷評され、フィルムが一時警察に押収されるなど曰く付きの作品。監督ティント・ブラスは、当初意図した構想をグッチョーネに汚された------と激怒(グッチョーネはブラスに無断で集団ポルノシーンを撮影)、編集作業から降板してしまいました。

 

 ヲタクも、あまりの悪評の凄さに一度も観たことのない作品です。(特にヲタクは『アラビアのロレンス』でファンになったピーター・オトゥールが、名優として晩節を汚すような作品に出ている⋯というだけでとても観る気がしなかった)

 

 それが今回、ブラス監督が意図した芸術的構想に沿って、90時間以上にも及ぶ未公開・未使用フィルムから再構築され、全く別物に生まれ変わった------との評判を聞きつけ、それでもちょっと(怖いもの見たさ)の気持ちもありつつ😅配信で鑑賞した次第。

 

 ネットで調べたところ、『究極版』は

・ポルノシーンを極力削った

・杜撰にカットされたシーンが復元され、ストーリーの流れが把握されやすくなった

・引きのカットが多く使用され、俳優たちの演技が観やすくなった。

という特徴があるそうです。

 

そして結論から言うと---------

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絶対的な権力は、絶対的に腐敗する

という、ティント・ブラス監督の当初の意図が生かされた歴史超大作になっています。

 

★英国の名優2人-------ピーター・オトゥールとジョン・ギールグッド

 政治闘争に嫌気がさし、ロードス島に隠棲して酒池肉林の生活を送るティベリウス帝(ピーター・オトゥール)。ティベリウスを暗殺して皇帝の印章指環を奪った時点で若きカリギュラは悪魔に魂を売り渡し、ローマ市民を豚呼ばわりするティベリウスと同様、暴君の道を歩んでいきます。性病を患い、余命幾ばくもないのに権力にしがみつくティベリウスの醜悪さをリアルに演じるピーター・オトゥールの鬼気迫る演技は一見の価値あり。

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 ピーター・オトゥール、撮影当時なんと47歳❗️特殊メイクと圧巻の演技力で78歳のティベリウス帝の狂気を演じ切っています。

 

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 絶対的権力の腐敗の象徴的存在がティベリウス帝であるならば、それに対して抗議の自死を遂げるネルバ(ティベリウスに仕える元老院の長老。同僚を反逆罪で9人も処刑されてしまった)を演じたのが、サー・ジョン・ギールグッド(当時75歳)❗️王立演劇学校出身、シェイクスピア劇で見せた重厚な演技は他の追随を許さなかったという伝説の俳優。かのサー・ローレンス・オリヴィエも彼の門下生だったと言われています。

 

 出番は少ないながら、この英国を代表する2人の演技が、『カリギュラ 究極版』作品全体に壮大な歴史舞台劇の印象を与えているのは間違いないでしょう。

 

★若い躍動感-------マルコム・マクダウェルとヘレン・ミレン

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 権力に目が眩み、ティベリウスを部下に代りに暗殺させ、絶対的権力を握ったものの疑心暗鬼に苛まれ、親族や腹心たちを次々と粛清していくカリギュラの狂気。カリギュラの一番恐ろしい点は、権力をまるで玩具のようにもて遊び、次々と人の命を奪っていくところ。地中に埋めた人の頭を巨大な芝刈り機で「刈っていく」凄惨なシーンはその最たるものでしょう。

 

 彼の祖父ティベリウスは民衆を豚呼ばわりしていましたが、カリギュラはもはやそれをも超越し、「モノ」としか見ていないことが露呈されます。ティベリウスの「腐敗」が、カリギュラにおいてはもはや完全なる「狂気」に変貌した、映画中最も衝撃的で象徴的なシーンです。

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 マクダウェルは、狂気の皇帝を笑顔で軽やかに演じており、その「邪気の無さ」がかえって観ているこちら側の背筋を凍らせるのです。このカリギュラの人物像は、『時計じかけのオレンジ』(スタンリー・キューブリック監督。現代の若者の閉塞感と狂気を描いた名作)のアレックス役にも通じるように思いました。

 

 そしてそして、カリギュラ帝の正妻カエソニア役を演じたヘレン・ミレンですよ❗️(ある意味『カリギュラ』はヘレン・ミレン祭りと言っても過言ではない 笑)神に仕える巫女でありながら、「誰とでも寝る」と陰口を叩かれる淫乱な浪費家。台詞は少ないものの、軽佻浮薄なカリギュラを実は陰で繰っているのでは❓️と思わせるほどの目ヂカラの強さは、お見事。

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 ヘレン・ミレン、ヲタク直近で観たのがNTL(ナショナル・シアター・ライブ)『ザ・オーディエンス』のエリザベス2世役ですからね。あまりの落差にのけぞりましたが(笑)、本作の迫真の演技が、彼女の『クィーン』(カンヌ国際映画祭主演女優賞)や『ザ・オーディエンス』の一里塚だった⋯と思うと、感慨深いものがありますね。

 

 ネロやカリギュラ、ティベリウス、カラカラ------ハリウッド大作では、ヒーローを際立たせるヴィランとしてしか描かれない人物たちですが、これほどまでに真正面から、独裁者に潜む危険性を描いた作品は映画史上類を見ないのではないでしょうか。

 

 『カリギュラ 究極版』は、単に古代ローマの歴史物語ではありません。
 人が独裁権力を持った時にどんな怪物になるか

という、今でも世界のどこかで確実に進行している現代の寓話なのです。